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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
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5-39 死んだ社畜は婚約者の気持ちを考える


「やっぱり、いろんな店があるわね」

「まずはどこに入るべきかな?」

「……迷っちゃう」


 メインストリートを歩きながらアリス、ティリス、レヴィアの三人がそんな会話をしている。

 その声音からも楽しげな雰囲気は伝わっており、表情を視なくても笑顔であることは理解できる。

 まあ、リクール王国の最大都市を歩いているのだから、それも仕方のないことかもしれない。

 日本で言うなら、田舎者が東京に初めて行ったときの気持ちに近いだろうか?

 そういう人たちも彼女たちと同じようにワクワクしているだろう。

 まあ、俺はずっと西の方に住んでいたので、東京に行ったことはないのでその気持ちはわからないが……


「グレイン様、大丈夫ですか?」

「ん? ああ、痛みはひいてきたよ」


 三人娘の後ろで俺と並んで歩いていたリュコが少し心配そうな表情で聞いてくる。

 おそらく先ほどアリスにつねられた頬のことを聞いているのだろう。

 とりあえず、痛みは引いていたので、心配ない事は伝えておく。

 しかし、そんな俺の言葉を聞いた彼女はおかしな方向に話を進めておく。


「ですが、少しは反省してくださいね?」

「どういうことだ?」

「間違いを訂正することは当然のことですが、少しは言い方を考えてください」

「どういうことだ?」


 リュコの言葉に俺は首を傾げてしまう。

 いや、言わんとしていることはわかっているが、どうしてそんなことを言われたのかがわからないのだ。

 俺は別に間違ったことなど言った覚えはないのだが……


「先ほどの店主に婚約者かどうか聞かれたとき、「四人とも女房じゃない」といいましたよね?」

「ああ、そうだな」


 俺はたしかに先ほどの店主にそう言ったはずだ。

 アリスは姉だし、残りの三人はまだ婚約者である。

 しかも、俺に至ってはまだ8歳だ。

 女房と表現することは間違いであるだろう。

 何がおかしいのだろうか?


「たしかに間違ってはいませんが、あの表現だとティリス様とレヴィア様がかわいそうですよ?」

「そうなのか?」

「ええ。お二人はグレイン様のことを愛していますので、グレイン様から「女房じゃない」と言われるだけで悲しい気持ちになるはずです」

「……よくわからない気持ちだな」


 俺としてはリュコの言っている意味がよくわからない。

 間違っているのであれば、それを正すのが当然の行動だ。

 言い方を考えるべきというのはわからないでもないが、あのときはそれ以外にどう伝えればいいのかわからない。

 そんな俺にリュコは提言してくる。


「そこは「女房じゃないですが、婚約者です」とか「愛しい人です」とか言うべきですよ? そうしたら、相手にも周囲にも気持ちを伝えることができますから」

「えぇ~」


 リュコの言葉に俺は思わずそんな声を出してしまう。

 そこまで言わないといけないのか、そう思ってしまったからだ。

 しかし、そんな俺にリュコは呆れたように説明する。


「たしかにまだお二人はまだグレイン様の奥様ではないでしょうが、それでも婚約者であることには変わりありません」

「まあ、そうだね」


 リュコの言葉に俺は頷く。

 言っていることは理解できるからだ。

 今さら婚約者も流れで決まってしまった、などというつもりもない。


「では、そんな相手に否定されるような言葉を言われたらどう思いますか?」

「……そりゃ、悲しいんじゃないか?」

「ええ、そうですよ。お二人はグレイン様のことを愛しているのに、グレイン様はそれを否定するようなことをおっしゃりました。ということは、お二人は悲しまれていますよね」

「……そういうものか?」


 なんとなくわかるような、わからないような話である。

 言わんとしていることはわかるが、だからといって本当にそうなのかとも思ってしまう。

 第一、俺は【女房】であることを否定しただけで、別に【婚約者】であることを否定したつもりはないのだが……


「とりあえず、グレイン様はきちんとお二人に対する好意を表現するべきなんですよ? そうすれば、お二人も安心するでしょうから」

「……はぁ、わかったよ。これからは気を付けるよ」

「それでいいです」


 俺の言葉にリュコは微笑む。

 その笑顔に少しどきりとしたが、俺はその気持ちを気取られないように視線を逸らす。

 そのまま気持ちが治まるまで、彼女の方を見ることができなかった。

 そして、五分ほど経っただろうか、ようやく気持ちが落ち着いた後で気になることがあった。


「そういえば、リュコはどうして怒っていないんだ?」

「? どういうことでしょう?」


 いきなりの俺の質問に今度はリュコが首を傾げる番だった。

 俺の質問がわからないようだった。

 まあ、いきなりだったからそれも仕方がないだろう。


「リュコだって俺の【婚約者】の一人だろう。だったら、二人と同じで俺のことを怒っているんじゃないかと思ったんだが……」

「ああ、そのことですか……」


 ようやく理解したようで、リュコが納得したような表情を浮かべた。

 彼女は少し考えたようなそぶりを見せ、すぐに口を開いた。


「まあ、たしかに否定されたことには怒りもしましたが、すぐにその怒りも治めました」

「どうして?」


 とりあえず、怒っていたことはわかった。

 しかし、どうして怒るのを止めたのか、それが気になってしまった。

 なので、思わず聞き返してしまったわけだが……


「私はグレイン様が産まれたときから一緒に過ごさせていただいています」

「? まあ、そうだな」

「専属メイドですので、おそらく誰よりもグレイン様と一緒にいることが多いはずです」

「……たしかにそうかもしれないな。だが、それはどういうことなんだ?」


 リュコの言っていることはわかるのだが、この状況でそんなことを言う意味が分からない。

 一体、彼女は何を伝えたいのか、とても気になってしまう。

 そんな悩む俺の姿を見て、リュコが微笑を浮かべる。


「それは内緒です。ご自分でお考え下さい」

「なっ!?」

「ほら、皆さんと離れてしまっていますよ。急ぎましょう」

「ち、ちょっと待ってくれよ」


 リュコは強引に話を切り上げ、アリスたちのもとに駆けて行ってしまった。

 話を切り上げられた俺は仕方なく彼女について行く。

 これではもう彼女に聞くことはできないだろう。

 仕方がないのでこの件は諦め、自分で考えることにしよう。

 だが、もう一つだけ気になることが……


「でも、どうしてアリス姉さんが怒っていたの?」

「さぁ、どうしてでしょう?」

「えっ!?」


 俺の質問にリュコもわからないといった様子で首を傾げた。

 じゃあ、どうしてアリスは俺に対してあんなに怒っていたのだろうか?

 なぜか、もう一つよくわからない疑問が残ってしまった。






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