5-81 死んだ社畜は恋愛相談をする?
「おい、お前」
「ん?」
シャルロット王女とイリアさんとの会話が終わり、カルヴァドス男爵家の者たちがいる場所に戻ろうとしたのだが、その前になぜか声をかけられた。
振り向くと、そこには先ほどシャルロット王女の言葉に撃沈していた男の子たちがいた。
よく見ると、先ほどアリスたちに話しかけようとしていた男の子たちもいる。
さて、一体どういうことだろうか?
「ちょっと来てもらおうか?」
「えっと……どういう理由で?」
一応、聞いておくことにする。
彼らが俺に危害を加えることはでき……ないわけではないが、ほぼ100%の確率で返り討ちにあってしまうだろう。
そのため、あんまり心配することはないのだが……
「男爵家の次男程度が気にすることではない。素直に僕たちの命令に従えばいいんだ」
「はぁ……」
男のことの言葉に俺は仕方なく頷く。
こういう場で実家の権力を持ち出すとは、あまりいい男ではないな。
そういうのが、こいつ自身の男の器を下げるのだ。
呼びつけるにしても、もう少しかっこいい言い回しをした方が良いのではないだろうか?
「なんだ、その顔は? ふざけているのか?」
「いえいえ、そんなことはないですよ? ついて行けばいいんですよね?」
「ああ、そうだ。最初から素直にそう言っていれば……」
「……」
男の子の言葉に俺は何とも言えない表情を浮かべてしまう。
一回質問しただけで、なんでそんなことを言われないといけないのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は男の子たちの後をついて行った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ここは……」
俺は目の前の光景を見て、少し驚く。
城の中を歩くこと20分ほど、城の中心から外れた場所にある建物の中に俺は連れてこられた。
そこは石の壁が高く積み上げられており、地面にも砂が敷き詰められていた。
所々に金属片が……おそらくこれは武器から零れ落ちたものだろうか?
どことなく汗のにおいが漂っている。
ココから導き出される答えは……
「練兵場か?」
俺はその答えに辿り着いた。
練兵場とはその名の通り、兵が鍛錬する場所である。
この王城ではつまり騎士団の人たちが訓練する場所で、おそらく毎日のように厳しい訓練を続けているのだろう。
そんな彼らが王城の中や王都の街を守っているわけだが……
「よく気が付いたな? 国の端にある木っ端男爵家の人間でも練兵場の存在は知っているようだ」
「「「「「あはははははっ」」」」」
男の子の言葉に周囲の少年たちも嘲笑する。
はぁ……流石にそれぐらいは誰でもわかるだろう。
なのに、そこまで嘲笑する意味が分からない。
まあ、気にしても仕方のない事なので、俺は一つ気になったことを質問するとしよう。
「それで、どうして僕をここに? 練兵場は誰でも入れるような場所だとは思いませんが……」
練兵場は騎士団の人が訓練する場所であり、騎士団の者なら誰でも入ることができる。
だが、誰でも入れるといっても、常に入れるわけではない。
この中には武器や防具など金になるものがたくさんあり、それらを盗まれてはいけない。
個人のものは所有者が管理しているが、ここには城の備品として保管されているものもあるはずだ。
そういうものを窃盗から守るためにも、普段は扉が閉められていると思われるが……
「僕の兄は騎士団に所属しているからな、鍵を借りてきたのさ」
「へぇ……」
男のことの一人の言葉に俺はどう反応していいのかわからなかった。
いくら身内とはいえ、練兵場の鍵を渡していいのだろうか、と。
バレたら確実に罰を受ける類の内容だろう。
まあ、それは名前も知らない騎士団員の話なので、放っておくとして……
「僕の兄さんは騎士団の中でもトップクラスのエリートだからな……将来は近衛兵として活躍するはずだ」
「……そんな人が弟に練兵場の鍵を渡すと思わないけど?」
「なんか言ったか?」
「……いえ」
思わずツッコんでしまった。
考えても仕方がないと思っていたのに、つい気になることを言っていたので反応してしまったのだ。
俺は悪く無い。
悪いのは向こうだ。
「それで、どうして連れてこられたかを気になっていたようだな」
「まあ、そうですね」
リーダーらしき少年が俺に話しかけてくる。
ああ、そういえばそれも気になっていたことだな。
騎士団云々の話が気になりすぎて、忘れていたが……
どうして俺がここに連れてこられたかについて、しっかりと説明してもらわないと……
「ははははははっ」
「?」
リーダーらしき少年がいきなり高笑いし始めた。
なんだ?
なにか呪いでもかけられたのか?
そんなことが心配になるぐらい、いきなりだった。
だが、それは杞憂だったようだ。
「お前も馬鹿だな。男爵家の次男の癖に立場もわきまえていないから、こうなるんだよ」
「立場? それはきちんとわきまえているつもりですけど……」
「嘘をつくなっ!」
「はぁ……」
きちんと弁解しようとしたのに、叫ぶような否定の声に俺は黙り込むしかなかった。
しかし、一体彼らは何を言っているのやら……
「立場をわきまえていたら、お前なんかがシャルロット王女やイリア様と仲良くなれるはずがあるかっ!」
「そうだ。しかも、親が英雄だからという理由で、周りにあんな女の子をたくさんはべらせているなんて……」
「しかも、全員可愛いじゃないかっ!」
「「「「「そうだ、そうだ」」」」」
「あぁ、なるほど」
ようやく状況を理解できた。
おそらく彼らは俺のことを嫉妬しているようだった。
俺の周りに可愛い女の子がたくさんいることが気に食わないのだろう。
だが、その程度でこんなことをしなくても……
「貴様のような人間がいるから、僕たちに可愛い婚約者ができないんだ」
「そうだぞ。僕なんか会ったことも聞いたこともない令嬢と婚約するんだぞ?」
「僕なんて、付き合いの長い家の人間だからって、生まれて間もない娘さんと婚約することに……」
「私は行き遅れで有名な令嬢と婚約させられましたね。先方から土下座までされて……」
おうおう、聞いていると悲しくなる婚約事情だな。
正直、涙が出そうになる。
彼らが嫉妬する気持ちもわからないではない。
とりあえず、俺の言えることは……
「そこの君」
「なんだ?」
「会ったことも聞いたこともない令嬢と言っていたが、それは君の情報集め不足だろう? どこぞにその令嬢の情報は転がっていると思うぞ?」
「なっ!? なんでそんなことがわかるんだよ?」
「完全に隠すことなんて無理だからですよ。とりあえず、探してみればいいと思いますよ」
「う……わかった」
「次に君」
「な、なんだよ?」
「生まれて間もない女の子と結婚と言っていましたが、案外悪く無いのではないですか?」
「は? 一体、どういう……」
「それだけ年下の女の子だということは、君が年老いても妻は若々しい可愛らしい姿でいてくれる、ということです。それだけで目の保養になるのでは?」
「な、なるほど……」
「最後に君」
「なんだい?」
「君、本当に婚約が嫌なの?」
「どうしてそう思った?」
「いや、話している時にそこまで悲壮感が見えなかったから……もしかして、年上好き?」
「まあ、そうだね。流石に親子ほど年齢が離れているのはどうかと思うけど、10やそこらだったら、姉のように思えるね。僕は長男で跡取りとして厳しく育てられてきたから、そういう姉のような人に甘えたいよ」
「いや、性癖をそこまで暴露しなくても……」
俺は嫉妬に駆られる少年たちの問題を解決することができた。
まあ、一人は問題かどうかすら怪しかったが……
どちらかというと、性癖を暴露した瞬間の周囲の視線の方が問題だと思ってしまった。
しかし、これで安心……
「こいつらの婚約話は関係ないだろっ」
とはいかなかったようだ。
リーダーの男が俺に文句を言ってくる。
「はぁ……これ以上何か?」
「そもそもお前が周りに可愛い娘を、はべらかしている方が問題なんだよ」
「それが何か? 彼女たちは自分の意思で僕の周りにいると思いますが……」
「嘘をつけっ! 誰が好き好んで男爵家の次男坊なんかの周りにいるんだよっ」
「さぁ? なぜかは知りませんけど、彼女たちはいるんですよね」
「ちっ!?」
舌打ちをされた。
相当ムカついたに違いない。
俺としては当たり前のことを言っただけなのに……
「ああ、もうムカついた。お前はここで痛めつけてやる。いいな、お前たち」
「「「「「おおっ」」」」」
リーダーの言葉に周りの少年たちは賛同していた。
うわぁ、めんどくさい。
唯一の救いは先程俺が悩みを解決してあげた少年たちは賛同していなかったことだろう。
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