5-21 死んだ社畜ははっちゃける
翌日から俺たちは王都に行くまでの道を整地することになった。
前日に領主のいる街に行くことになったのだが、それはイリアさんが領主に話を通すためだった。
俺が整地をできないのは他所の領地を勝手にできないことと領主から許可をもらうことに時間がかかってしまうからだ。
それらの問題をすべて取っ払うために、彼女は実家の権力を使ったわけだ。
といっても、流石に彼女が使ったのはあくまで領主とすぐに話をさせてもらった部分だけだが……
とりあえず、彼女はそこの領主に対してすぐに整地できるように話を持っていったわけだ。
そんな話を聞いた領主は最初は怪訝そうな表情を浮かべた。
まあ、いくら公爵家の令嬢が相手だとしても、いきなり突飛もないことを言われたらそれも仕方のない事だろう。
だが、イリアさんは俺を連れて行っていた。
一体、どうしてそんなことをしたのかと思ったのだが、すぐにその理由が判明した。
俺が魔法で整地する光景を見せるためだった。
領主を街の外に連れて行き、そこで俺が魔法を使った。
その際の領主の驚きの表情は思わず笑ってしまうほどだった。
人間とはここまで驚きの表情を浮かべられるのか、そう思ってしまうほどの感情が表に出ていたからだ。
まあ、そんなわけで翌日から魔法による整地を許可してもらうことができた。
ちなみにその領主はアレン=カルヴァドスの【巨人殺し】の話のファンらしく、アレンとエリザベスだけは後でものすごく質問されていた。
なんせ二人は当事者らしいからな。
「はははっ、流石はグレイン君だ。では、こんなことはできるかな?」
「なっ!? めっちゃ細かい模様だ! すげぇっ!」
というわけで、俺とルシフェルは翌日から走りながら整地しているわけなのだが、ずっと同じ行動をするのは飽きてくる。
その飽きを解消するために、俺たちは整地しながら各々の特徴を出しているわけだ。
俺が驚いたのは、ルシフェルが整地した部分に精巧な模様が描かれていることだ。
その模様は幾何学的な模様が繰り返し描かれており、地球で言うところの所謂【アールデコ調】の模様だった。
繰り返しの紋様を描くこと自体はそこまで難しくない技術ではあるが、それを整地しながらやっているわけだから彼の魔法の技術の高さがうかがえる。
「しかし、君の豪快な作品も見応えがありますよ。まるで本物と見間違えるほど生き生きとした造り──遠くから見たら本物と見間違えるかもしれませんね」
「まだまだこれぐらいしか作ることができないですけどね?」
ルシフェルは俺の創った作品のことを褒めてくれる。
俺としてはまだまだつたない技術なので、褒められるようなことではないと思っている。
現に俺はルシフェルの描いた模様を描くことはできないが、おそらくルシフェルは俺の造った作品を造ることができるだろう。
それほどまで俺とルシフェルの魔法技術には差があるわけだ。
今まで異常なほどすごいと驚かれていた俺の魔法もあくまで子供の枠でという話──ルシフェルに比べれば、格段に見劣りがするレベルだということだ。
まあ、それでも十分にすごいわけなのだろうが。
「おいおい、お前ら……あまりやりすぎると怒られるぞ?」
俺たちがそんな会話をしていると、一緒に走っていたリオンがそんなことを言ってきた。
彼は魔法を使うことはできない──しかし、体を動かすのが好きなので一緒に走っているわけだ。
しかし、彼にそんなことを言われるとは思わなかった。
俺たちは思わず文句を言ってしまう。
「別に大丈夫でしょう? 整地はきちんとしているのですから」
「そうだね。これ以上ないぐらい頑丈に作っているから、そうそう壊れることはないだろうし……」
「いや、そういうことを言っているんじゃ……」
俺たちの文句を聞き、リオンは言葉に詰まる。
一体、どうしたのだろうか?
だが、俺には気にする余裕はなかった。
なぜなら、ルシフェルがさらなる作品を作ったからだ。
「グレイン君、どうですか? このドラゴンの像の出来栄えは?」
「なっ!? これは……ドラゴンの強そうな雰囲気に加え、細かい部分でその華麗さを表現している──しかし、だからといってごてごてとした必要のない華美さはない」
「流石はグレイン君ですね。意外とそういう方面の才能もあったようですね」
「ええ、僕自身もびっくりですよ。しかし、ルシフェルさんもまさかこのような才能があるとは……てっきり魔法だけの人だと思っていましたよ」
「はははっ、確かに私は魔法だけの魔族ですよ。ですが、魔法を究めようとするうえで自然と身に着いた技術がこれですよ」
「なるほど」
ルシフェルの説明に俺は納得する。
魔法という一点を極める過程において、その間に細かい作業が必要になってくる者があったりする。
つまり、長年魔法を研究しているルシフェルはその細かい作業をずっと訓練してきたわけで、その過程でその部分の技術が向上したわけだ。
たとえあまり得意ではなかったとしても、人に見せることができるぐらいすごいものができるのだろう。
まあ、見た感じ元々の技術の高さもうかがえるので、ルシフェルにはそういう才能もあったと考えるのが自然ではあるが……
そんなことを考えながら俺たちは走っていた。
「きゃあっ!?」
「「「っ!?」」」
しかし、不意に後ろから悲鳴が聞こえてきた。
俺たちは驚き、すぐにきた道を戻った。
すると、そこには先ほどから俺たちが造っていた像の一つ──ドラゴンの像の付近で馬車が止まっていたのだ。
一体、どうしたのだろう──と思ったのだが、その原因がすぐに判明することに……
「グレイン? ルシフェル?」
「「ひゃ、ひゃいっ!」」
近くに言った瞬間、エリザベスの怒気に当てられて俺たちは声が裏返ってしまった。
なんせ完全に彼女は怒っていたからだ。
しかし、俺たちはなぜ怒られているのかわからなかった。
けれど、俺たちは怒られていることはわかっていたので、すぐにその場に正座することにした。
そんな俺たちにエリザベスが怒っている理由を説明する。
「こんなところに精巧な像を作らないのっ! 遠くから見たら本物と間違えるじゃないのっ!」
「えっ!? でも、いい出来なんだけど……」
彼女の怒っている内容を聞き、俺は思わず反論してしまう。
これらの作品は非常にいい出来なので、褒められこそすれ怒られるとは思っていなかった。
どうして怒られているのか、その理由がわからないのだが……
わかっていないのは、ルシフェルも同様だが……
そんな俺たちにエリザベスは一度大きくため息をつき、説明を続ける。
「昼間ですら見間違えるほど精巧な像なのよ? これをもし夜に通った人が見たら、どう思うかしら?」
「「あっ!?」」
彼女の説明でようやく気付くことができた。
俺たちが造った像は非常に精巧だ。
精巧であるがゆえに本物と見間違う危険性が伴うほどに……
そんな像を夜に見てしまったら……
「「ごめんなさい」」
「じゃあ、すぐに像を壊してきなさい。今までの道にあるのも全部ね」
「「……はい」」
自身の造った像の危険性を自覚した俺たちはせっかく造ってきた像を壊しにいくことになった。
結構な自信作だったがゆえに俺たちの足取りは重いものだった。
だが、ここまで怒られて拒否するほど、俺たちは命知らずではなかった。
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