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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
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5-37 死んだ社畜は今日の予定を聞かれる


 朝食の時間は楽しげな雰囲気のまま進んでいった。

 流石は伯爵家の料理人と言ったところか──出された朝食はとてもおいしいものだった。

 見た目が良くて味が良いのは当然ではあるが、それぞれの素材がしっかりと存在感を示しているのが良かった。

 料理人の腕がいいのだろう。

 似たような料理ならば男爵領でも作れるかもしれないが、おそらくこのレベルの料理を作ることはできないだろう。

 だが、王都にいる間はこの料理を食べ続けることができるので、学ばせてもらうのも一つの手かもしれない。


「今日はみんな、何か予定はあるの?」


 朝食が終わり食後のティータイムでのんびりとしていると、リナリアさんが俺たちに問いかけた。

 そんな彼女の質問に俺たちは順番に答えた。


「私とエリザベスはリオンとルシフェルと一緒に冒険者ギルドに顔を出してきます。久しぶりの王都ですので、挨拶はしておかないと」と、アレン。

「僕は王都の本屋に行きたいな。都会でしか買えない本もあるかもしれないし……」と、シリウス。

「私は王都の街を散策しようかしら? せっかくの王都だから、いろんなところを回ってみたいわ」と、アリス。


 どうやら、それぞれ王都の街に行くようだ。

 せっかく田舎から出て王都に来たのだから、それも当然だろう。


「僕も王都のいろんなところを見て回ろうかな? 王都にしかないものもあるだろうから、そういうのを見つけたいかな」


 俺も王都を散策することを伝える。

 やはり、こういう都会に来たのだから散策は基本だろう。

 俺はシリウスの読書のようにこれといった趣味があるわけではないのだから、いろんなところを回りたいと思っている。

 そこで新たな発見を楽しむわけだ。


「私たちは屋敷でのんびりとしたいかな?」

「……うん。街に行くのはもう少し後でいい」


 ハクアとクロネは屋敷に残るようだ。

 少し疲れたような雰囲気なので、おそらく旅の疲れが出たのだろう。

 いくら馬車に乗っているだけとはいえ、4歳の女の子たちにこの長旅はかなりきつかったはずだ。

 今日は外に出たくないと思っても仕方のないことかもしれない。


「じゃあ、二人は私と一緒にお話をしましょう。甘いおやつもあるわよ?」

「「え、ほんと?」」

「ええ、もちろん。私はお菓子が大好きだから普段からたくさん取り置きしているし、

その日しか食べれないものだったら使用人にすぐに買いに行ってもらえるからいろんなものが食べられるわよ?」

「「わーい」」


 リナリアさんの言葉にハクアとクロネが笑顔を浮かべる。

 甘いお菓子と聞いて、女の子心が刺激されたのだろう。

 やはり、女の子と言えば甘いものだからな。

 しかし、リナリアさんに文句を言う人物がいた。

 それはクリスである。


「もう、お母さん。あまり甘やかさないで」

「何よ。せっかくのかわいい孫との交流なんだから、とことんまで甘やかすわよ」

「甘やかしすぎるとあとで困るのは私たちなんだけど?」


 嬉しそうなリナリアさんの言葉にクリスは不満げな表情である。

 まあ、子供たちが甘やかされすぎるのは親からすればあまり喜ばしい事ではないからだ。

 下手をするとわがままになり、言うことを聞かなくなってしまうことも多々あるからだ。

 だが、そんなクリスにリナリアさんは笑顔で告げる。


「甘やかされ過ぎたくなかったら、少しは交流をさせるべきじゃなかったのかしら? 孫が産まれたときぐらいはしっかりと連絡しなさいよ」

「うっ」


 リナリアさんの言葉にクリスはたじろぐ。

 おそらく、痛い所をつかれたと思っているのだろう。

 まあ、この件に関してはクリスの方に問題があるか。

 自分の子供が生まれたということは、リナリアさんに孫が生まれたということだ。

 だったら、それを連絡するのは当然の義務となるわけだ。

 完全に怠慢である。


「クリスは昔からしっかりしていた子だけど、あまり話したりするのは得意じゃなかったからね。連絡がしにくいのはよくわかるわ」

「いや……あの……」

「でもね? 親としては嫁にいった娘の安否は心配なの。いくらアレンさんが頼りがいがあっても、エリザベスさんが優しくても──しっかりと連絡がないと不安に思ってしまうものなのよ」

「うぅ、ごめんなさい」


 リナリアさんの言葉に、クリスは謝罪するしかなくなっていた。

 まあ、これは完全にリナリアさんの方が正論である。

 娘を心配するのは親としては当然の感情であり、そんな親に連絡しなかったのはクリスの失態である。

 そんなリナリアさんの言葉に伯爵が横でうんうん頷いていた。

 彼もクリスの父親なので、リナリアさんと同じ感情を抱いているのだろう。

 しかし、今度はそんな彼にリナリアさんが文句を言う。


「そもそも、クリスが連絡しづらいのはあなたのせいなのよ?」

「なっ!?」


 リナリアさんの言葉に伯爵が驚きの表情を浮かべる。

 どうしてそんなことを言われるのか、全く分かっていない様子だった。

 そんな彼にリナリアさんはくどくどと文句を言い始める。


「クリスは昔からあまり人と会話をしなかったから、こういう連絡がしにくい性格だったのはあるわ。でも、それに加えてクリスの結婚前にいろいろと言ったせいで連絡しづらくなったはずよ」

「ち、ちょっと待て。それはクリスのためを思って……」

「だからって、あれだけアレンさんを罵倒してもいい、と? せっかくクリスが珍しく自分の気持ちを伝えていたのに、それをないがしろにするようなことを言っていたわよね? 普通なら嫌われていたわよ?」

「うぅ……」


 リナリアさんの言葉に伯爵はすごく悲しそうな表情を浮かべる。

 ものすごく可哀想だった。

 まあ、その時の状況についてはわからなかったが、これだけ言われるということは相当いろんなことを言ったのだろう。

 リナリアさんの言っていることはもっともである。

 だが、伯爵の気持ちもわからないではない。

 彼がアレンに対して罵倒したりしたのは、クリスのことが心配だったからこそ……父親としては当然の感情だろう。

 俺だって、もし娘ができたとして、彼氏でも連れてこようものなら素直に受け入れることはできないかもしれない。

 いや、妹であるハクアとクロネに彼氏ができたとしても、同様の感情を抱いてしまうかもしれない。

 可愛いと思っているからこそ、生半可な相手に任せたくないと思ってしまうのだ。


「とりあえず、その件についてもいろいろと言わせてもらいますからね? 覚悟しておいてください」

「うぅ……」


 さらに説教の時間が増えるようだ。

 伯爵はさらに小さくなってしまっており、そこには先ほど俺と訓練したときの歴戦の猛将の姿はなかった。

 そこには家庭の中で肩身の狭い思いをしている父親の可哀そうな姿しかなかった。

 俺は心の中で同情することしかできなかった。






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