5-9 小さな転生貴族は治療する
「さて、盗賊さん。投降するなら、今のうちだよ?」
登場した瞬間、俺は盗賊たちに指を突きつける。
こんな宣言は必要もないし、むしろ不意打ちで全滅させた方が効率的だと思わないでもない。
こういうのは様式美である。
とりあえず、登場シーンでかっこつけるのは男としてやってみたかった。
まあ、不意打ちだろうが真正面だろうがこのメンツで盗賊相手に後れを取ることなどまずないので、余裕があるわけだが……
「あぁ? てめぇら、何者だ?」
一番前にいたボスらしき男が威圧してくる。
だが、その威圧もまったく通用しない。
なんせ通常状態のリオンさんの方が一万倍ぐらい怖いからだ。
むしろ、よくそんな表情で盗賊ができるな、と思ってしまった。
まあ、頑張っているのであれば、乗ってあげるのが優しさだろう。
「通りすがりの旅人だよ。困っている人を見かけたから、助けに入っただけだ」
「はぁ? ふざけてるのか、てめぇ」
「いや、ふざけてはいないよ」
「調子に乗ってるだろっ!」
俺の言葉に男がキレる。
いや、そんなに怒ることはないじゃないか?
しかも、ボスが怒ったことに同調し、後ろの部下たちも俺たちに向ける敵意が強くなった。
そんなにムカついたのだろうか?
まあ、こいつらに気を遣う必要はないので、怒らせたままにしておくが……
「お嬢さん、大丈夫?」
俺は後ろにいた少女に声をかける。
年齢は10歳ぐらいか、シリウスやアリス、ティリスとレヴィアと同じぐらいだろう。
つまり、俺より二歳ぐらいは年上に見えるので、実年齢が年下の可能性は低いと思う。
そんな彼女の腕の中で一人の老紳士が意識を失っている。
腹部からは夥しいほど出血しており、かなり危険な状態だ。
よくよく観察してみると、周囲には鎧を着こんだ者たちが倒れていた。
呼吸はしているので死んではいないようだが、怪我をさせられたり、意識を失ったりしている。
現状、無傷なのはこの少女と後ろに控えているメイドの二人だけのようだ。
そんなことを考えていると、少女が俺に叫んでくる。
「爺やを助けてっ! お願いっ!」
爺やというのはその老紳士のことだろう。
爺やということは血縁関係はないが、それでもその老紳士は少女にとって大事な人間であるようだ。
そうでなければ、いきなり現れた見知らぬ相手にそのようなことを頼めるはずがない。
それに爺やがすでに息も絶え絶えなのは慌てている原因の一つだろうか?
俺は老紳士に近づいていく。
「おい、てめぇ。勝手に動くんじゃねぇ」
俺が後ろを向いたので盗賊のボスがそんなことを言ってくる。
この状況で隙を見せたことに、怒って当然と言えば当然なのだが……
動かれても面倒なので、軽くけん制しておく。
俺は足に魔力を集中させ、土の塊をボスの頭の横あたりに射出した。
(ヒュンッ……バキィッ)
「「「「「へっ!?」」」」」
何かが壊された音が聞こえた瞬間、この場は驚きの声で一杯になった。
一体、何を驚くことがあるのだろうか?
たかだかこの程度の魔法、ある程度の実力があれば使えるはずだ。
俺が子供だから驚いているのなら仕方のないことかもしれないが、それも才能があるで済むだろう。
そんなことを思いながら、俺は少女の傍で膝をつき、老紳士の傷口に触れる。
「……貫通しているな。出血も多くて、かなり消耗しているみたいだ」
俺は老紳士に触れ、彼の現在の状態を口に出す。
別に口に出す必要はないのだが、それを聞いた周囲の人間から俺の知らない情報を得たいため伝えたのだ。
まあ、少女もメイドも反応はしてくれなかったが……
俺の言っていることは当たっており、訂正する必要はないということだろうか?
とりあえず、治療を開始する。
「盗賊の武器から考えて、剣で貫いた? ならば、中に武器が残ることはないし、傷口を洗うか」
(ザーッ)
俺は魔法で作った水で老紳士の傷口を洗う。
この水は浄水した水ではないが、俺が魔力で作った水なので中に細菌などの心配はない。
至って綺麗な水である。
「うぐっ!?」
「爺やっ!?」
傷口に水をかけられた老紳士は痛みのあまり苦しげな声を上げ、それを心配した少女が声をかける。
どうやら勢いよくかけすぎてしまった。
だが、今は一刻の猶予もないので、ゆっくりと傷口を洗っている暇はない。
俺は両手に小さい火の玉を出す。
「ちょっと痛いかもしれないが、耐えてくれ」
「え? 何を……」
俺の言葉に少女が驚いたようにこちらを向く。
だが、彼女が次に何かを言う前に、俺は老紳士の傷口に両手を押し付ける。
(ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ)
「うがあああああああああああああああああああっ」
傷口を焼かれ、老紳士が断末魔ような声で叫ぶ。
俺だって楽しんでこの老紳士をいたぶっているわけではないのだ。
むしろ、かなり痛そうな声を上げている姿を見て、心が痛んでいる。
それはわかって欲しい。
「ち、ちょっと……何をして……」
俺の行動に少女が問い詰めようとしてくる。
しかし、俺はそんな彼女の言葉を無視する。
「【生命回復】」
俺は魔法を唱える。
その瞬間、老紳士の体が黄緑色の光に包まれた。
「えっ!?」
突然の現象に少女が再び驚きの声を上げる。
まあ、人がいきなり光ったのだから、その反応も当然だ。
といっても、そう長い時間は光らない。
十秒ほどで俺は魔法を解き、立ち上がる。
「もうこれで大丈夫。あとは回復を待つだけだね」
「は? そんな早く治るわけ……」
俺の言葉に少女が反論しようとする。
しかし──
「お……お嬢……様?」
「え? 爺やああああああああああああああっ!」
回復し始めた老紳士が目を覚ました。
それに気が付いた少女が老紳士に抱きついた。
老紳士にダメージが入っているようだが、感動のシーンに水を差すほど俺はデリカシーのない男ではない。
再び老紳士が気を失いそうになっているが、もう彼が命を落とす危険はないはずだ。
今やるべきことは──
「さて、盗賊狩りを始めますか?」
今の今まで待ってくれていた盗賊に感謝し、痛みを感じないように倒してあげよう。
魔法の属性について、
・身体強化
・回復系統
などを「無属性」または「属さない」という風にします。
各々の属性に回復系があっても良いと思いましたが、火や風で回復するイメージがなかったので、そのように変えます。
一応、火で消毒したり、水で綺麗にしたり、と各々の属性で治療行為に近いことはできます。
ただ純粋に回復として使える属性は「聖属性」のみとします。
ブックマーク・評価等は作者のやる気につながるのでぜひお願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




