5-54 死んだ社畜は知り合いと比較する
「まさか魔道具の店に行って、魔道具の歴史を知れるとは思わなかったな」
「そうね。しかも、ダークエルフなんて初めて見たわ。物語とかで出てくることはあったけど、実際に本物を見るのは初めてだわ」
魔道具店を出た後、シャルとシリウスがそんな会話をしていた。
俺も二人と同感だった。
まさか、こんな体験ができるとは思わなかった。
まあ、獣人や魔族が存在するようなファンタジーの世界なので、そういう存在がいる可能性は高いとは思っていた。
というか、俺も今まで読んでいた本のおかげで彼らの存在に関する信憑性が高いとは思っていた。
本当にいい経験ができた。
と、ここで俺はあることを思い出した。
「そういえば、店主の名前を聞くのを忘れていたな」
「え? エルフィアさんじゃないの?」
俺の呟きにシャルが反応する。
彼女がどうしてそう思ったのかはすぐに理解できた。
「あれはおそらく氏族の名だと思うよ」
「氏族?」
「うん。エルフっていうのは様々な人たちが入り混じって生活するんじゃなくて、自分たちの一族単位で行動することが多いんだ。それが氏族だね」
「つまり、エルフィアはファミリーネームってこと?」
「まあ、そういうこと。エルフィアも名前の一部であることには変わりないけど、あの人の本名ではないと思うよ」
「へえ~、そうなんだ」
俺の説明にシャルは納得してくれた。
隣でシリウスも少し驚いたような反応をしていた。
どうやら彼も知らなかったようだ。
まあ、物語ぐらいにしか出てこないような存在についてこれほど詳しく知っている方がおかしいだろう。
これは俺の方が異常であることは認めよう。
「おそらくだけど、あの人はルシフェル並みに強いと思うな」
「えっ!?」
「?」
俺の言葉にシリウスが驚き、シャルが首を傾げた。
おそらく、シャルはルシフェルが誰かと思ったのだろう。
とりあえず、重要な事実だけは伏せて説明しよう。
「ルシフェルっていうのは、僕たちの知り合いの魔族の人だよ」
「えっ!? 二人って、魔族と知り合いなの?」
俺の言葉にシャルが目を見開く。
この反応はもしかすると……
「もしかして、シャルって魔族とかを認めない一族の人?」
俺は思わず直球でそんなことを聞いてしまった。
リクール王国は本来、獣人族や魔族など異種族も隔たりなく受け入れている国の一つである。
獣人族や魔族のことを人間より劣った存在であると考えている国もいるので、その点では進歩した考えをした国であると言える。
しかし、だからといって国の中が一枚岩だとは言い切れない。
過去に起こった戦争のせいで、未だに獣人族や魔族のことを毛嫌いしている人たちもいる。
そのほとんどが貴族なのだが……
もしかすると、彼女もそういう一族の人間なのかもしれない。
そうすると、ルシフェルの名前を迂闊に出した俺に問題があるわけだが……
「そういうわけじゃないわ。私の家族は基本的には獣人族や魔族とは仲良くやっていきたいと思っているわ。もちろん、私も知り合いや友達になりたいと思っているわ」
「えっと……基本的には?」
「私や一番上のお兄様、お父様はそういう考え方ね。あと、私の死んだお母様はより強い考え方だったそうよ」
「あっ、ごめん」
彼女の母親が死んでいたとは、この話はやばかったか?
まさかこんな話からそういうことにつながるとは思わなかった。
俺は思わず謝ってしまう。
しかし、シャルはそんな俺に笑顔で答える。
「別に構わないわよ。お母様が死んだのは私が1歳ぐらいの時だったから記憶もあいまいだし、周りに人はいっぱいいたから寂しいなんてことはなかったわ」
「……それはよかった」
どうやら許してもらえたようだ。
しかし、今後は注意しておかないといけないな。
会話をするうえでやってはいけないことの一つに相手の地雷を踏むことがある。
地雷を踏んでしまうと、今まで築いてきた信頼関係を一気に破壊することがあるからだ。
どれだけ仲良くなったとしても、たった一つの地雷を踏み抜くことで大喧嘩に発展することがある。
これは俺が前世で培った社畜スキルの一つである。
これがもしも学生時代に身に付けることができていたら、おそらくその当時付き合っていた彼女と別れることはなかっただろう。
苦い思い出の一つである。
しかし、たかがボー○ズラブは男としてはあまり気持ちのいいものではないと言っただけで、あれだけ怒られるとは思わなかった。
一般的な感性の持ち主だったら、そう思うのが当然だと思うのだが……
まあ、あれは彼女にとって譲れない一線だったのかもしれない。
そう考えれば、おそらく彼女と未来を歩むことはなかったと諦めもつく。
「とりあえず、私の異母弟やその母親とその親戚は反異種族の思想を持っていると思うわ」
「……同じ家族の中でそこまで考え方が違うのか?」
「ええ、そうね。まさか私もそこまで考え方が違う人が家族だとは思わなかったわ。といっても、半分しか血が繋がっていないんだから、同じようになるとも限らないか?」
「まあ、そうだね。僕とシリウス兄さんも半分しか血が繋がっていないしね」
「……そう考えると納得かもしれないわ。というか、二人を見ていると本当に血が繋がっているのかすら怪しく思うわ」
「……否定はできないな」
シャルの言葉に俺は思わずそう呟いてしまった。
確かに彼女の言う通り、俺とシリウスに血のつながりがあるのか本当に疑問に思ってしまう。
いや、アレンの子供として生まれているのは確実なので、血が繋がっていることは確実だろう。
しかし、そういう意味で考えるならば、性格云々は母親も関係しているのだろうか?
だが、そうであるならば、シリウスとアリスがあれほど違うのもおかしな話だろう。
まあ、これは個人の問題か?
……深く考えないようにしておこう。
話を戻すとしよう。
「とりあえず、ルシフェルは僕やシリウス兄さんの魔法の師匠なんだけど、ものすごく強いんだ」
「へえ、そうなの?」
「とりあえず、魔族の中でもトップクラスの実力者らしいよ」
「っ!?」
「え~、本当に?」
俺の言葉にシャルが少し信じられないといったような反応をする。
まあ、話だけ聞くならば、そう思われても仕方がないだろう。
ちなみにシリウスも俺の言葉に驚いていた。
これはおそらく俺の言葉のせいだろう。
たしかにルシフェルは魔族の中でもトップクラスの実力者だろうが、これはかなり語弊がある。
ルシフェルは魔族の中でトップの実力者なのだ。
そのことに驚いたのだろう。
まあ、流石にそれを伝えるわけにはいかない。
なんせルシフェルは魔王なのだ。
魔王がいるという情報をむやみに流して何か問題が起こっても困るので、とりあえず隠すことにしたわけだ。
「店主さんは隠していたけど、彼女からは恐ろしいほどの魔力を感じたよ。たぶんだけど、魔力量だけならルシフェルを超えているんじゃないかな?」
「そんなにっ!?」
俺の言葉に今度はシリウスが驚く番だった。
ルシフェルを知っている彼だからこそ、この反応なのだろう。
たしかに、俺も少し驚いた。
「それはすごいのかしら?」
「とりあえず、ルシフェルは簡単にこの辺りの景色を一変させることができるほどの魔力を持っているんだ」
「ふ~ん」
俺の説明を聞き、シャルが信じているのかよくわからない相槌をうつ。
まあ、こんな突拍子もない話をされては仕方のないことかもしれない。
だが、嘘はついていないのでこの件には深くツッコまないことにした。
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