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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
117/618

5-10 小さな転生貴族は譲られる

2024/04/14に更新しました。


「ひーふーみー……30人かな」


 指で盗賊の人数を数える。

 緊張感がないが、それぐらいの余裕があるのだ。

 10倍の人数が相手でも負ける要素が全くない。

 こちらが一人でも瞬殺できる実力差である。

 では、なぜ俺がのんびりと盗賊の人数を数えたのかというと……


「つまり、俺が28人。グレインとルシフェルで1人ずつだな」

「何を言っているんですか、リオン。それはずるいですよ。というか、私の魔法で1人だけ倒すなんてことは難しいですよ」

「そこは頑張れよ」

「威力の調節のミスを装って、当てますよ?」

「あぁ?」


 リオンさんとルシフェルさんが言い争いを始める。

 二人とも戦うことが好きなので、自分が楽しめるように話を進めようとしている。

 まあ、自分が楽しめるように行動するのはわからないでもないが、少しは相手を思いやるべきだろう。

 とりあえず、全員平等にするべきだから……


「1人あたり10人ですね」

「え~、なんでだよ」


 リオンさんが文句を言ってくる。

 もっと戦いたいのだろうが、この提案には平等にする以外に理由がある。


「いくら盗賊でも殺しちゃ駄目ですよ?」

「……それぐらいわかっている」

「手加減できるんですか? 普段、僕との訓練すらうまく手加減ができないのに?」

「うぐっ」


 俺の指摘にリオンさんが言葉を詰まらせる。

 心配しているのは、彼が勢い余って盗賊たちを殺してしまうことだ。

 普段の俺と訓練では攻撃で地面が割れ、常々冷や汗をかくほど恐怖を感じていた。

 イレギュラーな俺ですら恐怖を感じるのだから、一般人への恐怖は計り知れない。

 いくら犯罪者が相手でも、気が付いたら命を落としている状況はかわいそうである。

 とりあえず、しかるべき場所で裁かれるまでは生かしておく方が良い。


「まあ、リオンでは一撃で頭と胴体がお別れになってしまうでしょうね」


 俺とリオンさんの会話を聞いたルシフェルさんが苦笑する。

 だが、リオンさんに限った話ではない。


「ルシフェルさんもですよ?」

「私もですか?」


 俺の指摘にルシフェルが驚愕の表情を浮かべる。

 それを見たリオンが反対側を向き、肩を震わせていた。

 完全に笑っているな。


「一撃で殺さないでしょうが、実験と称して魔法で必要以上にいたぶるのはなしですよ?」

「そ、そんなことは……」

「しないんですか?」

「う……ちょっとは考えていました」


 やはり予想通りだった。

 二人は戦闘に対するスタンスは違えども、どちらもかなりの問題思考なのだ。

 リオンさんは純粋に相手を倒すことを楽しみ、ルシフェルさんは魔法の実験を兼ねて敵を苦しめようとしているのだ。

 否定するつもりはないが、彼らは俺の婚約者たちの父親なのだ。

 彼女たちはおそらく軽蔑するだろうし、そこからかなり面倒な状況になると思う。

 そうなったら板挟みになるのは俺なので、事前に手をうたせてもらった。


「でも、10人じゃ足りねえよ」

「そうですね。私の魔法でも一発でしょうし、大した結果を得られないですよ」


 二人は文句を言ってくる。

 だが、この相手では二人が満足することは難しいだろう。

 俺でも本気を出して、ようやく少し満足させられる程度だ。

 盗賊程度が何人集まろうが、期待するだけ無駄だろう。

 さて、どうするべきか・・・・・・


「よし、ここはグレインに譲ろう」

「え?」

「ええ、そうですね。それが一番マシな選択肢ですね」

「は?」


 二人の突然の発言に俺は呆けた声を漏らす。

 なぜそのような選択肢が出てきたのだろうか?


「グレイン君が言ったんでしょう? 私たちの戦い方はあまりよろしくない、と」

「いや、そうですけど・・・・・・別に全部譲らなくても」


 否定はできなかったが、申し訳ない気持ちになってしまう。

 二人に我慢させるつもりはなかった。


「別に構わねえよ。この程度の相手じゃ、どのみち俺たちも発散はできないだろうしな」

「・・・・・・良いんですか?」


 リオンさんの言っていることももっともだが、俺にすべて譲る理由になるのだろうか?

 少しでも発散させた方が良いと思うが・・・・・・


「むしろ、グレインが戦っているのを評価する方がよっぽど楽しいな」

「ええ、そうですね」

「はい?」


 また予想外の答えが返ってきた。

 何故この二人は自分たちの欲求を発散させるより、俺の戦闘を評価する方が良いと言っているのだろうか?


「この人数を同時に一人で相手するなんて場面は中々ないからな。意外と良い経験になるはずだ」

「いくら相手が格下とはいえ、油断は禁物ですよ」

「まあ、そうですけど・・・・・・」


 どんどん話を進められる。

 言っていることは間違っていないので、どうにも反論することはできない。


「まあ、全力で戦っても面白くないから、とりあえず左腕は使うな。片手剣だから、右手だけで十分だろう?」

「は?」

「では、魔法の方も制限しましょうか。中・遠距離魔法を禁止しましょう」

「いや、そこまでする必要は・・・・・・」


 縛りプレイを強要されそうになり、反論しようとする。

 しかし、そんな余裕はすぐになくなってしまった。


「「死ねやあああああっ」」

「っ⁉」


 盗賊たちがいきなり襲いかかってきた。

 いや、長いこと話していたのだから、今さらな話である。

 むしろよく待ってくれていたぐらいだ。


「おらぁっ」

(ガキィッ)


 回避したところに大剣が振り下ろされる。

 俺はそれを片手剣で防ぐ。

 流石に質量差で地面を少し抉ってしまう。


「てめえら、舐めてんじゃねえよ」

「ん?」


 目の前の男が怒ったように口を開く。

 先ほどは気付かなかったが、リーダー格の男だった。

 道理で意外と攻撃の威力があったわけだ。


「ガキ一人でこの人数を相手するなんて、ふざけてんのかっ!」


 男は叫びながら、蹴りを放つ。

 たしかに男の怒りはもっともである。

 しかし、それはあくまで盗賊側から見ればの話で、俺たちからすればこの条件は案外妥当なのだ。


(ザザッ)

「さて、どうしようか?」


 バックステップで回避した後、俺は戦闘態勢に入った。

 二人が譲ってくれたのだから、満足してもらえるように戦わないといけない。

 この縛りなら、どうすべきだろうか?








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