5-65 死んだ社畜は自身の評価を再確認する
「シャルロットも今年で10歳──王立学院に通うことになります。あそこは王都の中でも最も安全な場所と言われていますから、シャルロットの身の危険については心配していません」
「まあ、そうだろうな。あそこは王都どころかこの世界でもトップクラスの安全性だということは、王都どころかリクール王国中──いや、他国にも知れ渡っているぐらいだからな」
国王様の言葉にアレンが頷く。
俺はその会話に思わず驚愕してしまう。
王立学院というのはそんなに安全な場所だったのか?
てっきり、このリクール王国で一番安全なのはカルヴァドス男爵領だと思っていた。
なんせ、英雄であるアレンが守っているのだから……
しかし、それは間違いのようだった。
他の大人たちもアレンたちの会話にうんうんと頷いていからだ。
王立学院に一体何が……
「私としては、シャルロットに友達を作って欲しいわけですよ」
「おいおい、もうすでに合格しているつもりか? あそこはたとえ王族でもしっかりと試験をしているんだから、不合格の可能性もあるだろうに……」
「それについては心配していないですよ。きちんと幼いころから勉学については専門の家庭教師を揃えていますから、どれだけ落ちこぼれだろうとも王立学院に不合格になることはないはずですよ」
「ちなみに、そのシャルロット様はどのレベルなんだ?」
「家庭教師の話では、天才がいなければ学年トップを狙える位置にいると聞きました」
「ほう、それはすごいな。だったら、うちのシリウスとライバルになりそうだ」
「シリウス? グレイン君ではないんですか?」
アレンの言葉を聞き、国王様が俺に視線を向けながら聞いてくる。
あれ、勘違いをしていない?
そんな国王様の質問にアレンは苦笑しながら答える。
「残念ながら、こいつはまだ8歳だよ。大人びて見えるが、まだ正真正銘の子供さ」
「8歳ですかっ!? これは驚いた……というか、先輩はそんな子供を戦場に連れ出したんですか?」
「仕方がないだろう。こいつがついて行きたいといったんだから……」
「だからといって、連れて行くのは駄目でしょう? 親としてしっかりと断るべきだと……」
「……最適な作戦を立てられるんだよ、グレインは」
「……それはすみません」
矢継ぎ早に文句を言う国王様だったが、アレンの暗い返答に納得せざるを得なかったようだ。
どうやら国王様もアレンたちの脳筋ぶりを知っているのだろう。
まあ、冒険者としての後輩であるならば、知っていてもおかしくはないだろう。
「まあ、とりあえず今年に俺の子供であるシリウスとアリスが入学するから、王女様を気にかけておくように伝えておくさ」
「ありがとうございます。というか、先輩もすでに子供たちが受かるつもりじゃないですか?」
「そりゃそうだろう。シリウスは勉学と魔法に秀でているし、アリスは苦手な勉学を類稀なる戦闘のセンスでカバーしているんだ。そんな二人が試験に落ちる姿が想像できないんだよ」
「親馬鹿ですね」
「お前に言われたくはないな」
二人はそんなことを言いながら、大きく笑う。
どっちもどっちだと思う。
まあ、子供の話となれば、自然とこうなるのだろう。
子供がいたことがない俺には父親の気持ちというのはわからないが……
「そんな二人がいるのであれば、シャルロットも安心ですね。身近な護衛という点でも、友達という点でも……」
「ああ、よかったな」
「しかし、親としてはもう少し安心したい気持ちもありますが……」
「王族であるならば、仕方がない事だろう。そう簡単に権力を気にしない輩を見つけるのは難しいぞ」
「ええ、そうですね。その点では先輩の家族は非常に条件がマッチしているわけですが……」
「あいにくと、今年入学するのはその二人だけさ」
国王様の言葉を聞き、アレンが苦笑いする。
親としての心配を理解しつつも、難しい事を理解しているのだろう。
そんな中、国王様がこちらに視線を向ける。
「グレイン君、飛び級で入学しませんか?」
「……ご遠慮しますよ。そんなことをしたら、かなり目立っちゃうじゃないですか?」
国王様の提案をバッサリと切り捨てる。
飛び級というものには少し憧れはあるが、だからといってわざわざ他者からの注目を集めるような真似はしたくない。
この世界に転生したからには、スローライフを送りたいのだ。
将来の安定性と安全性という意味で学院に通うつもりで入るが、わざわざ飛び級してまで入ろうとは思っていない。
そういう意味で断ったわけだが……
「飛び級できない、とは思ってないんですね?」
「それは当然さ。なんせ、こいつはカルヴァドス男爵家始まって以来の神童だからな」
「それはすごい……というか、そもそもカルヴァドス男爵家ができてからそこまで時間は経っていないですよね?」
「はははっ、よく気づいたな。だが、グレインの実力については冗談じゃないぜ」
「……そうなんですか?」
「ああ、もちろんさ。俺とリオンにより戦闘訓練を行い、ルシフェルと魔法談義ができる。さらに、クリスやエリザベスが驚くほど勉学もできるから、すでに王立学院の生徒の中でそれぞれの分野でグレインよりすごいやつは少ないんじゃないのか?」
「……えっと、それは親の贔屓目ですか?」
「いや、贔屓目抜きで、だ」
「……どう評価すればいいか、わからないですね」
アレンの説明に国王様は呆れたような表情を浮かべる。
しかし、アレンが嘘をついているとは思っていないようだ。
俺への評価を真っ向から受け止めたため、そんな反応になってしまったわけだ。
「まあ、グレインが嫌ならば、飛び級などはさせないさ」
「本人の希望は大事ですからね……まあ、これ以上は諦めましょう、下手につついて、藪蛇にはなりたくないですからね」
「ああ、そうしてくれ。グレインが怒ったら、対処するのは大変なんだよ」
「へぇ、そうなんですか?」
「いや、何言ってるのっ!?」
アレンの言葉に国王様は驚き、俺は思わず文句を言ってしまった。
先ほどまでは俺の実力がすごいという話だったのに、なぜかアレンは俺のことを問題児のように言いやがった。
流石にその評価には文句を言いたい。
「お前に本気を出されたら、俺もリオンもルシフェルも無傷ではすでに対処することはできないはずだ。グレインにはすでにそれぐらいの実力がついている」
「いや、訓練でまだボコボコにされているんだけど……」
「それは訓練だからだろう? 実戦でルールもなしに戦えば、お前のようになんでもできるやつは数えきれないほどの作戦を考えることができるはずだ。俺たちはそれに対処しないといけないわけだから、無傷では難しいと言っているんだ」
「確かにそう考えると……」
アレンの説明に俺は納得してしまった。
たしかに今の俺はなかなか異常な存在だ。
戦闘技術も魔法もそれぞれの分野のトップクラスの人間に教わっている。
しかも、前世の知識による考え方のおかげで、この世界の人間では考えつかないような作戦を思いつくことができる。
そう考えると、アレンの評価はおかしくはないのかもしれない。
普段から訓練でボコボコにされていたから、感覚が麻痺していたようだ。
まあ、アレンたち規準の感覚の時点で、世間一般の感覚とはずれているわけだが……
「……グレイン君には紐をつけておいた方がいいかもしれませんね」
「ああ、それは同感だ。こいつが大人になったら、誰も対処ができなくなるんじゃないのか?」
「娘の誰かを嫁に……いや、それはかわいそうか?」
「いや、二人とも失礼すぎないかな?」
本人を前になんて会話をしているんだ、この二人は。
思わず俺はツッコんでしまった。
しかも、そんな二人の会話を聞いてリオンとルシフェルは爆笑し、エリザベスとクリスはどう反応すればいいのかわからない表情を浮かべている。
リヒトは我関せずで、シルトさんは優し気に微笑んでいる。
妹たちは話の内容を理解できなかったようで、すでにうとうととしていた。
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