5-30 死んだ社畜は祖父母に自己紹介する
「さて、孫たちにも自己紹介してもらおうか?」
「ええ、そうね。初めて会うものね」
バランタイン伯爵夫妻の視線がいきなりこちらに向いてくる。
先ほどまでエリザベスを恥ずかしがらせていたのに、すごい切り替えようである。
正直、この人たちのことが分からなくなった。
いや、一つだけわかったことがある。
とりあえず、見た目よりは親しみやすそうな人だということだ。
「じゃあ、上から順番に……シリウスとアリス、いいかな?」
「うん、わかったよ」
「ええ、わかったわ」
アレンの言葉にシリウスとアリスが前に出る。
こういうのは年長者から紹介するのは当然だ。
二人は少し緊張した面持ちで口を開く。
「カルヴァドス男爵家長男のシリウス=カルヴァドスです。年齢は10歳で次の春から王都の学院に通うことになります」
「アリス=カルヴァドスです。シリウスの双子の妹で、同じく春から王都の学院に通います」
「はははっ、君たちには赤ん坊の時に会ったことがあるな。クリスの娘で、私の初めての孫だから覚えているよ」
「そういえば、シリウスは男の子だったわね。可愛らしい見た目をしているから、てっきり女の子だと思っていたわ」
「うっ!?」
自己紹介をした二人──正確にはシリウスは祖母の言葉に衝撃を受ける。
それはそうだろう。
今まで彼の周りで女の子扱いをした者はいなかった。
いや、彼のことを男らしく扱う者がいなかっただけで、はっきりと彼のことを可愛らしいと評する者がいなかったわけではない。
彼を知るほとんどの人間がそのように思っていた。
だが、彼はカルヴァドス男爵家の長男であるため、そのように言うのは躊躇われただけである。
しかし、夫人はあっさりと告げたわけだ。
しかも、冗談でも何でもなく、本気の本気で……
「おいおい、男の子に向かってそれは失礼じゃないか?」
「え、そうかしら? 私としては褒めたつもりだけど……」
「男の子にとっては可愛らしいというのはあまり褒め言葉じゃないぞ? 現にシリウスは泣きそうじゃないか……」
「あら、そうなの。ごめんなさいね」
「い、いえ……大丈夫です」
伯爵の指摘に夫人がシリウスに謝る。
シリウスはまだ少しショックを引きずりつつも、謝罪を受け入れる。
しかし、この二人も結構似ているな。
クリスは夫人似で、シリウスはクリス似ということだろうか?
まあ、血のつながりがあるのだから、そうなってもおかしくはないが……
とりあえず、二人の紹介が終わったので、俺も自己紹介することにする。
「カルヴァドス男爵家の次男──グレイン=カルヴァドスです。今年で八歳になります」
俺はできるだけ孫らしく振る舞う。
流石に初めて会う人間に普段の俺を見せるわけにはいかない。
普段から周りにいる人たちに対しては見せてもいいかもしれないが、初見の人にとって俺は子供らしくない。
そんな俺の姿を見て、この二人はどう思うだろうか?
……普通に受け入れそうな気がするけど。
「ふむ……」
「どうかしましたか?」
俺の自己紹介を聞き、伯爵が少し考え込む。
一体、どうしたんだろうか?
そんな俺の疑問を理解したのか、伯爵が真剣な表情をこちらに向ける。
「なんとなくだが、違うだろう?」
「何がですか?」
「そういうとこだな。それは普段の君じゃないだろう?」
「あ、わかりますか?」
「私と君は血のつながりはないが、それでも娘同様に思っているエリザベスさんの子供ならば孫同然だと思っている。そんな孫のことがわからなくて、何がおじいちゃんだ?」
どうやらあっさりと看破したようだ。
まあ、この人ならばそれぐらいできてもおかしくはないだろう。
「ありがとうございます。では、素の僕で話すとするよ」
「うむ。そっちの方が私も接しやすい。儂の周りには権力にあやかろうと下手に出るやつが多いから、そういう風に話さない方が親しみを持てる」
「はははっ、ありがとうございます」
意外とこの人はアレンに近いのかもしれない。
バランタイン伯爵は昔からの貴族のはずだが、成り上がりのアレンと似ているのはどうなのだろうか?
いや、この件に関しては貴族として長い事生きているからこその感想なのかもしれない。
とりあえず、理由は違えども同じような悩みをもつことがあるというわけだ。
「それに私がその魔力に気付かないとでも?」
「……やはり隠し切れないですか?」
「ああ、もちろん。グレインは明らかに子供レベルではない──正確に言うならば、この場にいる大人のトップクラスにも引けを取らない魔力を持っていることぐらいはわかるさ。しかも、それを意図的に隠していることもな?」
「まあ、そうでしょうね」
どうやら俺が隠している魔力に気付いたようだ。
俺の魔力は異常に多いので、普段から人に会うときは抑えるようにしている。
イリアさんと話している時だって、俺は9割以上の魔力を体の奥底に押し込めているのだ。
この技術は正直かなり危険なのだが、そうでもしないと普通の人は耐えることはできない。
俺の魔力に当てられて、体調不良を起こしかねないのだ。
これはエリザベスやクリス、ルシフェルもしていることである。
そして、おそらく伯爵自身もしていることだろう。
「私も魔法を扱うから、それぐらいはわかって当然だ。グレインだって、私の実力ぐらいはわかっているんじゃないのか?」
「当然じゃないですか」
伯爵の言葉に俺は笑顔で答える。
先ほどから伯爵は俺に向かって魔力を放っていた。
エリザベスやクリス以上の魔力を俺にだけ向けていたのだ。
それだけでも十分な技能なのだが、すごいのはそれだけではない。
向けられている魔力だけでも十分人外レベルなのに、未だに余力を残しているようだ。
俺の感じでは魔力全体の6割程度を向けているので、4割近い魔力を残しているわけだ。
完全に化け物だ。
流石に魔力だけならルシフェルの方が上だが、種族で考えるならばどっこいどっこいではないだろうか?
「とりあえず、この滞在の間に私と模擬戦闘でもしようか? 昔の血がたぎるな」
「はははっ、お手柔らかに……」
伯爵の言葉に俺は苦笑してしまう。
伯爵なので貴族らしく振る舞う人かと思ったが、蓋を開けてみれば意外と脳筋のようだ。
類は友を呼ぶ、ということなのだろうか?
どうして俺の周りにはそういう人物が集まるのだろうか?
この世界に来て8年──俺はそんなことを心から考えてしまった。
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