5-50 死んだ社畜は魔道具店にいく
「へぇ~、ここが魔道具店か~。初めて見たわ」
目の前の建物を見て、シャルの口からそんな言葉が出た。
それも当然だろう。
目の前にある建物は王都にあるにもかかわらず、王都にある他の建物と似ても似つかないからだ。
俺たちが先ほどまでいた場所から徒歩20分ほどだろうか、メインストリートからわき道に逸れ、奥に奥に進んでいった裏路地にその店はあった。
王都のメインストリート──いや、脇道に入ってからも周りにあった建物は石材などで構成されていた。
しかし、目の前の建物は木材をメインに構成されており、周囲の建物との差がものすごく気になってしまう。
しかも、光があまり届かない裏路地にあるせいか、建物が影のせいでものすごく暗くなってしまっている。
非常に怪しげな雰囲気を漂わせている。
正直、何も知らなかったら入ろうとは思わないだろう。
しかし、ここがモスコのおすすめの魔道具店であることには変わりない。
「……入ろうか」
「……そうだね」
俺とシリウスは意を決して、建物の中に入ることにした。
そんな俺たちの後をシャルがついてくる。
(ギィッ)
扉に手をかけ軽く押すと、あまり建付けが良くないのか嫌な音が鳴る。
それを気にしない方向で建物の中に入ったのだが、目の前の光景に俺は言葉を失ってしまう。
それはシリウスも同様で何も言えないらしく、ただただ驚いた表情を浮かべているだけだった。
「なにかしら、これ? 初めて見るわね」
唯一、シャルだけは物怖じをせずに周囲に興味を示していた。
どうして、彼女はこうも楽しそうに振る舞えるのだろうか?
建物の中は非常に暗く、この場にいるだけで陰鬱な雰囲気にさせられるようだった。
一応、灯のついたランプもこの空間にいくつか吊るされているのだが、ぼんやりとした光しか発していないので何とも言えない雰囲気を増強しているのだ。
周囲に置かれている──おそらく魔道具であろうよくわからない物も部屋の怪しさを一層引き立てている。
正直、こんな場所とは思っていなかった。
魔法を使う人間として一度は魔道具店に来たかったのだが、まさかこんな店だとは思わなかった。
さて、どうするべきか──次の行動を考えようとした瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。
「おや、お客さんかい?」
「「っ!?」」
いきなりの声に俺とシリウスは思わず驚き、体を震わした。
そして、声の方向に視線を向けると、そこには黒いローブに身を包んだ何かがいた。
いや、正確に言うと人間であることはわかるのだが、この暗い空間のせいで顔がよくわからない。
声から女性であることはわかるのだが……
「おやおや、まだまだ子供じゃないかい? ここは子供の遊び場じゃないよ?」
声の主は俺たちの姿を確認すると、まるで孫に注意するように優し気にそんなことを言ってきた。
まあ、子供であることは事実だし、魔道具というのは扱いが危険なものであるのでそんなことを言われても仕方がないだろう。
しかし、俺たちも目的があってこの場所に来たのだ。
とりあえず、それを伝えようとしたのだが……
「すみません。私たちは魔道具に興味があるので、見せてもらえないかしら?」
俺が口を開く前にシャルがそんなことを告げた。
本当に物怖じをしない性格である。
普通は目の前にこんな怪しい人間が現れれば、普通はもう少しいろいろと慎重になったりするだろう。
どうして、そんなにあっさりと行動できるのだろうか?
しかし、そんなシャルのおかげで目の前の人物は少しこちらに興味を持ってくれたようだ。
「ほう……まだ子供なのに、珍しいねぇ。もしかして、お前さんたちは魔力があると言われた人間かい?」
「はい、そうです」
「三人ともかい?」
「こちらの二人についてはわかりませんが、おそらくそうだと思いますよ」
「ほう……」
シャルの言葉を聞き、目の前の人間の視線が俺たちに向けられる。
ローブの中からエメラルド色の綺麗な光が二つ見えた。
あまりの綺麗さに俺は思わず息を呑んでしまった。
そして、見つめられてから数秒後、再びローブの中の人物が口を開いた。
「どうやら言っていることは本当のようだね。全員、魔道具を扱うのに十分な魔力を持っているようだ」
「本当ですかっ!」
ローブの人物の言葉にシャルが嬉しそうな表情を浮かべる。
まあ、嬉しく思って当然だろうか?
彼女は今まで魔法を使ってはいけないと言われてきていたので、自分が魔道具を使うことができると認められたのだから嬉しくて仕方がないのだろう。
まあ、俺たちは魔道具を使うことができるぐらいの魔力があることはわかっていた。
なんせ、俺たちの母親はエリザベスとクリスなのだから……
子供である俺たちに魔力があるのは当然である。
そもそも小さいころから魔法を使っていたのだから、魔力があること自体はわかっていたし……
しかし……
「見ただけでそんなに簡単に魔力の量がわかるんですか?」
俺はふとローブの人物の言葉が気になってしまった。
たしかに俺たちに魔力があることはわかっている。
それに俺だって相手に魔力があるかどうかについて判断する方法は持っている。
俺は相手の体を流れる魔力の流れを感じることにより、相手の魔力の量と種類を判断することができる。
しかし、さっきのように短時間でそれを判断することはできない。
一体、どうやって……そんな疑問を感じていると、ローブの人物が右手を顔の横にやる。
そして、顔のあたりを覆っていたローブをめくった。
「「「えっ!?」」」
中から現れたのは一人の美しい女性だった。
年齢は二十代後半ぐらいだろうか、少し勝気な雰囲気の鋭いエメラルド色の吊り目が特徴の褐色美人だった。
髪の色は肌の色とは対照的に白っぽく、そのコントラストが非常に美しく感じてしまう。
とりあえず、どう見ても先ほどような口調で話すような年齢には見えない。
しかし、俺たちが驚いたのはそれが理由ではなかった。
俺たちが驚いたのは、彼女の──人間ではありえないぐらい長くて尖った耳である。
「おや、エルフに会うのは初めてかい、子供たち?」
「「「え、エルフぅっ!?」」」
女性の言葉に俺たちは異口同音に反応してしまった。
そんな俺たちの反応に女性はからからと笑っていた。
おそらく、予想できていた反応だったのだろう。
自分の思った通りに反応した俺たちのことを笑っているのだろう。
しかし、まさかこんなところでエルフに会うとは思わなかった。
俺は思わず王都が凄いと思ってしまった。
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