5-66 死んだ社畜は婚約者たちのフォローをする
「へぇ……そんな会話があったんだね」
「うん、そうなんだよ。王族も大変だなと思ったよ」
バランタイン伯爵の屋敷に帰ってきた俺は、夕食と風呂を終わらせた後に子供たちで集まって今日の報告をしていた。
みんな城の中がどんなものかが気になっていたようで、食い入るように聞いてきた。
「まあ、この国の最高権力者の一族だからね、貴族なんかよりもよっぽどいろんなしがらみがあるんだよ」
「そうみたいだね」
シリウスの言葉に俺は納得する。
王族が大変なのはその権力が強大であるが故、だ。
権力が大きすぎるが故に、それにあやかろうとする有象無象が寄ってくるわけで……簡単に言うならば、権力税?といったところだろうか?
「私はそんなことないんだけど……」
「ティリスちゃんだって、そういうのはあるはずだよ? 私にだって、少ないけどそういうことがあるぐらいなんだから……」
「ほんとっ!?」
俺たちの会話を聞いて、ティリスとレヴィアがそんな会話をしていた。
そういえば、この二人も王族──というか、王女様だったな。
しかし、ティリスのその反応はどうなんだろうか?
いくら脳筋国であるビストだったとしても、権力に近づこうという人間はいるだろうに……
「ティリスは近づいてきた人間を遊び相手だと思ってたからね。ティリスの遊びに巻き込まれた子供たちは二度と近づこうとはしなかったわ」
「「「「「えっ!?」」」」」
と、ここでリオナさんにより落とされた衝撃の爆弾発言に子供たちの視線がティリスに向けられる。
いきなり視線を向けられたティリスは慌てて弁解する。
「ちょ……嘘をつかないでよ、お姉ちゃん。たしかに友達はいなくなることは多かったけど、私のせいじゃないと思うわ。別に偉そうにしていたわけじゃないし……」
「人が離れるのは偉そうなことだけが理由じゃないわよ?」
「そうなの?」
「ええ、もちろんよ。乱暴者の近くには誰も寄り付きたくないのよ?」
「私、乱暴者じゃないわっ!」
リオナさんの指摘にティリスは反論する。
しかし、これはリオナさんの言っていることの方が正しいと思う。
「……ティリス?」
「な、なに?」
突然、リオナさんが真剣な表情を浮かべたので、ティリスは気圧されていた。
明らかに今までとは空気が違うと感じたのだろう。
「私の所にどれだけ文句が来たと思う? 「ティリス様は子供相手でも容赦がなさすぎる。少しは王族として教育をしてくれ」ってね?」
「そんな……嘘でしょっ!?」
「お父様やお母さまの所にも来てるはずよ? といっても、治せるとは思っていなかったから、貴女には伝えてこなかったけど……」
「それぐらい治せるわよっ!」
リオナさんの言葉にティリスが大声で反論する。
しかし、悲しいかな、その言葉には真実味はなかった。
「今のティリスにはできるかもしれないけど、昔の貴女には無理よ? だって、考えが幼稚だから手加減って発想がなくて、遊びと言えば戦闘訓練とか言い出す子だったんだから……」
「うぐっ」
リオナさんの指摘がもっともだと思ったのか、ティリスは言葉を失ってしまった。
まあ、これは仕方がない事だ。
ティリスにはその失敗を糧に成長してもらいたい。
「うふふ……ティリスちゃんも少しは王族としての自覚を持たないとね?」
「うぅ……レヴィアぁ……」
微笑むレヴィアを悔し気に見つめるティリス。
こういう面ではやはりレヴィアの方が上のようだ。
いや……そうではないみたいだ。
「レヴィアも同じぐらい問題があったわよ?」
「えっ!? お姉様っ!?」
今度はリリムさんの番だった。
彼女は真剣な表情でレヴィアに向き合った。
「貴女は人との交流をしなさすぎるわ。そのせいで「レヴィア様はもしかして、大病にかかっているのでは?」なんて噂がまことしやかに流れていたのよ?」
「ええっ!? それって、本当なの?」
リリムさんの言葉にレヴィアが大声で驚く。
普段の彼女からは想像もつかない大声だったが、それぐらい驚くべき内容だったのだろう。
「それに部屋から出てこないで姿も全く見せないから、「もしかしたらレヴィア様は架空の存在なのかも?」なんて話が城中どころか国中に広がったことがあったわね」
「ちょ……それは流石に失礼じゃないかな?」
「お父様も研究馬鹿だから率先して否定することはなかったし、そのせいでその噂が止まることなく広がったわね」
「お父様ぁっ!」
リリムの言葉にレヴィアの怒りがルシフェルに向いた。
うん、いくら魔法の研究が好きでも、娘の悪い噂はきちんと対処しようぜ?
といっても、この件でレヴィアがルシフェルに怒るのもお門違いのような気がするが……
「そもそも、レヴィアがあまり部屋の外に出ないことが問題なのよ? 少しは王族としての自覚を持ちなさい」
「ティリスもよ? たしかに戦いの方が楽しいのは獣人族としては当然の感情だけど、だからといって王族としての振舞いをないがしろにしていいわけではないわ」
「「うぅ……ごめんなさい」」
姉たちの言葉に二人は小さくなって謝罪する。
まあ、これは仕方がないだろうな。
姉たちの言っていることはもっともだし、内容も二人にとっても一番の問題点なのだ。
そこをしっかりと治したら、より魅力的になるはずだ。
だが、ここで二人はあることに気が付いた。
「あっ、でも私たちはグレインと結婚するから、王族としての振舞いは必要なくなるんじゃ……」
「そ、そうね。カルヴァドス男爵家の人間になるんだから、王族みたいに振る舞うのはおかしい……」
「「そんなわけないでしょっ!」」
「「ひぃっ!? ごめんなさいっ!」」
二人の思いついた内容は姉たちによってすぐに否定されることになった。
うん、これは当然である。
恐怖で震える妹たちに姉たちは仁王立ちで説明する。
「カルヴァドス男爵家は人間国の中では位の低い貴族かもしれないけど、だからといって王族としての振舞いをしなくていいわけではないわ。というか、そもそも男爵領は人間・獣人・魔族の交流の要になる場所なんだから、そこに嫁いで今まで通り過ごすことができると思わない方が良いわね」
「そうですね。それに貴女たちがきちんとした礼儀作法などをしなかったら、王家だけではなくカルヴァドス男爵家にも迷惑がかかるのよ? それはきちんと理解しているの? 別に王家が批判されようが今更痛くもかゆくもないけど、カルヴァドス男爵家は色々と注目を集めやすい家なんだから、そういう攻撃の材料を与えてはいけないの」
「「う、うぅ……」」
姉たちの言葉に妹たちは頭を抱える。
完全に藪蛇だったようだ。
正直、見ていてかわいそうになってしまった。
婚約者として、助け船を出すとするか……
「お二人とも、これ以上はよしましょう」
「どうして止めるのかしら?」
「今日こそ、きちんと意識改革をしないと……」
俺の言葉に二人は若干怒りが混じりながら反応してくる。
そこには「邪魔するな」といった内容が言外に伝えられてきた。
だが、ここで退くわけにもいくまい。
「お二人の気持ちはよくわかります。妹のことが大事だからこそ、こうやって指摘しているんですよね?」
「分かっているんだったら、止めないでくれる?」
「ええ、そうね。こういうのは時間がかかるから、今からでも遅いぐらいだわ」
「安心してください。二人は大丈夫ですから」
「「「「えっ!?」」」」
俺の言葉に姉たちどころか、妹たちの視線もこちらに向いた。
綺麗な女性から視線を向けられるのは何ともむず痒い感覚があるが、ここは我慢して説明する。
「僕の婚約者は二人だけではなく、メイドのリュコがいます。彼女はメイドですので、貴族としての振舞いには慣れていません」
「ええ、そうね? だからなんなのかしら?」
「いくら婚約者の一人が貴族の振舞いになれていないからといって、この二人がそれをおろそかにしていい事にはならないと思うわ」
「それはもちろんですよ。僕が言いたいのはリュコは貴族としての振舞いを母さんたちから習う予定ですから、それと一緒に二人も習えばいいんですよ」
「「っ!?」」
俺の言葉に二人は目から鱗とばかりに目を見開いた。
完全に考えていなかったのだろう。
「なるほど……冒険者から貴族の夫人になったエリザベス様なら、この子たちの立派な目標になるわね」
「しかも、伯爵家出身のクリス様だったら、きちんとした礼儀も理解できているはずだわ」
「ええ、そういうことです。納得してくれましたか?」
「「ええ、もちろんよ。妹たちのことをよろしくね」」
俺の言葉に二人の姉は笑顔で答えた。
どうやらこれで満足してくれたようだ。
はぁ、よかった。
あとは……
「「……」」
こちらを無表情で見つめてくる二人にフォローをしないと……
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