5-18 助けられた少女はライバルと会話する
イリア視点です。
(イリア視点)
「うぅ……」
ガタガタと揺れる馬車の中で私は思わず頬を膨らましていた。
せっかくカルヴァドス男爵家の馬車に乗るという目的を達成することができたのに、意味がなくなってしまったからだ。
「まさかグレイン君が馬車酔いするせいで乗らないなんて……」
私は悔しげに呟いてしまう。
私を助けてくれた男の子──グレイン=カルヴァドスと仲を深めるためにこちらの馬車に乗ったわけだ。
彼の父親であるアレン=カルヴァドス男爵を相手に説明した理由もないではないが、あくまで表向きな理由である。
全く……無駄なことをしてしまったわ。
((じいーっ))
そんなことを考えていると、周りにいた女の子たち──いや、猛獣と呼んでも差し支えないぐらい鋭い視線をした少女たちがこちらを睨んでいた。
一人の少女──獣人が口を開いた。
「……悔しいのは私も同じよ。せっかくのグレインとの楽しい旅だったはずなのに、それなのにどうしてグレインが乗らずにあんたがいるのかしら?」
「ちょっ、ティリスちゃんっ! 流石にその言い方は……」
獣人の少女の喧嘩腰の言葉を聞き、気弱そうな少女が止めに入る。
だが、彼女もまた先ほど鋭い視線を向けていた一人である。
魔力の流れと雰囲気から彼女が魔族であることがわかる。
とりあえず、私はそんな彼女たちの言葉に返事をする。
「私からも言わせてもらうけど、どうして貴女みたいな粗暴そうな人がグレイン君の婚約者なのかしら?」
「何をっ!? 公爵家の人間だからって、偉そうにするなよ?」
「ティリスちゃん、抑えて……」
喧嘩腰の相手には喧嘩腰で──それが私のモットーだ。
相手が友好的であるならばもう少し落ち着いた対応を心掛けているが、こうまで敵愾心を露わにされると乗ってしまう。
これは私の悪い癖だ。
公爵家の人間としてはもう少し友好的に人と交流するべきだろうが、これは性分であるのでどうにも治らない。
まあ、この話について今はどうでもいいか。
とりあえず、話を続けよう。
「貴女の父親のリオンさんは粗暴な雰囲気を宿していたけど、それでも相手に対する敬意を忘れてはいなかったわ。でも、あなたには相手に対する敬意すらないわね」
「それだったら、あんたには助けてもらった人に対する礼儀がなっていないんじゃない?」
「私が? きちんとグレイン君たちには礼儀を払ったつもりだけど? もしかして、貴女にも感謝しろということかしら?」
「そういうことは言ってないわよ。とりあえず、いろいろと理由をつけてグレインに近づこうとするのが気に入らないだけよ」
「ふ~ん、なるほど」
彼女の言葉に納得した。
確かに彼女の言うことはもっともであるかもしれない。
おそらく彼女は直線的に自分の感情を伝えることができるタイプなのだろう。
それは会話をしていて分かった。
だからこそ、私のように回りくどいやり方をしているのが気に入らないのだろう。
「別にグレインのことを好きになるのは構わないけど、そういう回りくどいやり方はやめなさいよ」
「くすっ」
「何がおかしいのよ」
彼女の言葉に思わず笑ってしまった。
その反応に彼女はさらに怒りだす。
これはあまりいい反応ではなかったか……
だが、決して私は馬鹿にして、この反応をしたわけではない。
「ごめんなさい。貴女のことが羨ましいと思っただけよ」
「羨ましい?」
「ええ。私は公爵家の令嬢という立場から他者との交流をする際には自分の感情を押し殺さないといけなかったの。たとえ本当の理由が悟られていたとしても、それを隠そうとしなければいけなかったのよ」
「……大変なのね?」
私の言葉にティリスと呼ばれた少女の視線は同情的なものになる。
そんな彼女を止めようとしていた魔族の少女もまた同情的な視線を向けていた。
いや、これは同族に向けるような視線かしら?
まあ、それについてはおいおい聞くとしましょう。
「貴女みたいに思ったことをはっきりと言えるのは正直羨ましいわ。そうしたら、グレイン君相手に好意を伝えられたのに……」
「「ひゃっ!?」」
「? 自分からはっきりと伝えろと言ったのに、その反応はどうなのかしら?」
私が好意を持っていると伝えた瞬間、二人の少女はわかりやすいぐらいに顔を真っ赤にした。
先ほどの会話から二人もグレイン君に好意を伝えているはずなのに、どうしてこの反応をしているのかしら?
もしかして、二人はまだ好意を伝えていないのかしら?
後で聞かないといけないことが増えていくわ。
そんなことを考えていると、この会話を止めに入ってくる人物が現れた。
「会話を楽しむのは構いませんが、もう少しお静かになさってください。急に大声を出されると、馬が驚いてしまいますよ」
会話に入ってきたのは一人のメイドだった。
御者をしていた少女だったのだが、私は彼女の存在がよくわからなかった。
見た目は獣人なのだが、彼女の体内には獣人ではありえないほどの魔力が流れているのだ。
魔力を持っている獣人がいないわけではないのだが、獣人という種族は魔力をそこまで持っていないことで有名である。
それなのに、どうして彼女にはこれほどの魔力があるのだろうか?
「すみません。話が盛り上がってしまったので……」
「グレイン様は素晴らしいお方ですからね。好意を持たれる方が多いのは仕方がない事ですし、その話で盛り上がるのも当然でしょう」
「えっ!?」
私が謝ろうとした瞬間、彼女が多くの言葉を話す。
その言葉は主が素晴らしい人間であることを説明しているような言葉だが、言い方がまるで八方美人である旦那に対して怒りを露わにしている奥さんのようだった。
もしかして……
「ですが、少しぐらい落ち着いてくれてもいいと思うんですけどね? 少なくとも、これ以上の女性を増やさないぐらいは努力してほしいものです」
「……そうですね」
彼女の言葉に思わず納得してしまった。
私が増えた女性であることを申し訳なく思ってしまったからだ。
おそらく先ほどの言葉から察すると、グレイン君のことを彼女が最初に……
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