5-6 小さな転生貴族は嫁(仮)の母親を想像する
8/14に更新しました。
屋敷を出発してから2週間が経った。
王都までの道のりは半分程らしく、旅の疲れもかなり溜まっていた。
いくら休憩を多めにとっていても、流石にこれだけの時間を移動はかなり疲れる。
馬車に乗っていても同じだろう。
むしろ馬車が発明されるより前の時代はすごいなと思う。
なんせ長距離移動を自分の足で行い、どれだけの負担がかかるか想像もできない。
まあ、馬車酔いする俺も同じことをしているが……
「ああ……整地したい」
「がははっ、怒られるぞ」
「はぁ……」
魔法を使いたい欲求を漏らすが、横を走るリオンさんが笑いながら諫める。
それぐらい俺にもわかっている。
だが、俺だってただただ走っていることに飽き、なにか他のことをしたいのだ。
禁止されていることを怒られると分かってわざわざしないが……
「わかりますよ、グレイン君」
「ルシフェル?」
リオンさんが話していると、ルシフェルさんが会話に入ってくる。
彼はうんうん頷いているが、一体何が分かったのだろうか?
「私も魔法を唱えたくて仕方がないですよ。せっかく有用な魔法があるならば、思うがままに使いたい、と」
「いや、そんな理由で言ってませんよ?」
やはりルシフェルさんはまったく分かっていなかった。
この人は完全に魔法が使いたいだけだった。
俺だって魔法が使いたいきもちはあるが、彼のように無制限で使おうとは思っていない。
本当にこの人は何なのだろうか?
娘たちの話では素晴らしい父親だと思ったのに、どうして魔法が関わるとこんなにダメになるのだろうか?
「ルシフェル、いい加減にしないとリズに怒られるぞ?」
「……わかっていますよ。ですが、別に自分の欲望を語るぐらい良いでしょう?」
「気持ちはわからんでもないが、後で嫁にどやされるんじゃないのか?」
「……そうですねぇ。流石にそれは勘弁願いたいです。というか、リオンも大人しいのはそれが理由ですか?」
「ああ、そうだ」
二人が納得したようにうなずきあう。
わかりあったような雰囲気を出されると、俺だけ仲間外れにされたように感じる。
まあ、この内容だと仲間外れにされた方が良いのかもしれないが……
「二人の奥さんって、そんなに怖いの?」
「「怖い」」
俺の質問に二人は簡潔に答えてくれた。
というか、ほぼノータイムで答えたが、そんなに怖いのだろうか?
「娘さんたちのルックスを見ると綺麗なのはわかるんだけど、そのうえで怖いのか。会ってみたいような会ってみたくないような……」
俺は女性陣のルックスを思い浮かべ、そんなことを呟いた。
娘たちは四人ともがタイプは違えど、美女・美少女といっても過言ではない。
カルヴァドス家の女性陣も整ったルックスだが、それに引けを取らないとだろう。
どうしてうちにはこんなに綺麗どころが揃っているのだろう。
まあ、エリザベスとクリスはアレンにベタ惚れだから揃っているわけだが……
「それはあまりお勧めしないな」
「ええ、そうですね」
「なんで?」
俺の言葉に二人は嫌そうな表情になる。
もしかして、俺が二人の悪行を奥さんにばらすと思っているのだろうか?
流石にそんなつもりはなかったのだが……
「想像してみろよ。あの娘たちの母親の姿を」
「そんな美人に怒られる可能性を」
「……たしかに怖いね」
二人の言葉を聞いて、俺は想像してみた。
綺麗な女性に説教をされるのは普通に説教されるより怖い。
整った顔に浮かぶ怒りをぶつけられ、普通の人が怒るよりも怖いのかもしれない。
俺もエリザベスで体験済みである。
そうなると流石に会おうとは思えない。
でも……
「僕はいずれ会わないといけないよね? 娘さんの婚約者なんだから」
「まあ、そうだな」
「ご愁傷さまです」
「……二人の奥さんに会うんだよ?」
明らかにおかしな反応である。
ここまで怖がるなど、どれほど普段から尻に敷かれているのだろうか?
この人たち、一応冒険者の間では英雄的な存在どころか、一国の王様だよね?
自分の奥さんをここまで怖がるなんて、国民に情けないとは思わないのだろうか?
(じーっ)
「……」
と、ここで俺は前方からの視線に気が付いた。
シリウスやアリス、俺の婚約者たちが乗っている子供たち用の馬車の御者台からだった。
そこからのぞき込むように見ている人物がいたのだ。
リオンさんの部下である、クマの獣人のウルスさんがじっと俺たちのことを観察していた。
もしかすると、俺たちの話を聞いていたのかもしれない。
大きな声で話してはいないが、人間よりも身体能力や感覚が高い獣人なので聞こえていてもおかしくはない。
そんなことにも気づかずに二人は話を続けていた。
「とりあえず、替えのパンツは持っていた方が良いかもしれないな」
「ええ、そうですね。城勤めの新人が遅刻を理由に説教を受けたときに恐怖のあまり失禁した話は有名ですからね」
「ウチでは模擬戦で降参してもやめてもらえなかったな。調子に乗っていたところを完膚なきまでやられて、最終的に首に刃物を突き付けられてたぞ」
「おお、それは怖い。しかも、目の前に凍てつくような冷たい目をした綺麗な顔があると思うと……」
「……怖いな」
二人は本当に奥さんの話をしているのだろうか?
俺は婚約者の母親に会うのに、替えの下着を用意しないといけないのか?
流石にそれは恥ずかしいのだが……
と、ここでふと視線をウルスさんの方に戻す。
なにやら紙に書き込んでいるようだ。
「(これは、もしかすると……)」
彼女が何をやっているのか気付いた。
しかし俺は二人に言わなかった。
俺は悪くないので、怒られるのは二人で十分だ。
近い未来に二人がどうなるかを気になったが、怖い美人も想像することになるので頭からその考えを追い出した。
二人が話している内容を心ここにあらず状態で聞き流すことにした。
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