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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第二章 小さな転生貴族は領地を歩く 【少年編1】
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2-1 死んだ社畜はのんびりできない (改訂)


 4歳になって三ヵ月が経った。

 だからといって、今までと何かが変わったというわけではない。

 相変わらず俺はぐうたら生活しようとしているが、それを両親たちが許してくれない。

 正確に言うと、俺に対して期待しているため、無理矢理いろんなことを詰め込もうとしてきているのだ。

 しかも、なまじ俺に才能があるせいか、詰め込まれたことをほとんど身に付けてしまい、さらに大人たちの期待を煽ってしまう。

 手加減をすればいいのかもしれないが、これも前世での癖か手を抜くことができないのだ。

 その悪循環のせいで俺の異世界スローライフは遠ざかっているわけだ。


 最近では、両親たちに加えてアリスも俺のスローライフを送ることへの障害になっている。

 なぜなら、彼女はシリウスに負けたことをきっかけにさらに近接戦闘の訓練に打ち込み始めたのだ。

 そして、その相手に俺を選ぶようになっていた。

 父親であるアレンと今まで訓練をしていたのだが、それはあくまで強者に手加減をしてもらっている状況下で攻撃をしているだけだ。

 様々な攻撃手段を身に付けるという点ではよいのかもしれないが、あまり実戦向きとは言えない訓練方法だった。

 彼女は自分から攻撃をすることには長けているが、その分防御がおろそかになってしまっていたのだ。

 それが理由でシリウスに負けてしまった。

 以前の模擬戦闘はその隙を突くような作戦をシリウスが使ったので勝利することができたわけだ。

 この敗北を機にアリスは防御の必要性に気付き、訓練においてただただ攻撃を徹底すると言った方法はとらなくなった。

 だが、防御を訓練するのにアレンは相手としては向いていなかった。

 なんせ彼は手加減をすることが苦手であり、いくらアリスがうまい防御をしたとしてもその防御の上から彼女にダメージを与えてしまうためだ。

 そのため白羽の矢が立ったのが俺なわけだ。

 手加減をするほど力があるわけでもなく、かといって決して近接戦闘において実力がないわけではない俺は訓練相手としてはぴったりだったわけだ。


 シリウスについては、アリスとの戦いを機に魔法の訓練を再開させた。

 才能はあったのだが、今までアリスに負けていたという劣等感から訓練が身に入っていなかったようで、訓練を再開した途端にその頭角を現し始めた。

 訓練を再開して一ヵ月経つと簡単な中級魔法を放つことができるようになり、今では魔法の細かい操作により精巧な氷像を造ることができるようになっていた。

 この前は俺とアリスの訓練を少し離れたところで見ていたので何をしているのかと思っていたのだが、訓練後に彼に近づくと驚いてしまった。

 なぜなら、俺とアリスの訓練の光景を氷像で表していたのだ。

 しかも、氷像というのは止まっている状態を描いているはずなのに、なぜか俺たちが戦っている躍動感をその氷像から感じてしまう。

 どれほどの才能があればこんなことができるのだろうか、芸術方面の才能を持ち合わせていない俺にとっては羨ましい限りであった。

 羨ましくなって思わずシリウスに聞いてみたことがあった。


『こんな才能があるんだったら、兄さんはこの道で食べていけると思うな』

『はははっ、流石にそれは無理だよ。なんたって、自己流で作っているんだからね』

『いや……自己流でこれだけできれば、十分すごいと思うんだけど……』

『それは否定するつもりはないけど、だからといってこの道で食べていけるかどうかは別さ。自己流で物を作るのには限界があるだろうから、誰かに師事した方がいいだろうしね』

『まあ、そうかもね』


 シリウスの言うことに俺は納得するしかなかった。

 たしかに芸術方面で大成するためには大事になってくるのはその道のプロに師事することである。

 いや、別にそれがなくとも大成することは可能なのかもしれないが、それは限りなく厳しい道のりである。

 少なくとも天才という言葉では片づけきれないほどの才能がなければ無理な話である。

 才能がある程度ならば、誰かに師事しなければ大成はしない。

 そのことは流石に俺も理解はしていた。

 だからこそ、彼の才能がもったいないと思ってしまったのも事実である。

 なんせ、カルヴァドス男爵領には芸術方面のプロがいるといった話は聞いたことはない。

 いや、実際に行ったことがないのでその話が本当かどうかはわからないが、師事されるほど有名であるならば家の中にいたって話を聞くことができるはずだ。

 だが、全く聞かないということはやはりうちの領地にはシリウスを大成させるほどの人物はいないのだろう。

 本当にもったいない話である。

 しかし、この事は俺にとって悪い事ばかりではない。

 なんせ、もしシリウスがその道に進むのであれば、自然とカルヴァドス男爵家の次期当主の座から遠ざかってしまう。

 つまり、俺が次の当主になる可能性が高くなってしまうわけだ。

 正直、それだけは避けたかった。

 なんせスローライフを送るために異世界にやってきたのに、どうして領地経営や貴族同士の腹の探り合いなどをしなくちゃいけないんだ。

 俺は自由気ままに生き、そしてのんびりとした生活を望んでいるのに、当主になってしまえばそれすらも失われてしまう。

 前世のような社畜生活ほどではないかもしれないが、別の意味で精神を減らされるような生活になる可能性は高くなるだろう。

 ならば、俺のスローライフを実現するためにもシリウスには諦めてもらうしかないだろう。

 そして、シリウスの次期当主としての立場を盤石にするため、俺がするべきことは……


「グレイン様、だらしないですよ?」

「……いいじゃないか。せっかくの休みなんだから、少しぐらい気を抜いていてもいいじゃないか」


 ベッドで力を抜いて横になっている俺にリュコが文句を言ってくる。

 たしかに端から見ればだらしないのかもしれないが、これは別に何の目的もなくやっているわけではない。

 俺がだらしない姿を見せることにより評価を下げ、相対的にシリウスの評価を上げるためなのだ。

 こうすることにより俺が当主の座から遠ざかり、シリウスが必然的に当主の座に就くというわけだ。

 しかし、そんな思惑をメイドであるリュコが知る由もない。

 彼女にとっては世話をしている俺がだらしない行動をとっていることの方が問題なのだ。


「少しはしゃきっとしてください。もう日が昇ってからかなり経っているんですから、ベッドの上で寝転がるのはやめましょう」

「別にいいじゃん。誰に迷惑をかけているわけでもないし……」

「奥様が心配しますよ? もしかしたら、何か悪い病気にかかったのではないか、と……」

「それはないんじゃないかな……でも、だらしないのはよくないか」

「はい、もちろんです」


 リュコの言葉に納得したわけではないが、流石にだらしなさすぎるのは駄目だと思って体を起こす。

 普段から気の強い母親たちではあるが、意外と子供に対して過保護なところがある彼女だ。

 俺がもしぐうたらしている姿を見れば、何らかの病気になってしまったなどと勘違いする可能性がある。 

 すぐに勘違いであるとわかるかもしれないが、それでもそういう面倒なことはできる限り避けておきたい。

 というか、勘違いされたことで怒られる可能性があるのだ。

 この4年で分かったことなのだが、エリザベスは怒るととても怖い。

 なんせ脳筋で怖いものなど何もないようなアレンですら彼女が怖い顔をすると恐怖に体を震わしているのだ。

 どんな強敵だろうと嬉々として戦おうとするような脳筋なのに、自分の嫁さんにビビっているのだ。

 言葉にすれば面白いのかもしれないが、いざ身近の話になると話は別だ。

 その怒りの矛先がこちらに向くことを考えると、今度は俺の体が震えてしまうのだ。

 ならば、できるだけ怒られるのを避けるように行動するのが当然だろう。

 しかし……


「でも、やることがねえな……今日は近接戦闘も魔法の訓練も休みだしな……」

「では、近くの村に行くのはどうでしょうか? グレイン様も4歳になられましたので、奥様から外出の許可をもらっています」

「ああ、そういえばそうだったね」


 リュコの言葉に俺はエリザベスから外出を許可されていたことを思い出す。

 といっても、もちろん一人での外出を許可されたわけではない。

 当然、リュコを連れての外出である。

 流石に近くにある村とはいえ4歳の子供を一人で外出させるわけがない。

 どんな事件に巻き込まれるか分かったものではないからだ。


「いずれは治める領地ですから、きちんと内情を知っておく必要があります。ちょうどいい機会ですね」

「いや、兄さんがいるから当主になることはないんじゃない?」

「そうでしょうか? シリウス様にも領主としての才覚はあるかもしれませんが、グレイン様の方がはっきり言うとあると思うんですが……」

「そこははっきり言わないでおこうか……兄さんに聞かれたら面倒なことになりかねないし……」

「……はい、わかりました。それでどうしますか?」

「う~ん、そうだな……せっかくだし、外出しようか。ずっと家の中にいるわけにもいかないしね」

「かしこまりました。では、すぐに準備をしましょう」


 こうして俺の初めての外出(監視付き)が決まった。







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