5-57 死んだ社畜は女性の扱いについて文句を言われる
次の日、俺たちは朝から馬車に乗って、王城へと向かった。
きちんと事前の手続きをしているおかげか、特に何の問題もなく城に向かって馬車は進んでいった。
城の門を通った後に窓から外を見ると、景色は一変していた。
メインストリートは周囲は石材の建物が並んでおり、多くの人がいることによって非常に賑わっていた。
しかし、門の中はまさに世界が違うと言えた。
見える石材の建築物は城を囲む壁と噴水などのみ。
その代わりに緑が多く目に入ってきた。
流石はこの国の王族が住んでいる場所である。
しっかりと手入れされている植物が美しく並んでおり、見ているだけでも手入れをしている人の技術の高さを感じることができる。
それは俺にそういう知識が無いのにもかかわらず、だ。
もし許可を貰えたなら、見学させてもらおうかな?
「「うわぁっ、すごいっ」」
「二人とも、落ち着きなさい。ここには偉い人たちがいるんだから、失礼があってはいけないの」
ハクアとクロネも窓からの光景に心を奪われているようで、食い入るように外を見つめていた。
そんな二人をエリザベスが窘める。
そんな様子をクリスは微笑ましそうに見ていた。
ちなみにこちらの馬車には俺、リュコ、エリザベス、クリス、ハクアとクロネ、シルトさんおよびアウラとシュバルが乗っている。
なぜこんなに大勢乗っているのかというと、もう一つの馬車には乗るスペースがないからだ。
なんせ、一般的な成人男性よりもかなり大きいアレンとリオン、リヒトの三人が乗っているのだから、それも当然だろう。
一緒に乗っているルシフェルがかなり窮屈な目に合っているのではないかと、同情しているぐらいだ。
まあ、そのルシフェルも180センチぐらいはあるだろうから、成人男性の平均より少し大きいぐらいだろうが……
「……」
「リュコ、どうしたの?」
と、ここでリュコがそわそわしていることに気が付いた。
まるで何かを気にしているような……
「あ、あの……」
「もしかして、外の景色が気になるのか?」
「は?」
俺は彼女の考えを推測してみることにした。
なぜか彼女は呆けた声を出していたが、気にせず推測を続ける。
「まあ、初めて見る場所だから気になるのは仕方ない。また来れるのはいつになるかわからないし、今のうちに目に焼き付けておいた方が良いと思うよ?」
「いや、別にそんなことは考えてませんよっ!」
「本当に?」
「……少しぐらいはそう思っていましたけど」
やはり彼女は外の景色を気になっていたようだ。
しかし、彼女がそわそわしているのには別の理由があるようだ。
しかし、一体どうして……
「もしかして、トイ……」
((((ギロッ))))
「ひぃっ!? ごめんなさい」
次の推測を口に出そうとした瞬間、周囲から鋭い視線が突き刺さった。
あまりの恐怖に俺は思わず悲鳴を上げ、謝ってしまった。
仕方がないだろう。
一つだけでも人を殺せそうなぐらいの雰囲気があったのに、それが四つもあったのだから恐怖を感じるのが当然だ。
むしろ、漏らさなかったことを褒めてほしい。
いや、流石にこの年齢で漏らすことはないだろうが……
そんなことを考えていると、エリザベスがため息をつき、話し始める。
「グレイン、あなたはもう少し女性に対する配慮を覚えなさい」
「……配慮ですか?」
エリザベスの言葉に俺は思わず聞き返してしまう。
これでもいろいろと女性に対して気を配っているつもりだが……
「たしかにグレインは女の子にも優しく接しているとは思うわ。それにその類稀なる才能のおかげで婚約者を困ることなく得ることができたわ」
「まあ、これ以上増えたら困りそうだけどね?」
「でも、だからこそグレインは女の子の扱いが少しおざなりになってきていると思うのよ」
「おざなり、ですか?」
彼女の言っていることがわからず、俺は首を傾げてしまう。
俺は別に女性の扱いをおざなりにしているつもりはない。
なんせ、婚約者たちには平等に接しているし、きちんと気にかけているつもりなのだが……
「婚約者としては及第点を上げることはできるけど、男としては女に対する扱いはなっていないわよ」
「どうして……いや、理解できたよ」
「なら、よかったわ。今後は気をつけなさい」
思わず聞き返してしまいそうになったが、俺はすぐにミスに気が付いた。
先ほどの俺の言いそうになったことが原因だろう。
たしかに女性にする質問にしては、非常に配慮が欠けていた。
いくら心配していたからといって、女性に対して男がしていい質問ではなかった。
おそらくエリザベスが言いたかったのはそういうことなのだろう。
たしかに、こういう点では俺は男としてまだまだなのかもしれない。
今後は気を付けていかないといけないな。
と、ここで気になることが一つ。
「父さんはできるの、それ?」
たしかに俺にはまだできていないことではあるが、脳筋のアレンがそれをできているのかが気になってしまった。
なんせ彼は武勲で貴族になった元冒険者なので、そういう方面には疎いはず。
そう思った俺は聞いたのだが……
「グレインと同じよ。あの人はいつまで経ってもそういうところは気が利かないんだから……」
「……でも、それがアレンの良いところ。そういうところがかわいい」
「……そうですかい」
少し怒った様子ながらも顔を赤らめているエリザベスと本気で可愛いと思っていそうなクリスの様子に俺は思わずげんなりとしてしまう。
まさか、母親たちのアレンへの好意を見せつけられるとは思わなかった。
もう結婚して二十年近く経っているはずなのに、相変わらずのラブラブ夫婦(一夫二妻)である。
だが、子供──特に息子としてはあまりそういう話は聞きたくなかった。
いや、仲が良い事に越したことはないが、親が愛し合っているという話は聞いていて何となくむず痒くなるのだ。
今後はこういうことを聞かないように努力しよう。
「アレンさんなんてまだまだいい方ですよ? きちんと女性に対して優しいですし……」
と、ここでシルトさんが会話に入ってくる。
彼女もアレンのことを評価しているようだ。
しかし、「まだいい方」というのはどういうことだろうか?
「うちの旦那はいつも偉そうで、私にもあれやれこれやれと命令してくるんですよ? ドラゴンだから自分は偉いと思っているんでしょうけど、そんなもの大したことない事に気が付いていないんですよ」
「そ、それは……」
シルトさんの愚痴に俺はどう返したらいいのかわからず、言い淀んでしまう。
彼女の言っていることが正しいのだろうが、流石にここまで言われるリヒトがかわいそうに思ってしまう。
というか、リヒトはシルトさんには偉そうに振る舞うのか……
「まあ、私の方が強いから無理やりにでも言うことを聞かせますけどね? 女性の扱いはうまくありませんが、きちんと言うことは聞いてくれるので良しとしています」
「……」
最後にシルトさんがデレたが、俺は今度こそ言葉を失ってしまった。
本気でリヒトのことを同情してしまったからだ。
(リヒトは完全に尻に敷かれているんだろうな)、俺は心の中でそんなことを思った。
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セルリアさんが街中でいきなり斬りつけた件についてお咎めがない事を感想でいただきましたが、もちろん彼女には罰を与えられています。といっても、本文中にはかかれていませんが……
勘違いからの行動ですのでそこまで重くはないですが、上司からは説教を受けている(予定)です。
本文中に書いてないですが、気にしない方向でお願いします。




