5-47 死んだ社畜は違う見方を知る
「まあ、とりあえず犯罪者じゃないことが分かったから良しとするか」
「うん、そうだね。というか、そもそもこんな綺麗な子が悪いことするとは思わないけどね?」
とりあえず、俺とシリウスは彼女との会話からそんな結論を導いた。
彼女は若干お転婆なところがあるようだが、先ほどの会話からそのようなことをするような娘には見えない。
まあ、一概には言えないのかもしれないが、それでも俺たちは彼女が大丈夫であると思ったのだ。
「き、綺麗っ!?」
「「?」」
そんな俺たちの会話に少女が驚いたような反応を示した。
俺たちはそんな彼女の反応に首を傾げる。
一体、何を驚いているのだろうか?
「何をそんなに驚いているんだ? そのルックスなら、しょっちゅう言われているんじゃないのか?」
「……なんでそんなことが言えるのかしら?」
俺の言葉に少女が警戒を強める。
おや、もしかすると言うことを間違えたのだろうか?
俺としては、当たり前のことを言っただけなのだが……
まあ、警戒され続けるのはあまり気持ちのいいものではないので、説明することにしよう。
「身に付けている衣服や所作、それに雰囲気から君は身分が高い事が窺える」
「(びくっ)」
少女が体を震わせる。
おや、驚かせてしまったのだろうか?
もしかすると、彼女は自分の身分が高い事を隠したがっているのかもしれない。
だが、彼女ではそれは難しいだろう。
「一見すると身分がそこまで高くないように見える服を着ているけど、あくまでそう見えるだけだな。一つ一つのパーツを見れば、身に付けている服がかなり高級なものに見えるよ。まるで高い金を使って平民の服を作ったみたいだ」
「……」
「それに動きの端々から貴族の令嬢らしき部分が見えてくるな。少なくとも平民がしないであろう行動もちらほらと見える」
「……」
「というわけで、僕たちは君が貴族の令嬢であると見たわけだけど、間違っているか?」
「……いえ、間違っていないわ」
俺の言葉に少女が諦めたように両手を上げる。
おそらく、降参の意を込めての行動だろう。
理解できる行動ではあるが、女の子にさせるような行動ではないと思う。
流石に追い詰めすぎたか?
とりあえず、話を変えよう。
「といっても、街中を走るのは貴族の令嬢らしくはないな。いや、お転婆娘だとしたら問題はないか?」
「誰がお転婆娘よっ!」
おお、元気が出たようだ。
しかし、なぜか俺に対して敵愾心を向けられているのだが、これはどうしたものか?
明らかに俺の言葉が原因だろう。
別に間違ったことを言ったわけではないはずなのだが……
そんなことを考えていると、シリウスがたしなめるように話しかけてくる。
「グレイン、駄目だよ? 女の子相手に悪口を言っちゃ……」
「いや、別にそんなことは言っていないんだけど?」
「グレインは事実を言ったつもりかもしれないけど、受け取った本人は悪口ととらえるかもしれないんだ。ちゃんとそういうことは考えないと……」
「なるほど」
シリウスの言葉に俺は納得する。
たしかに、彼の言う通りなのかもしれない。
俺はあくまで事実を言っただけなのだが、人によっては余計なお世話だと思っても仕方がないかもしれない。
これからはそういう事を気を付けた方が良いのかもしれない。
「……別に構わないわ。私も周囲からよく言われてるしね」
「そうなのか? というか、それは貴族の令嬢としてどうなんだ?」
少女の言葉に俺は思わずそんな反応をしてしまう。
しかし、そんな俺の言葉にシリウスがすぐに反応する。
「グレイン……それは僕たちが言える立場じゃないと思うよ?」
「なんで……って、ああ。そういうことか」
一瞬、シリウスの言うことが分からなかったが、すぐに何のことか思い至った。
たしかに、俺たちに貴族の令嬢がお転婆娘であることをどうこういう権利はないのかもしれない。
なんせ……
「どういうこと?」
「……僕たちの家族にもお転婆娘がいるからね。一人は僕の双子の妹」
「もう一人は俺の婚約者だな。周りの男ども顔負けにお転婆だから、困っちまうんだ」
「っ!?」
俺たちの言葉を聞いて、少女が驚愕の表情を浮かべる。
もしかすると、仲間がいたと思ったのだろうか?
いや、だとしたら驚きすぎだろう。
思わず質問してしまった。
「何をそんなに驚いているんだ?」
「だって……君……婚約者がいるの?」
「そこかよっ!」
あまりの言葉に俺は思わず叫んだしまった。
初対面の人間にその反応は失礼すぎないか?
俺に婚約者がいることがそんなに変か?
「グレインには三人の婚約者がいるよ」
「三人もっ!? 女の敵なのかしら?」
「失礼なっ!」
本当にこいつは貴族の令嬢なのだろうか?
流石に初対面の同年代の男相手にずけずけと言い過ぎだろう。
俺じゃなかったら、泣いているんじゃないのか?
「グレインはすごいからね。だからこそ、そういう話が寄ってくるわけだよ」
「……そうは見えないけど、言わんとしていることはわかるわ。それで、貴方は?」
「僕? 僕には婚約者なんていないさ」
「そうなの? それだけの美貌に頭も切れるみたいだし、いてもおかしくはないと思うけど……」
「はははっ。残念なことに僕にはそういう相手はまだいないよ」
「そう」
シリウスが苦笑しながら自虐すると、少女は短く返事をした。
まあ、これ以上は広げられる話でもないからな。
彼女がシリウスに好意を抱いていたらそこから話が広がっていたのかもしれないが、いかんせん俺たちはまだ出会ったばかり。
流石にここでそういう話に広がるには時間が足りなかった。
とりあえず、俺が言えることは……
「とりあえず、次期当主候補の兄さんには一刻も早く結婚してもらいたいね。じゃないと、父さんたちも安心して領地を任せられないじゃないか?」
「また、そうやって僕に跡継ぎを押し付けるつもりだね? 父さんはまだ決めていないって言っているんだから、そういう外堀を埋めるような真似はやめてよ」
「でも、シリウス兄さんは長男でしょ?」
「勝っているのは年齢だけさ。それ以外の部分はグレインの方が上じゃないか」
「いや、そんなことはないよ。兄さんの魔法なんて……」
俺の言葉にシリウスが文句を言ってくる。
くそ……この少女に聞かせて、貴族に噂を広げる俺の計画が……
流石にシリウスのいる前でこの行動は無理があったか。
そんなことを考えていると、不意に少女がクスッと小さく笑う。
俺たちはそんな彼女に振り向く。
「ふふっ、ごめんなさい。あなたたち、仲が良いのね?」
「「どうしてそんなことが言えるの?」」
「だって……嫌いな人間だったら、相手を貶めるようなことを言うでしょ? 二人とも、相手のことを褒めてるし……」
「「……」」
彼女の言葉に俺たちは顔を見合わせる。
たしかにそうかもしれないな。
いや、俺たちは元々仲が悪いつもりはないのだが、よくよく考えれば彼女の言うとおりである。
当たり前のことだと思っていたが、まさかの見方に思わず俺は小さく笑ってしまった。
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