5-64 死んだ社畜は王家のお家事情を知る
「第一王子のキースと第二王女のシャルロットは私とエメリアの間に生まれた子供だ。エメリアは侍女として俺のことを小さいころから世話してくれた姉のような存在で、昔はエメリアと結婚するとよく言っていたものだな」
国王様はシャルロット様の説明をしながらも惚気始めた。
うん、そういう話は今はしないで欲しい。
というか、この人は恥ずかしいと思わないのだろうか?
おそらく、そのエメリアさんという人がいたら、この話を聞いて恥ずかしがる可能性が高いと思う。
「それは知っているな」
「ああ。エメリアも俺たちの後輩にあたるし……」
「可愛らしい女性でしたよね?」
アレンたち男性陣からの反応はこんなものだった。
どうやら大人たちはそのエメリアさんという人物を知っているようだった。
まあ、未来の国王が護衛もつけずに冒険者などやるとは思えない。
おそらく、エメリアさんはお目付け役だったのだろう。
「冒険者をやめてから何年かして俺が国王様になった。そのときにエメリアからは関係を断つように言われたんだよ」
「まあ、当然でしょうね。いくら仲が良いからって、子爵家の人が国王様と結婚できるはずがないし……」
「まあ、普通はそうなんだが……そこは俺の権力でごり押したよ」
「うわ……職権乱用……」
国王様のセリフにエリザベスとクリスが若干引いていた。
女性から見て、あまりよろしい行為ではないようだ。
てっきり自分と結婚するためにいろいろと頑張ってくれる男性は評価が高いと思っていたが、案外そういうものではないのかもしれない。
俺はそういう風にはうごかないようにしよう、そう誓った。
といっても、すでに婚約者がいる時点でその心配はないが……
「周りの貴族には色々と言われたよ。そして、エメリアは側室──しかも、最下位の側室として扱うように言われたよ。一番愛しているはずなのに、な」
「陛下はどの程度奥さんがいるんですか?」
「正室、側室合わせて4人だな」
「へぇ~」
思わず気になったことを質問し、意外に少ないと思ってしまった。
てっきりこの国の王ならば、もっと多くの奥さんがいると思っていたが……
「おい、グレインと一緒の数じゃないか? どうだ、国王様と同じ数の奥さんがいるのは?」
「いや、僕はまだ婚約者の段階だよ。というか、僕の婚約者は3人なんだけど?」
リオンが悪戯っぽく耳打ちをしてきたので、俺は思わず反論してしまう。
リオンは俺に4人の婚約者がいると思っているのだろうか?
4人目は一体誰を考えているんだ?
「まあ、他に貴族の娘を妻に迎える分には問題はなかった。要は政略結婚というやつだから、それぐらいは我慢できたさ」
「まあ、権力を持っている者ならば仕方がない事だろうな」
国王様の言葉に今度はアレンが納得する。
まさか、冒険者上がりの彼が納得するとは思わなかった。
いや、彼も政略結婚をさせられそうになった側の人間かもしれない。
もしかすると、そんな彼を守るためにクリスは結婚を申し出たのかも……もちろん愛情もあったうえで。
「側室の中では大きな問題はなかった。というか、むしろ側室たちが仲が良いおかげで子宝に恵まれたからな」
「そうなんですか?」
国王様の子供に俺は思わず聞いてしまった。
てっきり側室が複数いることで女同士の争いがあると思っていた。
正室も国王様が現を抜かす側室たちに嫌悪感を抱くと思っていたが……
そんなことを考えていると、クリスが俺にこっそりと説明してくれる。
「第一王子と第二王女をエメリア様、第一王女と第四王子を側室第一位のシェーラ様、第五王子と第三王女を側室第二位のチェルシー様が産んだのよ」
「ああ、たしかに子だくさんだね」
想像以上に子だくさんだった。
いや、王家だったらこれぐらいは当然か?
しかし、今の話から察すると……
「第二王子と第三王子は正室の子供ってこと?」
「ええ、そういうこと」
俺の言葉にクリスが納得する。
しかし、それは面倒な事だと思ってしまった。
男児が複数いる貴族の家ではお家騒動が起こるなんて話がよくある。
といっても、普通にしていれば長子が家を継ぐのが当たり前だ。
だが、ここで問題になってくるのが正室と側室である。
今回のように側室の子供が長子になってきた場合、果たしてその子に跡を継がせるべきかという論争になることがあるわけだ。
本当に貴族というのはめんどくさい。
「エメリアがキースを産んだことで彼女はアルメリアから敵愾心を受けたようだ。まあ、他の側室たちのおかげで今まで大っぴらに嫌がらせをされることはなかったようだが……」
国王様が大きくため息をつく。
その表情は暗く、非常に後悔しているようだった。
「あれはシャルロットが産まれて二年が経った頃だろうか、嫌がらせによるストレスでエメリアは体調を崩し、そのまま逝ってしまったよ」
「……」
悲し気な国王様の言葉に俺は何も言うことはできなかった。
愛する人を見送る人の気持ちなど、今の俺には理解することはできない。
もちろん、その人を慰める言葉もわからない。
それは他の人も同様で……
「正室がやったことはわかっているんだろ? だったら、離婚でも何でもすればいいのに……」
「ちょっと、あなたっ!」
空気を読まず発言したアレンにエリザベスが怒る。
まあ、これは怒られても仕方がない。
悲し気な国王様に対して、この仕打ちは酷すぎる。
しかし、そんなアレンの言葉に国王様は逆に元気づけられたようで、説明を続ける。
「それが証明できないんですよ?」
「証明できない?」
「ええ。エメリアと仲の良かった側室たちがいろいろと証拠を集めてきてくれたけど、どれも正室が関わっているという決定的な証拠じゃないんですよ」
「……きちんと調査はしたのか?」
「ええ、もちろんですよ。ですが、残念なことに証拠は見つかりませんでした」
「……なるほど」
国王様の説明にアレンが納得する。
たしかに、これは非常に難しい問題である。
前世でも離婚をする際にはいろいろと証拠を見つけないと大変なことになるのはよくある話だ。
合意もなく離婚をするためには、事前にいろいろと証拠を集めるなんて話を聞いたことがある。
それは例えば、探偵による浮気調査だろう。
浮気の現場を押さえ、それを理由に離婚をするわけだ。
だが、逆に浮気の証拠を押さえなければ、離婚をすることは難しくなる。
こちらの世界でもそれは変わらないわけだ。
しかし、現代日本に比べて捜査能力も格段に劣るこの世界──しかも、相手がかなりの権力を持っているので、そうそう下手なことはできない。
国王様の辛さは理解できた。
「まあ、とりあえずこれが私を取り巻く事情という奴です。一応、覚えておいてください」
冗談っぽく国王様が言うが、俺たちはどう返事をすればいいのか悩んでしまった。
誰がこの状況で返事できるだろうか?
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今話に現代日本の離婚云々の話がありましたが、あれはあくまで作者がテレビやゲームなどで見た情報を独自に組み合わせたものなので実際と異なると思われます。気になる方もいるかもしれませんが、おかしな点があっても優しく見逃してくださるとありがたいです。ちなみに作者は結婚したことがないので、当然離婚経験もありませんので、こういう知識はないので悪しからず……




