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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
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5-19 死んだ社畜はやはり自由にならない


「ふぅ~、走ったなぁ」


 俺は木にもたれかかり、水筒の水を口に含んだ。

 当然、喉が渇いたからである。

 この世界の俺の体は地球で言うところの短距離走の選手も真っ青のスピードで走りながら、長距離走どころかフルマラソンの選手も真っ青な距離を走り切ることができるスタミナを持っている。

 だが、それはあくまでの身体能力なので、生理現象の方はどうこうすることもできない。

 当然、喉も渇くし、お腹もすく──トイレだって行きたくなる。

 まあ、それは馬車に乗っている人も同様ではあるので、そのために馬車の旅では休憩時間を設けているわけだ。


「まさか本当にあの距離を走っているとは思わなかったわ」

「イリアさん?」


 休憩している俺にイリアさんが話しかけてくる。

 その表情には俺と一緒に馬車の旅ができなかった悔しさよりも、俺が馬車の移動距離をついてきている驚きの方が大きかった。

 まあ、自分よりの2歳も年下の子供がそんなことをしているのだから、驚くのも当然かもしれないが……


「最初は途中で馬車に乗るか、休憩時間が増えるものだと思っていたのだけど……本当に人間の子供なの?」

「酷い言い草だなぁ~。一応、れっきとした人間の子供だけど?」


 イリアさんの言葉に俺は苦笑しながら答える。

 確かに彼女の言うことはもっともであり、本人である俺から見てもおかしいことは理解している。

 だが、それでも人間の子供であることは事実であるので、文句ぐらいは言っておこうと思ったわけだ。


「いやいや、あれで人間の子供はないだろう?」

「ええ、そうですね。人間の子供どころか、他種族の大人すらも凌駕する力を持っているわけですから、明らかにおかしいですよね?」


 俺たちの会話を聞いていたのか、リオンとルシフェルがそんなことを言っていた。

 いや、言っていることは否定しないけど、俺が異常だったらあんたたちはそれ以上だと思うぞ?

 俺の場合は転生の際に女神さまに任意の能力を貰っただけだが、あんたたちは自力でその力を得ているのだ。

 明らかにあっちの方が異常である。

 まあ、それを説明することはできないので、文句を言うことはないが……


「グレインっ!」

「グレイン君っ!」

「あっ!?」


 不意に俺の体が柔らかいものに包まれる。

 声の主からそれが何かはすぐに分かった。


「ティリス、レヴィア。いきなり抱き着くのは止めてくれないか? 危ないだろう?」


 俺は抱き着いている二人の婚約者に文句を言う。

 だが、男としては非常に嬉しい状況だったりする。

 俺に好意を抱いてくれる可愛い女の子に抱きつかれているのだから、男として喜ばしい事この上ない。

 この状況で喜ばないのは、女嫌いか同性愛者ぐらいだろう。

 しかし、この二人は今までこんな風にわかりやすく抱きついてきたことなどなかったのだが……


「ちょっと、何をしているのかしら?」

「婚約者だから抱きついているだけど? 私の愛情を表現しているだけよ」

「ええ、そうですね。私たちは婚約者ですから、このようなこともできるわけです」

「くっ!?」


 文句を言おうとしたイリアさんだが、二人の言葉に悔しげな表情を浮かべる。

 俺のいない馬車の中で何があったのかは知らないが、このような会話をできるということはそれなりに交流が深められたのかもしれない。

 まあ、仲が良いかといえば、そうではないみたいだが……


「相変わらず仲が良いわね~。一時はどうなるかと思ったけど、これなら大丈夫そうだわ」

「まあ、強い男にはたくさんの女が周りに集まると言いますし、妹たちの婚約者としては申し分ないわね」


 俺たちの様子を遠巻きに見ながらリオナとリリムがそんな会話をしている。 

 そんな微笑ましそうな表情をしてないで、助け船を出してほしいと思う。

 しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、彼女たちの会話が思わぬ方向に進んでいく。


「はぁ~、私にもいい出会いはないかしら? 妹に先を越されるとは思わなかったわ」

「たしかにそうですね。でも、グレイン君以上の男性なんてそうそういないと思いますけど?」

「そうなのよね~。一体どうするべきか……」

「でしたら、二人とも婚約者として名乗り出るのはどうかしら?」


「「「っ!?」」」


 そんな二人の会話に俺と俺に抱きついていた二人が驚いたように顔を上げる。

 といっても、二人の口調から冗談を言っていることはわかっていたので、俺は思わず顔を上げてしまっただけだ。

 しかし、冗談の通じない二人にとって話は別で……


「おお、それはいいかもしれないな。そうしたら両親からの小言も減るから、良いことづくめだな」

「ふふっ、そうですね。男性を探す手間も省けますし、嫌な貴族からの求婚も簡単に突っぱねることができますね」


「「お姉ちゃんっ!」」


「「どうした(の)?」」


 冗談交じりに話す二人に詰め寄る俺の婚約者たち。

 いつの間に俺から離れたのかわからないが、とりあえずかなりの速さで動いたのは確実だ。

 現に俺は彼女たちが動いていることに気が付かなかったからだ。

 そんなこんなで婚約者たちがそれぞれの姉に文句を言っている。

 まあ、自分たちの相手の婚約者に名乗りを上げようとしたのだから、それも当然だろう。


「ふふっ、姉妹仲がいいのね?」

「あれぐらい普通じゃないのか?」


 四人の様子を見ながらイリアさんが呟いたので、俺は率直な感想を述べる。

 あれぐらいなら姉妹として当然の交流だろうし、とりたてて仲が良いとは思えない。

 といっても、仲が悪いとは思わないが……


「普通じゃないわよ? 確かに仲のいい兄弟姉妹はいるかもしれないけど、貴族にとっては兄弟姉妹というのは次期当主の座を争う敵であることが多いのよ」

「ああ、なるほど……うちには関係のない話かな?」

「そうなの? てっきりカルヴァドス男爵家を継ぐことで問題が起こっていると思っていたのに……ああ、グレイン君がいるからね」


 俺の言葉にイリアさんが少し驚いていたが、すぐに納得したようにうなずく。

 大体、何を考えているのかはわかる。

 とりあえず、否定はしておこう。


「カルヴァドス男爵家を継ぐのはシリウス兄さんだよ?」

「えっ!?」


 俺の言葉に本気で驚いた様子のイリアさん。

 わからないでもないけど、それは少し驚きすぎではないだろうか?


「長男が家を継ぐのが普通でしょ? それはカルヴァドス男爵家でも同じだと思うけど?」

「でも、グレイン君みたいな優秀な次男がいれば話は別だと思うけど……」

「俺に継ぐ気はないからね。そういうのは兄さんに任せて、後は自由に……」


 とりあえず外堀から埋めようと、自分にいいような情報を流そうとする。

 相手が公爵家であれな、かなりの外堀になるはずだ。

 そう思ったのだが……


「グレイン、何をしているのかな?」

「ひゃっ!?」


 いつの間にか忍び寄っていたシリウスの声に俺は思わず悲鳴を上げてしまう。

 まさかこのタイミングで来るとは……そんなことを考えていると、シリウスは俺に文句を言ってくる。


「家を継ぐのはまだだれか決まっていないでしょ? 僕の可能性もあるけど、まだグレインの可能性もあるんだからね?」

「うぐ……わかってるよ」


 シリウスの言葉に俺は悔し気に納得する。

 こうなってしまっては仕方がない。

 ここは納得するしかないのだ。


「……やっぱり仲が良いわね」


 そんな俺たちの様子を見ながら、イリアさんがそんなことを呟いた。

 どこをどう見てそんなことが言えるのだろうか?






ブックマーク・評価等は作者のやる気につながるのでぜひお願いします。

勝手にランキングの方もよろしくお願いします。


ちなみに、今回の話に同性愛者云々の話がありますが、あくまで主人公にそういう気がないことを伝えているだけですので、同性愛者の方々に対して下に見るような発言ではありませんので悪しからず。

作者の知り合いにもそういう人はいらっしゃいますし、それも人それぞれだとも思っています。

というわけで、不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、気にしない方向でよろしくお願いします。


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