5-62 死んだ社畜は大人たちの過去を知る
「えっ、国王様っ!?」
突然現れた国王様を見て、俺は驚いてしまった。
それはリュコも同様のようで、彼女の表情も驚きに満ちていた。
しかし、それ以外の人物はあまり驚いていないようだった。
ハクアとクロネについては、国王様が何者か理解していないだけのようだが……
「おう、やっと来たか。俺たちを待たせるとは、偉くなったものだな」
「と、父さんっ! 国王様を相手に何言ってるんだよ」
国王様相手に失礼なことを言うアレンに俺は文句を言う。
彼は脳筋ながらも礼儀を重んじるような人物だったはずだ。
普段の彼からは想像もつかない。
周囲に視線を向けるが、ぎょっとした表情を浮かべているのはリュコだけ。
残りの大人たちはニヤニヤと笑みを浮かべているだけだった。
「はははっ、相変わらずですね。先輩」
「えっ!?」
国王様の言葉に俺は再び驚いてしまう。
といっても、先ほどとは違う理由ではあるが……
「先輩? どういうことですか?」
俺はその疑問を失礼を承知で質問する。
そんな俺の様子を見たあと、国王様はアレンに話しかける。
「おや、話していないんですか? てっきり、自信満々に話していると思っていたんですが……」
「んなもん、話しても何の自慢にもならねえよ。冒険者時代にバルドの先輩をしていたからといって、すげぇとはならねえだろ?」
「それは手厳しいですね。現国王をかつて指導したという立場はなかなかないものだと思いますが……」
「冒険者として働いていたのはせいぜい二年程度じゃねえか。しかも、結局中級冒険者になってすぐにやめちまいやがって」
「あはは、それはすみませんでした。あの頃はうちも大変なことになってしまったので、冒険者を止めざるを得なかったのですよ」
「それぐらいは理解しているさ。だが、少しは事前に伝えておけよ。いきなりいなくなったから、焦っちまったんだぞ?」
「たしかにそれは申し訳ないですね。私としては、今までお世話になった人を巻き込みたくなかった一心で姿を消したわけですよ」
「きちんとホウ・レン・ソウをするように指導したはずなんだがな……」
「通常ならきちんとしていましたよ?」
アレンと国王様が親しげに話している。
いや、なんだこれ?
どうして一男爵家の当主が国王様と対等に──いや、上から目線で話しているのだろうか?
しかも、それを周囲の大人たちはニヤニヤしているだけだし……
「どうやら、子供たちには驚きのようですね。では、説明させていただきましょうか」
「……」
「私は国王になる前に二年ほど冒険者をやっていました。その時にいろいろとお世話になったのが、こちらのアレン先輩たちなんですよ」
「……なるほど」
国王様の説明に俺はしぶしぶ納得する。
一国の国王が──いや、なる前だから王子時代?──まさか冒険者をやっているとは誰も思わないだろう。
しかも、指導する立場にいたのが、自分の父親。
もう、何を驚いていいのかわからない。
「まあ、私は冒険者としての才能はなかったようで、中級冒険者と呼ばれるようになったときぐらいに辞めてしまったわけですが……」
「おいおい、たかが二年程度で才能の有無がわかるはずがないだろ?」
「いえいえ、そんなことはないですよ。少なくとも、私は先輩たちとの差をその身で感じ、自分では到底追いつくことはできないと思いましたから」
「俺たちは別格だからだろう? もっと冒険者を続けていれば、積み重ねた分の強さは得られたと思うぞ?」
「はははっ、先輩にそう言われると嬉しいですね」
アレンの褒め言葉に国王様が笑みを浮かべる。
その表情にはどこか悲しみも含まれているように感じた。
おそらく、冒険者を止めなくてはいけなかったことを後悔しているのだろう。
王家の事情ならば、仕方のない事だったのだろうが……
「でも、私の方こそ驚きましたよ。まさかお世話になった先輩たちがまさか獣王と魔王になるなんて……獣人と魔族ということは知っていましたけど……」
「俺もお前さんが人間の国の王になるとは思わなかったぞ? 俺の場合は成り行きでなっちまっただけだがな」
「成り行きってすごいですね? まあ、リオン先輩ならありえなくはないでしょうけど……」
「一応、私はバルド君が王族であることには気づいていましたよ? 隠したそうでしたから、黙っていましたが……」
「お気遣いありがとうございます」
国王様はリオンとルシフェルとも親しげに話している。
本当に国王様は冒険者だったようだ。
そうでないならば、こんな風に砕けて話すことはできないだろう。
「しかし、一番驚いたのはアレン先輩ですね」
「む、そうか? まあ、サイクロプスなんて化け物を倒したなんて報告されたら、驚きもするか」
とここで国王様はアレンに話題を向ける。
そして、話を向けられたアレンは自信満々に過去の話をする。
それは彼が【巨人殺し】と呼ばれ始めた事件についてだ。
普通に考えれば、それが国王様を一番驚かした話題だと思うが……
「まあ、その件もですけど……まさかアレン先輩が貴族の娘さんを嫁にもらうとは思いませんでしたよ」
「なっ!?」
国王様の言葉にアレンが先ほどとは違う驚きの表情を浮かべる。
その表情を見た国王様は「してやったり」といった表情をしていた。
まるで悪戯を成功させた子供ような無邪気な表情である。
ちなみに、アレンが驚いたのを見て、リオンとルシフェルは爆笑していた。
「まあ、英雄と呼ばれるようになったので貴族との婚姻関係を結ばないといけないと思っていましたが、まさかバランタイン伯爵の娘を娶るとは思ってもみませんでした。なんせ、聞いていたアレン先輩の好みとは真逆でしたから……」
「お、おい……それ以上は……」
国王様の説明を聞き、アレンは恥ずかしそうに止めようとする。
まるで自分の過去の恥部をさらされているように感じているのだろう。
俺だって、前世の中学生・高校生時代の話を知り合いにされたら、同様の反応をしそうだった。
なんかこういう和やかな空気も悪く無いな、俺はそんなことを思ってしまった。
しかし、そんな空気は一変する。
「へぇ……それは聞きたいわね」
「……たしかに聞きたい」
「「えっ!?」」
部屋の温度が一気に下がったような気がした。
貼り付けたような笑顔を浮かべ、エリザベスとクリスが国王様とアレンに話しかけていた。
当然、本心からの笑顔ではないだろう。
まずい状況だと思ったのか、国王様は話し始める。
「アレン先輩の好みは……」
「ちょ、ちょっと待て……」
アレンが慌てて止めようとするが、それを面白がったリオンとルシフェルが動きを阻害する。
そして、国王様は暴露する。
「リズ先輩みたいな強気の年上な女性ですよ?」
「えっ!?」
「アレン先輩は脳筋でしたが、面倒見がいいから後輩たちから慕われていました。才能もありましたから、先輩からも頼られていました」
「ええ、そうね」
「ですが、頼られてばかりだと嬉しくもなくなるようで、そんな中でリズ先輩みたいに叱ってくれるような人に心惹かれたようです」
「そ、そうなのね……」
国王様の赤裸々な暴露にエリザベスは普段では見ることができないぐらい顔を真っ赤にする。
そんな彼女の様子を女性陣は微笑ましく見ていた。
ちなみに男性陣はというと……
「バルドの、馬鹿野郎……」
「がははっ、良いじゃねえか。なかなか甘酸っぱい話だったぞ?」
「いいじゃないですか。私はこの話、好きですよ?」
落ち込むアレンをリオンとルシフェルが励ましていた。
いや、からかっているのだろうか?
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