5-7 小さな転生貴族は盗賊について知る
「そういえば、魔物が全然出てこないね」
俺は思わず呟いた。
この世界には魔物がいる。
人を襲う危険な存在なので、見つけ次第に討伐すべきである
討伐できないならば、近くの村や町に報告することで冒険者を呼ばないといけない。
カルヴァドス男爵領はビストとアビスとリクール王国の3つの境目にあるため、ものすごく魔物が多い。
それを基準に考えているせいか、魔物が少なく──いや、まったくと言っていいほどこの辺りにはいない気がする。
そんな疑問を感じていると、リオンさんとルシフェルさんが説明を始める。
「魔物だって生き物だからな」
「ええ、そうですね。ある程度知識のある魔物であるならば、私たちの前には姿を現さないですね」
「どうして?」
俺は首を傾げる。
一体、どういうことなのだろうか?
「負けると分かっていて戦おうとはしないということだ。ただただ無駄死にすることになるからな」
「この集団の恐ろしさを野生の勘で感じているのですよ。なんせアレンがいますからね」
「ああ、なるほど。……でも、二人の強さも感じているんじゃないの?」
「「いやいや、アレンだろう」」
俺の言葉に二人が笑いながら答える。
いや、絶対に嘘である。
たしかにアレンの存在は魔物たちにとって脅威かもしれないが、だからといって強いものが一人だけの集団に魔物が近づかないわけではない。
知恵があるのならば、多少の犠牲をしてでも全方位から襲撃して獲物を狩ることができる。
それをしないのはそこまでの知識がないのか、無理だと判断したのかのどちらかだ。
俺の予想ではおそらく後者の理由だろう。
「魔物には襲われないかもしれないが、盗賊には出会うかもしれないな」
「盗賊? それって、人間の?」
「おう、そうだ。というか、このあたりに人間以外に盗賊はいるのか?」
「いや、いないと思うよ」
リオンさんの疑問に俺はあっさりと返事する。
なんだ、人間以外の盗賊って……
魔物が盗賊をやっていたらおかしいだろう。
そんなことを考えていると、リオンさんが話を続ける。
「とりあえず、盗賊は金目のものがありそうな馬車を狙って攻撃を仕掛けてくる。貴族や商人の馬車だな」
「そういう馬車って護衛とかいるんじゃないの?」
「それは護衛を倒せる自信があるんだろう。盗賊とはいえ、元々が冒険者で金に困って盗賊に落ちることもあるし、元々が弱くとも何度も実戦経験を積むことで力をつけた奴もいるだろう」
「ああ、そういうことか」
「といっても、盗賊がこの馬車を襲うことはそうはないだろうな」
「それって父さんがいるから?」
「まあ、そういうことだ」
「……」
どれだけこの集団は強いのだろうか?
盗賊が襲い掛かってきたら、むしろ盗賊側に同情してしまいそうだ。
襲い掛かってきたら完膚なきまで叩き潰すけど……
「盗賊ですか……懐かしいですね」
「えっ!?」
ルシフェルさんのふとした呟きに俺は思わず驚いてしまう。
それって、もしかして……
「何を驚いているんですか?」
「いや、懐かしいって……もしかして、元々……」
「勘違いしているようですね。別に私は冒険者時代によく盗賊狩りをしていたという意味で懐かしいと言っていただけですよ」
「……だよね」
少し心外といったような表情で訂正するルシフェルさん。
いや、彼が盗賊なんてマネをするとは流石に思っていなかったが、先ほどの言い方だと盗賊をしていたことが懐かしいという風にも聞こえる。
「がははっ、ルシフェルに盗賊は無理だろう。魔法の研究のことしか頭にないんだから……」
「そういうリオンは盗賊に向いていそうですね、盗賊としての収入はともかく、強い人と戦おうとするので……」
「それは獣人の性さ。まあ、俺が盗賊になることはないだろうがな」
「それはそうでしょう。リオンは王様なんですよ? 盗賊になるわけないじゃないですか」
「いや、そういうことじゃねえよ」
「じゃあ、どういうことですか?」
「てめぇ、わかって言ってるだろっ!」
しらを切るルシフェルさんと怒るリオンさん。
おそらくリオンさんは自分がそういう犯罪行為をするような性格はしていないことを言いたかったのだろうが、ルシフェルさんはそれを分かったうえでスルーしているようだ。
まあ、それがわかっているのでリオンさんもそこまで怒ってはいないようだが、元々がなまじ威圧感があるせいで結構怖かったりする。
正直、俺じゃなかったらちびってしまうのではないだろうか?
というか、大人でもビビるだろうし、ある程度戦闘ができる人なら臨戦態勢をとるのではないだろうか?
まあ、この場にそんなことをする者はいないので気にしないでおくが……
「ん?」
と、ここでリオンさんがふと何かに気が付いた。
俺はすぐに彼が何に気が付いたのか察した。
進路方向から見て右側の方からなにやら騒がしい気配がする。
距離的には1キロほど離れているだろうか、普通の五感ならば遠すぎて認識することなどできない距離だ。
俺の場合は少し大きめの魔力の動きを感じ取ることができたので認識できたが、リオンさんはどうして認識できたのだろうか?
獣人族の感覚というのはすごいな。
「どうやら戦闘をしているようですね」
俺と同様に魔力の動きに気が付いたのか、ルシフェルさんが呟く。
そこまでわかるのか?
俺は魔力が動いていることしかわからなかったのだが、彼ほどになると戦闘しているかどうかもわかるのか?
「……噂をすれば影が差す、といったところか?」
「えっ!?」
リオンさんの言葉に驚きの声を上げてしまう俺。
そんな俺にリオンさんが簡潔に説明する。
「盗賊だよ。どうやら襲われている奴がいるようだ」
「なっ!?」
リオンの説明に俺はさらに驚きの声を上げてしまう。
まさに先ほどまで話していた内容だったからだ。
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