5-77 死んだ社畜は面倒な連中に絡まれる
「ん?」
イリアさんとキュラソー公爵からようやく解放されて元の場所に戻ったら、そこで意外な光景が目に入った。
「君たち、可愛いね。暇だったら、僕たちと一緒にあっちで話さないか?」
「遠慮させてもらうわ」
「大人たちが交流している間は子供たちって暇になるし、子供たちで交流しないかい?」
「行くつもりはないわ。私たちは私たちで楽しむわ」
なんとうちの女性陣を貴族の子供がナンパしているからだ。
年齢は10~14歳ぐらいの男の子が6人いる。
まあ、彼女たちのルックスを見れば、仲良くなりたいと思うのは当然だ。
中身は普通の人にとって扱うことは難しいが……
さて、どうするべきだろうか?
今はアリスとティリスが断っているようだが、ナンパしている方もそう簡単に引く様子はない。
なら、俺が止めに入るべきか……
「あっ、グレイン!」
とここで、ティリスの後ろに隠れていたレヴィアが俺に気が付き、慌てて近づいてきた。
その行動のせいでその場にいた子供たちの視線が俺に向く。
そして、彼らの表情は怒りの感情が浮かんでいた。
うわぁ……めんどくさい。
「遅いわよ、グレイン。一体、どこで何をしていたのよ」
「ええ、そうね。私たちを放ってどこぞをほっつき歩いているなんて、婚約者失格よ?」
「ごめん、ごめん」
文句を言ってくるアリスとティリスに謝罪の言葉を告げる。
だが、そもそも彼女たちに文句を言われるようなことなのだろうか?
俺は爺ちゃんの頼みでこの場を離れており、その時に離れることを伝えていた。
その後にキュラソー公爵家の人たちと交流するのも、俺の立場ではやらないといけないことだった。
だから、こんな風に文句を言われる筋合いはないわけだが……
「「「文句ある?」」
「……いえ、なにも」
当然、俺が文句を言えることはできなかった。
完全に尻に敷かれてるなぁ……
「おい、お前」
「ん? なんですか?」
うちの女性陣と会話しているとナンパしていた子供の一人が俺に話しかけてきた。
俺はなんの感情も表に出さず、返事をする。
そんな俺にその子供は怒りの表情を浮かべ、はっきりと宣言してきた。
「僕たちが先に声をかけていたんだぞ? 後からやってきたくせに横取りなんてずるいだろう」
「はぁ……」
「な、なんだよっ!」
俺がため息をついたのを見て、その子供の表情はさらに怒りが増していた。
俺の反応がムカついたのだろう。
だが、ムカついているのはこっちも同じである。
「別にどっちが先に声をかけていたかとか関係ないだろう? 誘われてついて行くかどうかは女の子たちが決めることなんだから……」
「そうかもしれないけど、横取りしたことには変わりないだろう? さっきまで僕たちが誘おうとしていたのは事実なんだから……」
「こっちに来ている時点で断られてると思うけど?」
「うぐっ」
俺の指摘に子供たちは言葉を失う。
彼らの理論は杜撰すぎる。
先ほどまでイリアさんと話していたせいで、彼らの言っていることが支離滅裂であるように感じてしまう。
まあ、この年頃の子供だと、これが普通か?
俺やイリアさんがおかしいのかもしれない。
「そもそも君たちが彼女たちを楽しませることができるとは思わないな」
「なに? それはどういうことだよっ!」
俺の言葉に話していた子供だけではなく、その取り巻きたちも怒り始めた。
まあ、年下であろう俺に馬鹿にされたのだから、ムカつくのは仕方がない。
だが、俺だって何の理由もなく馬鹿にしたりはしない。
「君たちは彼女たちを会話に誘っていたようだけど、どんなことを話すつもりだったのかな?」
俺は男の子たちに質問をする。
もちろん、この質問をした時点で彼らからまともな答えが返ってくるとは思っていない。
「それはもちろん、僕の領地の名物などについて話そうとしていたんだよ。領地にはリクール王国の中でも有名な海岸があって、男女問わず楽しめるような場所があるんだということを伝えようとしたんだ」
「僕の領地は宝石の原石をたくさん採掘できるから、大きな宝石を安く手に入れることができるんだ。そんな宝石を見てみないか、と誘うつもりだったよ」
やはり俺の予想通りだった。
彼らはアリスたちのことを全く理解していない。
いや、ナンパで声をかけていた時点で彼女たちのことを理解できていないのは当然か?
しかし、知らないのであれば、知る努力はするべきだろう。
「はぁ……それでよく女の子を誘おうと思ったよね?」
「僕たちのことを馬鹿にしているのか?」
「女の子は宝石とか好きだろう? だったら、こういう誘い方でついてくるはずだろう」
俺の反応に男たちが怒り始めた。
口々に俺に対する悪口を言ってくる。
流石は子供──やり方が稚拙である。
ブラック企業で働いてきた俺の心はその程度ではかすり傷すらつかないぞ?
まあ、だからといって悪口を言われ続けるのは気分の良いものではないので、説明してあげることにする。
「海とか宝石で女の子を誘うことについては悪く無いと思うよ? そういうのが好きな女の子は結構いると思うしね?」
「お前も認めているじゃないか? 何も悪いことないじゃないかっ!」
「もしかして、自分の領地にはそういうものがないから、うらやんでいるんじゃないのか? だから、無理矢理割って入ってきたんだろう」
俺の言葉に彼らはさらに文句を言ってくる。
こいつら、話を聞いているのだろうか?
俺は別にこいつらの誘い文句に使った内容について文句を言うつもりは元々なかった。
というか、いつの間に俺がうらやんでいる立場になっているのだろうか?
本気でこいつらの目が心配になってしまう。
だが、ここで怒りを露わにするのはやめておこう。
俺が怒っても何の状況の改善にもならないからな。
「話を聞いてる? 僕はあくまでそういうのが好きな女の子が結構いるって言っただけだよ?」
「一緒のことだろう? お前が認めていることにはかわりないだろう」
「いや、あくまで一般論で言っただけだよ。とりあえず、その口説き文句ではこの娘たちは誘いにのるはずがないんだよ」
「はぁ? どうしてそんなことが言えるんだよ」
俺の説明に男の子たちが怪訝そうな表情を浮かべる。
本当に理解できていないようだ。
まあ、自分の領地の特産物を自信満々に告げ、それを理由に女の子を誘おうとする連中だ。
理解できなくても仕方がない事かもしれない。
というか、男の子たちはまるで自分たちの領地のように言っていたようだが、実際には君たちのお父さんが経営している領地だからね?
いくら子供だからといって、君たちが好き勝手出来るとは限らないと思うんだけど……
それを指摘するのはやめておこうか。
とりあえず、彼らに現実を突きつけるために、俺はアリスたちに質問をする。
「好きな事、したい事はある?」
「戦闘訓練」と言ったのは、アリスとティリス。
「魔道具がほしい」と言ったのは、レヴィア。
この答えを聞いた男の子たちの表情が強張った。
ようやく俺の言ったことが理解できたのだろう。
そんな彼らに俺は再び向き直る。
「ほら、君たちの誘い方だとついてこない理由がわかったでしょ? とりあえず、これ以上恥をかく前にココから離れた方が良いんじゃない?」
「くっ!? 覚えておけよっ!」
俺の言葉を聞き、男の子たちは捨て台詞を吐きながらこの場から離れていった。
全員が俺のことを親の仇を見るような目で見てきていた。
正直、そんな悔し気な表情を向けられると、なんだかスカッとした気分になってしまう。
もしかすると、ストレスが溜まっていたのかもしれない。
そうだ、気になったことを質問しないと……
「それで一つ聞きたいんだけど……どうしてシリウス兄さんも誘われていたの?」
先ほどからレヴィアと一緒に隠れるようにいたシリウスに聞いてみた。
彼がいるはずだったのに、どうして男の子にナンパされるような状況に陥ったのか、疑問に思ったのだ。
そんな俺の質問にシリウスは苦々しげな表情で答える。
「……僕が聞きたいよ。なんか僕も女の子だと思われたんだけど……ちゃんと男物の服を着ているのに……」
「あぁ……どんまい」
俺は彼を励ます簡単な言葉しか言えなかった。
これについては何と言っていいのか、今の俺には思いつかないからだ。
とりあえず、励ますことにしよう。
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