2-2 死んだ社畜は村に行く (改訂)
「ほう……これがうちの領地の村か」
俺は周囲の景色を見ながら、そんなことを呟く。
周囲を山に囲まれた盆地に畑が広がっており、そこには様々な作物が育てられているようだった。
南の端の領地ということでてっきり貧乏な領地かと思っていたのだが、案外そういうわけでもないようだ。
畑から収穫量を求めたりすることはできないが、それでも素人目に見てかなりの量を収穫できそうだと思えるのだ。
うちや領民が明日の飯に困るなんてことはそうそうないのではないだろうか?
そんなことを考えながら道を歩いていると喧噪の激しい場所へとたどり着いた。
どうやらここが村の入り口のようだ。
その前でリュコが俺に説明をしようとする。
「ここが屋敷に一番近い村──テキラ村です」
「どんな村なんだ?」
「それは──」
(ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ)
「「っ!?」」
リュコがこの村の説明をしようとした瞬間、大きな爆発音がした。
俺たちは驚いて一瞬固まってしまうが、すぐに爆発音の方向へと駆けだした。
1分もかからないうちに、人混みができている場所にたどり着いた。
わいわいとその人混みは盛り上がっているようだが……
「はんっ、てめぇの魔法なんざ俺の体を傷つけることすらできねえんだよ」
「お前の攻撃こそ俺に届くことすらねえだろう。なんせ魔法で身動きすら取れねえんだからな」
人ごみの奥から大声でそんな会話が聞こえてくる。
一体どうしたのだろうか?
そんなことを考えていると、周囲の人が何か話していた。
「相変わらずマティニとドライの喧嘩は面白いな」
「ああ、そうだな。魔法のマティニ、筋肉のドライという真逆の二人が喧嘩をしていると、見ている俺たちも楽しめる喧嘩になるから楽しみなんだよ」
「たまに周りの村に被害が出るから、それはどうかしてほしいが……」
「いや、それがあるから面白いんじゃないか? 二人の屈強な男が壊した家の人間に頭を下げている姿なんざ、マジで面白いぞ?」
「……壊された方はたまったもんじゃねえぞ?」
話の内容からどうやら二人の男が喧嘩をしているようだった。
といっても、殺し合いに発展するようなものではなく、この村で日常的に行われている──そんな喧嘩のようだ。
まあ、それなら安心なのだが、ただ一つだけ言いたいことがある。
家が壊れるなんてどんな喧嘩をしているのだろうか?
とりあえず、俺もどんな喧嘩をしているのか気になったので見てみようと思ったのだが、人混みが高すぎて子供の俺は見ることができない。
仕方なく土魔法で土台を作って、人混みの上から見ることにした。
もちろん、リュコの分も作ってあげた。
「相変わらずなよなよした体だな。男は筋肉をつけてなんぼだろう」
「ふん、筋肉をつけすぎて脳まで筋肉になってしまったのだろう? だから、そんなバカな発言しかできないのだ」
「はあ? てめえは筋肉がなさ過ぎて、自分の力じゃ、重いものすら運べないだろう」
「そのために魔法があるのだよ。普通に力で運ぶより楽ができるから、魔法の方が優れているんだぞ」
人ごみの向こうにいるのは二人の男だった。
一人は黒髪オールバックでクールな雰囲気のある細身の男性だった。一言でいうなら、まさにイケメンと言った感じのかっこいい感じである。
そんな彼の頭には悪魔のような角があった。いわゆる魔族という種族なのだろう。
もう一人の男性は熊のような大柄な男性だった。普段から鍛えているのだろうか、服の上からでもわかるほどの盛り上がった筋肉に獰猛な肉食獣を思わせるようなワイルドな顔──前者とは違うが、こちらもかっこいいと思う。
熊のような大柄な男といったが、実際に彼の頭には熊のような耳があった。こちらは熊の獣人といったところだろうか?
そんな対照的な二人が睨み合いながら対峙しているわけだ。
ルックスを見ただけでもあまり仲がよくないだろうと思うが、本当にこんなにわかりやすい関係はあるのだろうか?
そんなことを考えていると、周囲の人間は会話が聞こえてきた。
「しかし、幼馴染の二人はどうしてこんなに仲が悪いかな?」
「子供のころはそうでもなかっただろう?」
「たしかにそうだったかもしれないな。昔は他の子供たちと一緒に遊んでいた印象が……」
「仲が悪くなったのって、ここ数年だった気が……」
どうやらこの二人は昔は仲が良かったようだ。
というか、幼馴染だったのか……
しかし、どうしてこの二人の仲が悪くなったのやら……
「もう一発食らいやがれっ」
「ははっ、こいよ。てめぇの魔法なんか、俺にダメージを与えることすらできねえほどへぼい事を思い知らせてやるよ」
二人の言い争いもヒートアップしていき、とうとう細身の男が魔法を放とうとした。
魔力の属性からおそらく炎属性の魔法を使おうとしているようだが……
「燃え盛る火炎よ 貫け 槍の如く 【火炎槍】」
男が右手を掲げて呪文を唱えると、そこには2メートルほどの炎の槍が現れた。
しかも、かなりの魔力がこめられているのか、轟々と燃え盛っていた。
おそらくあんなものを生身で喰らってしまったら、普通ならばひとたまりもないと思うのだが……
「死ねやっ!」
不穏な言葉と共に細身の男が炎の槍を投げつける。
130キロぐらいだろうか、ものすごい勢いで炎の槍は大柄の男の方に向かっていき……
「フンッ」
男は槍の腹を殴って、方向を大きく変えた。
大柄な男も流石に無傷とはいかなかったようで、右手は炎に包まれていた。
なんという無茶を……そんなことを思ったのだが、すぐにそうもいっていられない状況になっていることに気が付く。
「「「「「うおっ!?」」」」」
「?」
目の前の人混みがいきなり割れた。
一体、どうしたのだろうかと思ったのだが……
(ブワッ)
人混みの割れたところから炎の槍が向かって飛んできていたのだ。
おそらく、大柄の男が殴ったことで方向が変わったため、こちらの方に向かって来ているのだろう。
その炎の槍の危険性に気が付いていた人間たちはすぐに回避行動をとったわけだが、この状況を初めて見る俺はすぐにそういう判断をすることができなかった。
「グレイン様、危ないっ」
俺の危険に気が付いたリュコが慌ててこちらに向かおうとしていたが、俺の作った段差のせいでバランスを崩してしまった。
慌てていたせいで自分が段差の上に乗っていることを忘れていたのだろう。
まあ、仕方がない事だろう。
そんなことを考えているうちに炎の槍がどんどん近づいてきている。
男が殴ったおかげでスピードは遅くなっているが、だからといって魔力が減っているわけではない。
当たれば、たとえ俺でも大変なことになってしまうだろう。
だが、俺は……
(ガシッ)
「ふむ、すごい威力だな……兄さんどころか母さんたちにも使えないんじゃないだろうか?」
あっさりと炎の槍を掴み、その魔力を感じながらそんなことを呟いた。
掴んでみて分かったのだが、この炎の槍は想像以上に魔力が練られていた。
少なくとも直撃すれば、消し炭すら残らないほどの火力になってしまっていた。
こんな魔法をたかが喧嘩で放つなんて、あの細身の男は何を考えているのだろうか?
まあ、それを拳一つではじいた大柄な男も異常ではあるのだが……
「「「「「はぁっ!?」」」」」
そんな光景を間近で見た村人たちは驚愕な表情で俺のことを見ていた。
「えっ!?」
そして、そんな周囲の反応を見た俺も驚いてしまった。
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