5-63 死んだ社畜は国王様の話を聞く
「さて、世間話は置いておくとして……真実を話してもらえますか?」
「ほう……俺たちが嘘をついている、と?」
国王様が真剣な表情を浮かべながら放った言葉にアレンはニヤリと口角を上げる。
それに合わせて国王様もニヤリと笑う。
あと、背後から怒りの感情を感じる。
軽く視線を向けると、国王様を睨み付けるリヒトの姿。
たぶんだけど、嘘という言葉に反応したのでは……
「嘘をついているとまではいわないですが、大事なことを言っていないのでは?」
「どうしてそう思う?」
「アレン先輩は身内を守ろうとするので、おそらくその部分になにかあるかな、と? 娘さんに関係があるのでは?」
「……こういうところはうまくなりやがって」
国王様の指摘にアレンは苦々し気な表情を浮かべる。
今まではこういうことはなかったのだろうか?
国王ということは腹芸が得意かと思っていたが、元々はそういうことができていなかったのだろうか?
もしかすると、冒険者をやめてからできるようになったとか?
必要に駆られて、な。
そんな国王様の言葉に腹芸が苦手なアレンはため息をつき、話は始める。
「はぁ……わかったよ。全部、話すよ」
「よろしくお願いします」
アレンの言葉に国王様が笑顔を浮かべる。
本当にいい性格をしているな、この人。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「つまり、アレン先輩とクリスさんの娘さんであるハクアちゃんが【聖属性】をもっていたということで聖光教に狙われた、ということですか? それは本当なのですか?」
「ああ、本当だよ。そして、ハクアが──クロネの方もなのだが、【聖属性】と【闇属性】を持つようになったのが、リヒトとシルトの子供であるアウラとシュバルが原因なんだよ」
「……なるほど。聖光教からすれば、欲しい人材と排除すべき存在の両方が同時に出てきたというわけですね」
「そういうことだ」
十分ほどかけ、状況を説明する。
アレンだけでは説明できない部分は俺やルシフェルが補助的に説明を加えた。
どうやら国王様はそれで納得してくれたようだ。
「しかし、まさか【聖属性】をもつ人間がさらに現れるとは思いませんでしたよ」
「といっても、メインはクリスから受け継いだ【氷属性】だぞ? 【聖属性】はアウラによって付与されただけだからな」
「それでも【聖属性】を宿していることには変わりないですよ。しかも、お二人の子供ということは魔法の才能もあるでしょうから、おそらく並の魔法使いでは太刀打ちできないレベルの魔法を使えるでしょうね」
「それは否定できんな」
国王様の言葉にアレンははっきりと答える。
そこは自信満々に答えるところなんだな。
「しかし、まさか我が国に【聖属性】を使う者がさらに現れるとは思わなかったですよ」
「ああ、そういえば、バルドの娘も【聖属性】を持っているんだったか?」
「ええ、そうですよ。その時の聖光教がうるさかったですよ」
「はははっ、それが持つ者の責務という奴だぜ」
「……そういうことから逃げているくせに」
アレンの言葉に国王様が悪態をつく。
内容を察するに、国王様もアレンが貴族的な辛さから逃げていることは知られているようだ。
まあ、アレンのことを知っている者なら、彼の性格からそんなことをしているぐらいは想像つくか……
「で、娘さんは大丈夫なのか? うちには強襲部隊を送ってきたみたいだが……」
「こちらは政治的な駆け引きしか来ませんでしたよ? といっても、私の敵ではありませんでしたがな」
「そうだろうな。お前より腹芸が得意なやつはそういないだろう」
「まあ、そうでしょうね。最後に相手方は罵詈雑言を浴びせてきましたよ。相手がこの国の王であることを忘れて、ね」
「おいおい、やりすぎじゃないのか?」
国王様が笑いながらその時のことを伝えると、アレンも爆笑しながら聞き返す。
いや、そんな笑いながら話すことではないだろう。
娘たちが危機だったこともそうだが、国王を相手に罵詈雑言を浴びせるような奴がいたという話は笑えないだろう。
下手したら、その場で首を落とされていてもおかしくはないだろう。
「一応、生かして帰しましたよ? といっても、二度と王都に入りたくないようにはしてあげましたけど……」
「おお、怖いな。一体、何をしたのやら……」
「とりあえず、王都中にその男が放った罵詈雑言を一言一句漏らさずに広めました。次の日、王都を楽しもうとした奴らに待っていたのは、街中からの総スカンですよ。一応、これでも国民からの信頼は厚いですからね」
「なるほど……そりゃ二度と王都には戻ってきたくはないだろうな」
うん、中々ひどい事をしているな。
それを笑いながら話すということは、この国王様はかなり性格が悪いだろう。
まあ、それも国王にとって必要なのだろうな。
「しかし、問題はまだあるんですよね」
国王様が先ほどまで浮かべていた笑顔を引っ込め、大きくため息をつく。
一体、どうしたんだろうか?
「ここまでやったのにか? それで十分だと思うんだが……」
「聖光教の方は問題ないですよ。娘の方です」
「どうしたんだ?」
国王様の様子にアレンは心配げな表情を浮かべ、問いかける。
やはりアレンは人が良いので、困っている人がいれば助けようとしてしまうのだ。
それがアレンの良いところではあるが、駄目なところでもあるのでしっかりと注意はしておかないといけない部分だ。
「娘──シャルロットというんですが、小さいころから聖光教の脅威から守るために箱入り娘のように育ててしまったせいか、外の世界に興味を持つようになってしまったわけですよ」
「……それはいいことじゃないか? 狭い世界なんかよりも子供は広い世界を見るべきだと思うが……」
「まあ、普通の子だったらそうでしょうね。ですが、シャルロットは王族の子供。そう簡単に外に出すわけにはいかず……」
「勝手に出歩くようになった、と?」
「ご明察です」
アレンの言葉に国王様は力なく頷く。
どうやら当たりのようだ。
たしかにそれは父親としてはかなり心配になるかもしれないな。
おそらく、聖光教の脅威は国王様のおかげでほとんどないと思われるが、それでも王都の街中は危険がないわけではない。
そんな中に王女が一人で出歩くのはよくないと思われる。
「一体、誰に似たのやら……」
「人を困らせるのはお前に似ているんじゃないのか?」
「私が困らせるのは敵対した相手だけですよ? 味方には軽いジョークで済ませます」
「ジョークであれかよ」
「とりあえず、シャルロットは母親似だと思うんですよ」
「おいおい、責任転嫁か?」
攻撃する材料を見つけたと思ったのか、アレンがニヤニヤしながら口撃を始める。
これならば勝てると思ったのだろうか?
そういうことが苦手なくせに……
「責任転嫁ではありませんよ。きちんと理由はあるんですよ」
「ほう……言ってみろよ」
「シャルロットの母親は子爵家の出だったんですよ」
「……」
国王様の説明にアレンは茶化すことはできなかった。
それはそうだろう。
国王様の言葉は王族の血に貴族とはいえ下級貴族の血が混ざっているということだ。
それの何が悪いとは思うが、貴族の中にはそれを悪いことだと思う者もいるという話だ。
これはなかなか面倒なことになってきたな。
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