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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第1章 死んだ社畜は異世界に転生する 【幼年編】
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エピローグ 死んだ社畜は異世界転生を楽しむ (改訂)


「あなた、これはどういうことかしら?」


 俺が落ち込んでいると、いきなり女性の声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声だったので、顔を上げると……


「えっ、エリザベスっ!?」


 そこにいたのは憤怒の表情を浮かべるエリザベスの姿だった。

 そんな彼女の登場にアレンがなぜか驚く。

 一体、どうしたんだろうか?


「今の時間、あなたは書類をチェックする時間よね? どうしてこんなところにいるのかしら?」

「えっと……それは……」

「まさか、仕事をサボって子供たちと訓練をしていた、とか言わないわよね?」

「……」


 完全にばれていた。

 アレンは何も言い返すことができず、ただただ黙ることしかできなかった。

 というか、俺たちが提案したせいで父親が怒られているのは少し申し訳なく思ってしまう。

 まあ、サボるためという理由で訓練を選んだアレンにも問題はあると思うが……


「それで、あの氷の壁は一体どういうことかしら? 訓練で使ったの?」

「えっと……それは……」


 妻の尋問にアレンはどう答えるべきか悩んでいる。

 だが、書類作業すら苦手な彼が考えたところで満足してもらえる言い訳など思いつくはずがない。

 そんな中、予想外の助け船が入る。


「ん……これは、シリウスの魔力」

「えっ!?」


 いつの間にか現れたクリスが氷の壁に触っており、壁を作った人物を見事に言当てていた。

 まさか魔力で誰かわかるとは思わなかった。

 流石の俺でもまだそんな芸当はできないからな。


「本当にシリウスが造ったの? グレインの間違いじゃなくて……」

「うん。グレインの魔法だったら、もっと変な感じがするはず……これは純粋な氷魔法」


 変な感じとはいったいどういうことだろうか?

 意味が分からないが、魔法が得意なクリスが言うのであれば気になるようなことがあるのだろう。

 まあ、注意とかされていないので、悪い事ではないと思うが……


「それで、あなた?」

「……はい」

「どうしてシリウスの作った氷の壁がこんなところにあるの? しかも、木刀が突き刺さっているじゃない。訓練には参加させないんじゃなかったの?」

「えっと……」


 エリザベスの質問攻めにアレンの顔がどんどん青ざめていく。

 おそらく両親たちの間でシリウスは訓練に参加させないと決めていたのだろう。

 だが、俺とシリウス本人の頼みのためアレンは断れなかったのだ。

 仕方がない、助け船を出すか……


「母さん」

「なに、グレイン?」

「父上は悪くありませんよ」

「どういうこと?」


 俺の言葉にエリザベスが怪訝そうな表情を浮かべる。

 助け船を出したことに気が付いたのか、アレンの顔に色が戻る。

 どれほど怖かったのだろうか?

 あと、助け船を出したつもりではあるが、絶対に成功するというわけではないことを肝に銘じておいて欲しい。


「たしかにシリウス兄さんは模擬戦闘を行いましたが、それは僕とシリウス兄さんが望んだことです」

「っ!? なんでそんなことをっ!」


 俺の説明で彼女の表情に再び怒気が含まれる。

 うん、アレンが恐れる理由がわからないでもないな。

 だが、ここで引いてしまうと俺が怒られることになりそうなので、恐怖を押さえて説明を続けよう。


「いつまでのシリウス兄さんがアリス姉さんに負けたままではいけないという話になり、勝つための作戦を考えたんです。それで戦闘をして……」

「まさか……勝ったの? シリウスが?」

「はい」


 エリザベスの驚いたような反応に俺は頷く。

 クリスの方も同様の表情を浮かべている。

 どれほどシリウスは戦闘面で期待されていなかったのだろうか。

 思わず同情してしまいそうになるが……


「シリウス、大丈夫なの?」

「……怪我とかしていない?」

「ふぇっ!?」


 二人の母親は俺の肯定を聞くや否や、シリウスに慌てて話しかけた。

 もしかすると、彼女たちはシリウスが模擬戦で勝ったことよりも怪我をした可能性を心配したのかもしれない。

 まあ、妹に負けるような兄ならば、勝ったとしても辛勝──どこか怪我を負っていてもおかしくはないしね。

 だが、今回はシリウスが無傷で勝利することはできた。

 もちろん、アリスの方も両腕を氷で冷やされたこと以外は無傷である。


「どこも怪我をしていないようね」

「ええ……ちょっと魔力が減っているけど、体に異常はない」

「……僕は大丈夫だよ。というか、なんでそんなに心配を……」

「「それはシリウスだからよ」」

「……」


 母親二人にハモられたシリウスは思わず黙ってしまった。

 心配してくれるのはありがたいが、自分だからという理由で心配されるのは男として少し心外だと思ったのだろう。

 まあ、彼の今までの立場なら仕方がないのだが……


「はぁ……僕は無傷でアリスに勝ったんだよ。ちゃんと父さんが見てくれていたから、不正もないしね」

「本当なの? あのアリスに?」

「……信じられない」

「……泣いてもいい? 流石にそこまで言われると、涙が出てきそうになるんだけど……」

「「ごめんなさい」」


 シリウスの反応に母親たちは頭を下げる。

 彼女たちからすれば心配していただけなのだが、自分たちの言葉が彼を傷つけたことに気が付いたのだろう。

 まあ、これで彼女たちも疑うことはないだろう。


「別にアリスを力づくで打倒したわけじゃないよ? ツッコんできたアリスをあの氷の壁で拘束しただけだから」

「……なるほど」

「それだったら、シリウスでもアリスに勝てる可能性はあるわね」


 シリウスの説明に母親たちは納得する。

 だが、彼女たちが納得したことにシリウスが少し悲しげな表情になる。

 まあ、簡単に納得されるのも不本意だろう。


「といっても、もう一回やって勝てるわけがないから、もう戦うつもりはないよ」

「……危険だからやめた方が良い」

「そうね。今のアリスの攻撃なんか喰らったら、シリウスの骨じゃ耐えられないはずよ」

「……まあ、それは僕も納得しているよ。あと、一つ決めたことがあるんだ」

「「?」」

「僕、魔法の訓練をしようと思っているんだ」

「「えっ!?」」


 シリウスの言葉に二人の母親は驚く。

 しかし、驚きながらもそこには嬉しそうな雰囲気を感じた。


「それは本当なの? なんでいきなり魔法を訓練しようなんて……」

「……アリスに負け続けて訓練自体嫌になったんじゃないの?」


 だが、嬉しそうな雰囲気とは裏腹に彼女たちから出てきたのは心配の言葉だった。

 まあ、息子が頑張ろうという気持ちは嬉しいだろうが、それよりも息子のことを心配しないといけないと思ったのだろう。

 しかし、そんな二人にはっきりと彼は宣言した。


「今回の戦闘で僕は思い知ったんだ。僕でも頭と魔法を使えば、アリスを倒せる──この領地にいる魔獣だって倒すことができるんだって、ね」

「……わかったわ。そこまでシリウスが言うんだったら、私は止めない」

「クリスっ!?」


 シリウスの宣言をクリスはあっさりと受け入れた。

 そんな彼女の反応にエリザベスは驚く。


「……シリウスがここまで言うんだったら、母親として応援するのが当然」

「でも、魔獣を倒すとか言ってるのよ? この辺りの魔獣がどれだけ強いか知っているでしょう? 私たちでも一人で倒せるかどうか、ってレベルなのよ?」

「……作戦を立てたとはいえ、今のアリスに勝てるのならば問題はないと思う。現時点でアリスは新人冒険者すら相手にならないほど強いんだから」

「それはそうだけど……」


 クリスの言葉をエリザベスは理解したようだが、納得はできないようだった。

 まあ、今まで心配していた子が自立しようとしているのだから、心配するのは仕方がないだろう。

 そんな彼女に配慮してだろうか、クリスはシリウスに話しかける。


「……シリウス」

「どうしたの?」

「……一つだけ約束して。魔獣と戦うことは認めるけど、絶対に危険な真似はしないこと。危険だと思ったら、わき目も降らずに逃げなさい」

「……」

「……約束できる」

「うん、わかった」

「よし」


 自身の提案を受け入れた息子にクリスは満足げに頷く。

 そんな二人の会話を横で見ていたエリザベスは大きくため息をつく。


「クリスが認めるんだったら、私も認めるしかないわね」

「……ごめんね。私としては息子が立派になると嬉しいから……」

「それは私にとってもよ。シリウスは私がお腹を痛めて産んだ子じゃないけど、それでも息子だと思っているもの」

「リズ……ありがとう」


 どうやらシリウスのことは認めてもらったようだ。

 これでめでたしめでたし──そう思ったのだが……


「さて、あなた……お説教の続きをしましょうか?」

「えっ、リズっ!?」


 シリウスの件に納得したエリザベスの意識はいつの間にかアレンの方に向いていた。

 彼女はアレンの服の襟首を掴むとそのまま屋敷の方まで引っ張っていった。


「……ふふっ」


 俺はその光景を呆然と見ていたが、いつも通りの光景だとすぐに気付いて思わず笑い声を漏らしてしまった。


 これが俺の異世界での日常──案外悪くないと思ってしまった。







これで第1章は終わろうと思います。

すぐに第2章を投稿していこうと思うので、ぜひ読んでください。


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