5-52 死んだ社畜は魔道具店の辛さを聞く
「では、お目当ての魔道具について紹介しようか?」
「え、良いんですか?」
突然、女性が魔道具を紹介しようとしたので、シリウスが答える。
さっきは俺たちのことを子ども扱いし、魔道具店は子供の遊び場ではないと伝えてきた人物とは思えない対応だ。
一体、どうしたのだろうか?
「なかなか面白いものをみせてもらったからね。将来の上客にはいろいろと案内しておいた方が良いと思ったのさ」
「……上客にはならないかもしれませんよ?」
「いや、お前さんたちはなると思うさ。というか、私がそう仕立て上げる、というべきかな?」
「それを本人たちに言うべきではないと思うんですが……」
あまりの言葉に俺は思わずそんな返事をしてしまう。
いや、俺たちに何も伝えずに騙そうとするよりはましなのかもしれないが、彼女の言葉は俺たちに言ったうえで騙そうとしているように聞こえるのだ。
いや、彼女のことだからそういう意図はないのだろうが……
「お前さんたちは魔道具に一番大事なものが何かわかるかい?」
「一番大事なもの、ですか?」
彼女の言葉に俺たち三人は顔を見合わせる。
質問の意図はわからない。
しかし、俺たちの答えはどうやら一つだったようだ。
「「「性能?」」」
首を傾げながら答える。
魔道具を購入したものは、その魔道具の効果を目的に購入しているのだ。
つまり、購入者からすれば、魔道具の効果自体が最も大事だと思われるのだが……
「確かにそれは一理あるが、決して一番じゃないさ」
「そうなんですか?」
どうやら違うようだ。
ならば、一体何が一番大事なんだろうか?
「一番大事なのは、安全性だよ」
「安全性、ですか?」
女性の言葉に俺は首を傾げる。
たしかに安全性は大事な事であるのは理解できるが、果たして一番大事な事なのだろうかとも思ってしまう。
そんな俺の思いに気が付いたのだろうか、女性は説明を続ける。
「安全性というのは簡単に言うと、どれだけ安全に魔道具が使えるかの指標だ」
「まあ、そうですね」
「当然、安全性が高い方が良い事はわかるな」
「それはそうでしょう」
安全性が高い方が良い事は子供でもわかることだ。
それぐらいは当たり前ではないだろうか。
そんな俺たちの反応に彼女はさらに説明を続ける。
「安全性が高いということは使用者も安心して魔道具を使うことができる。君たちはもし二回に一回爆発するような魔道具を目的の効果があるからと言って使うかい?」
「いや、それは使わないでしょうね」
彼女の質問に俺は呆れ半分で答えてしまう。
二回に一回爆発するような魔道具なんて、一体誰が使うのだろうか?
危険極まりすぎるだろう。
しかし、そんな俺の反応に女性は嬉しそうな反応をする。
どうしたのだろうか?
「そうだろう? 普通に考えれば、そうなるのが当然なのさ」
「えっと、どうしたんですか?」
「だが、最近は安さと店の雰囲気に騙され、そういう安全性を重視していない魔道具店で購入する者が多い。そのせいでうちの商売は上がったりさ」
「えっと……それは……」
彼女の愚痴に俺はどう答えるべきか悩んでしまう。
彼女がどうして安全性について大事であることを伝えてきたのかは理解できた。
とりあえず、一つ言えることは……
「でも、他の店も安全性を一番に重視していないかもしれませんが、気にしているんじゃないんですか? そんな2回に1回壊れるようなものは売らないと思いますが……」
「あながち間違いじゃないさ。少なくとも最近は10回も使えない魔道具が巷に蔓延っているからね」
「え、そうなんですか?」
女性の言葉にシリウスが驚く。
それは当然だろう。
彼女の言っていることが正しければ、巷では安全性の低いものがあふれているということなのだから……
「まあ、流石に爆発するようなことはまだないが、あんなものを作っていたらいずれは爆発を起こしてもおかしくはないさ」
「そ、そうなんですか?」
彼女の表情が暗くなったので、俺たち全員が思わず心配してしまう。
これはもしかすると、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか?
だが、今さら話を聞くのを止めることはできない。
最後まで聞くしかないようだ。
「魔道具というのは物質に魔法陣を描くことで、目的の効果を付与したもののことだ。簡単に言っているが、これはかなりの技術がいるのさ」
「……そうなんですね」
「さて、ここで問題だ。同じ効果の魔道具を作る場合、どうしたらいいと思う?」
「「「同じ魔法陣を描けばいい」」」
いきなりの質問だったが、俺たちは異口同音に答える。
同じ効果を出すのだったら、魔法陣を同じもので書けばいい。
これは当たり前なのでは……
しかし、彼女から返ってきたのは予想外の答えだった。
「残念ながら違うね」
「「「えっ!?」」」
「確かに同じ魔法陣を描くことで同様の効果を得ることはできるだろう。しかし、同じ魔法陣を描いたからといって、付与した物質に合っているとは限らないのさ」
女性は熱く説明を続ける。
と、ここで俺はあることに気が付いた。
彼女が言いたいのは……
「もしかして、付与するものによって魔法陣をある程度変えないといけないんですか? 安全性を高めるためにそれぞれに合った魔法陣に書き換えているとか……」
「そうだよ。魔法陣というのは本来はそれぞれに合ったものを描くのが当然だ。つまり、描くものにあった魔法陣を描かなくてはいけない」
「でも、最近の魔道具店は安価で大量に作るために同じ魔法陣を大量に描いている、ということですか?」
「そういうことさ。そのせいで巷では安価で壊れやすい魔道具が出回っていて、高価なうちの店にとっては大打撃になったわけさ」
「な、なるほど……」
それは商売人にとっては辛い事だろう。
ほかに安い店があるのならば、そちらに客を取られてしまうのはよくある話だろう。
しかも、彼女の言っていることは一般に知られているようなことではない。
安全性を第一に考えていない客であれば、安い店に流れても仕方のない事だろう。
しかし、そこであることに気が付く。
先程の理由がこの店に客があまり来ないことにつながるのはわかるが、果たしてそれだけなのか、と……
(バンッ)
「「「っ!?」」」
考え事をしていると、いきなり扉が勢いよく開いた。
俺たちは思わずそちらに視線を向ける。
そこにいたのは一人の青年だった。
彼は女性に鋭い視線を向け、はっきりと宣言する。
「うちの魔道具が売れないのは他の店だけが理由じゃないですよ。この店自体にも問題があります」
なんか開口一番、青年はそんな失礼なことを言っていた。
いやいや、いきなりどうした?
俺たちは思わずそんなことを思ってしまっていた。
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