5-14 小さな転生貴族は少女の笑みに恐怖する
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「よし、これでいいな」
縄をぎゅっと縛り、解けないことを確認した。
相当な力を加えないと解くのは難しいだろう。
届けた先の衛兵は大変だろうが、盗賊たちに逃げられるよりはましだろう。
自力で逃げられなければ問題はないのだ。
「おうおう、すげえな。この縄、魔力がこもってやがる」
「【付加魔法】ですね。しかも、かなりのレベルですよ」
盗賊たちを縛っている縄を見て、リオンさんとルシフェルさんが感想を漏らした。
流石はルシフェルさんで、一発で俺の使った魔法を見抜いた。
むしろ、直感だけでその凄さを察せるリオンの方がすごいのかもしれない。
「しかし、これって切れるのか?」
「無理じゃないですか? これ、相当な力がないと切れないレベルですよ」
「え?」
二人の反応に俺は驚いてしまう。
俺はそこまでの力を込めたつもりはないのだが・・・・・・
「俺でもかなり力を込めないといけないな」
「私の場合は【付加魔法】を相殺するか破壊すれば簡単にちぎることはできまずが、それでも骨が折れますね」
「いや、そんなわけが──」
「「いやいや、そんなご謙遜を」」
「シンクロっ!?」
予想外の反応に俺は叫んでしまう。
個別に文句を言われるのならまだしも、まさか同時に言われるとは思わなかった。
そんなに変なのだろうか?
「グレインもそろそろ自分の異常性を実感しておくべきだ。手加減しているつもりかもしれないが、普通の人から比べれば異常であることには変わりない」
「そうですね。私たちに手加減を指摘していましたが、君も同様ですよ?」
「うぐっ!?」
二人の指摘に俺は言葉を詰まらせる。
まさかこの二人に言われるとは思わなかった。
二人が手加減できていないのは実際に見てわかったのだが、まさか自分も手加減ができていないとは……
今後は頑張って手加減しよう──俺はそう誓った。
「あの……」
「ん?」
いきなり声をかけられて振り向く。
先ほど助けた老紳士がいた。
腹部にまだ赤い染みが残っており、回復して間がないのでまだ動かない方が良いと思う。
そんなことを考えていると、老紳士が頭を下げる。
「お嬢様だけではなく、私の命を救っていただきありがとうございます」
「いや、そんな大したことをしたつもりはないです」
突然の感謝の言葉に思わず首を横に振ってしまう。
当然のことをしたまでである。
そんな俺の反応に老紳士は言葉を続ける。
「いえいえ、十分大したことですよ。護衛や私の役目はお嬢様を守ること。お嬢様を守れるのであれば、この命など賭してもかまわないのです」
「そ、そうですか……」
老紳士の言葉に俺は少し引いてしまう。
自身の主のために行動するというのはわからないでもないが、自分の命を懸けてまで守ろうとしているのは相当な忠誠心である。
正直、俺にはできない考え方である。
そんなことを考えている間にも老紳士は話を続ける。
「ですが、私たちの命を賭しても、お嬢様を守ることができませんでした。私の力不足のせいで、悔やんでも悔やみきれないところでした」
「……」
「ですが、あなた方が現れ、盗賊たちを倒してくださり、死にかけの私たちも救ってくださいました」
「まあ、そうですね」
告げられた事実に俺は頷く。
流石に自分がやったことなので否定するのは間違っている。
まあ、そこまで感謝されるのは納得できないが……
「ところでお聞きしたいのですが……」
「なんですか?」
と、ここで老紳士からの感謝の言葉は終わった。
しかし、何か嫌な予感がする。
そして、老紳士の次の言葉で俺の予感が当たった。
「あなた方は何者なのでしょうか? 見たところ人族の子供と獣人族と魔族の男性であることはわかりますが」
「え、えっと……」
老紳士の質問に俺は目線をさまよわせる。
仮面をかぶっているのでその行動はわからないだろうが。
俺としては正体がばれて、新たな面倒に巻き込まれたくない。
どうやって、立ち去るべきか──
「【カルヴァドスの神童】──グレイン=カルヴァドス君じゃないかしら?」
「なっ!?」
いきなり正体を言い当てられ、俺は驚愕するう。
正体を言い当てたのは、老紳士ではなく少女の方だった。
しかし、なんか聞き覚えのない枕詞がある気がする。
「人間の子供でありながら、化け物じみた魔法と身体能力。グレインという名前。リオンとルシフェルという男性が傍にいることを考えると、君はグレイン=カルヴァドス君でしょう?」
「……」
俺の中でこの少女の警戒度が上がった。
彼女は俺より少し上の年齢に見えるが、わずかな情報だけで正解に辿り着いのだ。
大人ならばできなくもないと思うが、10歳程度の少女がやったのだから異常である。
人のことは言えないが、明らかにおかしいだろう。
「リオンとルシフェルという名前はたしか【獣王】と【魔王】の名前ね。その二人と付き合いがあるのはカルヴァドス男爵家以外にはほとんどいないはずよ」
「ほう」
「素晴らしい推察能力ですね」
少女の推測にリオンさんとルシフェルさんが感嘆の声を漏らす。
なんで二人は落ち着いているのだろうか?
こっちはバレたくないから顔を隠していたのに、少しは慌てて欲しい。
そんなことを考えていたが、俺自身も失敗に気が付いた。
正体を知られたくなければ、顔を隠すだけでなく偽名を使うべきだった。
二人は有名なのだから、そこからバレる可能性が高いのだ。
「さて、どうかしら?」
「……」
「黙っていてもいいけど、君の家族にお話を聞くわよ?」
「うぐっ」
少女の指摘に俺はどうすることもできない。
正体がバレてしまえば、この状況から逃げられても後から追い詰められる可能性が高くなる。
俺は観念して仮面を外す。
「おっしゃる通り、カルヴァドス男爵の次男──グレイン=カルヴァドスです」
「ふふっ、やっぱり」
俺の自己紹介を聞き、少女が笑みを浮かべた。
綺麗な少女なので笑顔が似合うが、正体を言い当てられた俺としては悪魔の笑み見えて仕方がなかった。
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