5-13 小さな転生貴族は盗賊と戦う 3
「てめぇ、何者だ?」
リーダーの男が問いかけてくる。
部下達が次々とやられているのに、落ち着いている様子だった。
もっと慌てると思っていたのに・・・・・・
「言いましたよね? 通りすがりの旅人だって」
「んなもん、信じられるわけないだろ」
俺の答えにリーダーの男は吐き捨てるように言う。
本当のことなのに、どうして信じてもらえないのだろうか?
「とりあえず、お前が化け物だということはわかった」
「普通の人間ですよ」
とんでもないことを言われたので、反論はしておく。
少し離れたところで笑いをこらえている者たちがいるが、気にしないようにする。
「てめえみたいな人間がいるかよ」
怒ったようにリーダーは駆け出す。
人間であるのは事実なのに、そこを否定はしないで欲しい。
「僕以上に強い人はざらにいますよ」
とりあえず、化け物扱いは強さの部分だと思うので、自分以上におかしい存在がいることは伝えた。
まあ、他にいたとしても、俺自身がおかしいことには変わりないのだが・・・・・・
「おらぁっ」
リーダーは左腕を振るう。
首元を狙っているようで、俺ははじこうとする。
(ピタッ)
「っ⁉」
だが、直前にその腕が止まり、俺は驚いてしまう。
(ブンッ)
「くっ」
腰の辺りを狙って蹴りが来る。
ギリギリのところでどうにか回避に成功する。
だが、安心はできなかった。
「ひゃはあっ」
相手は右脚を軸にして回転しながら、地面にしゃがみこむ。
そして、そこから一気に地面を蹴る。
下側から直線的に突っ込んでくる。
俺は再び下がろうとするが・・・・・・
(ビュッ)
「うっ⁉」
何かが目に入り、思わず片手で押さえてしまう。
投げる仕草をしていたので、しゃがみ込んだ際に土を持っていたのだろう。
「おらあっ」
(ギインッ)
「うぐっ⁉」
上から声が聞こえ、片手剣が振り下ろされる。
ギリギリのところで攻撃を受け止めるが、重量差に苦しげな声を漏らしてしまう。
こいつは魔力を使っていない。
純粋な身体能力で戦っているようだ。
そのせいで【魔力感知】で相手の動きを掴めなかった。
「どうした? さっきまでは余裕だったじゃねえか」
リーダーは次々と攻撃をしてくる。
目を覆っている俺はどうにかその攻撃を捌いていく。
だが、片手で目元を押さえている状況ではそれで精一杯だった。
まさかこんなに手こずらされるとは思っていなかった。
たかが盗賊と侮っていたが、その考えは改めないといけない。
(ブワッ)
「おっ⁉」
魔力を周囲に撒き散らす。
リーダーは驚いたような、嬉しそうな反応をする。
「本気でくるみたいだな。だが、その前にやらせてもらうぞ」
何かしようとしていることを読み、リーダーは一気に駆け出す。
しかも、様々な場所を動き、的を絞らせないようにしている。
視界を塞がれた俺ではどこにいるのか把握するのは難しかった。
(ドスッ)
「がはっ⁉」
腹部に強烈な一撃を受け、リーダーは苦しげに息を吐く。
そのまま力なく、膝を突く。
「な、なにをしやがった。見えてなかったはずだろ」
苦しげな声で質問してくる。
冥土の土産に教えてやるのもいいだろう。
「撒き散らした魔力は魔法を使うためじゃない。あんたの動きを感知するためだよ」
「そんな使い方をっ⁉」
説明すると、驚きの声が聞こえてくる。
まあ、普通はできない芸当だろう。
これはあくまで俺が持つ魔力量が膨大だからできたことだ。
普通は撒き散らした時点で魔力切れを起こすだろう。
「話してくれて、ありがと──よっ」
話を聞いていたリーダーが動こうとする。
流石に俺の体格では魔法を使わなければ、気絶させることもできない。
おそらく持っていた武器で攻撃しようとしたのだろう。
(ガッ)
「なにっ⁉」
だが、俺はその動きを読んでいた。
気づかれないレベルで魔力を地面に流し、動こうとした瞬間に相手を拘束した。
「これでチェックメイトだ」
リーダーに向かって指を差し、宣言した。
目は見えないが、大体いる位置はわかっていた。
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