閑話6 夫人たちのお茶会は黒きドラゴンと共に
※4月5日に更新しました。
カルヴァドス男爵邸の庭園では緊張感に包まれていた。
正確には、とある一人を除いてだ。
「ふふっ、こうしてお茶会するなんて、いつ以来かしら?」
シルトが嬉しそうな表情を浮かべる。
その気品のある姿はどこぞの夫人のようだが、実際はドラゴンが人に変化した姿だ。
それを知っていれば、緊張して当然だろう。
「「……」」
エリザベスとクリスはなんと答えれば良いかわからず、黙ってしまう。
そんな二人にシルトは優しく語りかける。
「安心して。別に粗相をしても、取ってたべたりはしないわ」
「ですが……」
「むしろ、せっかくのお茶会を緊張した雰囲気で台無しする方が嫌だわ。世間話でもしましょう」
「……わかりました」
シルトを怒らせるわけにはいかないので、エリザベスは提案を受け入れる。
ここで怖がっていたら、元A級冒険者の名が泣いてしまう。
「そういえば、うちの子たちは迷惑を掛けなかったかしら?」
「いえ、そういうことはないですよ。むしろ、ハクアとクロエを守ってくれていたので助かったぐらいですよ」
「それは良かった。でも、流石に子供だと力不足だったから誘拐されてしまったのね」
「仕方がないことですよ」
今回は聖光教の最高戦力である聖騎士の一人が参加していた。
いくら力が弱っていたとはいえ、ドラゴンの幼体では勝てないのも当然だ。
「あと、二人の子供に魔力を分け与えていたみたいで……」
「もしかして、出産前に?」
「おそらくそうですね」
クリスの言葉をシルトが肯定する。
二人の出産が近づいているとき、アウラとシュバルはそれぞれ寄り添っていた。
意図してかはわからないが、その際に魔力が流れていたようだ。
エリザベスとクリスはすでに属性が固定されているが、まだ赤子で不安定だった二人はその影響を受けてしまったようだ。
「その結果、狙われてしまったんですよね?」
「まあ、否定はできませんね」
「本当に申し訳ない。誘拐なんて怖い経験をさせてしまうなんて……」
シルトが申し訳なさそうにする。
しかし、エリザベスは否定する。
「確かに誘拐は怖かったでしょうが、そのおかげで家族の仲が深まりました」
「そうなんですか?」
「実は、クロエがグレインのことを怖がっていましたが、助けてもらったことをきっかけに仲良くなったみたいです」
「グレイン君というと、あの異質な少年ですよね?」
「……たしかにそうですが、ドラゴンから見ても異質なんですか?」
グレインの評価を聞き、思わずエリザベスは質問してしまう。
まさか伝説の存在からも異質だと認識されるとは……
「これでも永く生きていますから、人間がどういった存在かも理解しているつもりです。もちろん、あなたたちの旦那様やその友人たちのようにかなり優れた存在がいるのも知っています」
「はぁ……」
突然アレンたちについて言われ、エリザベスはなんとも言えない声を出す。
クリスも意図がわからず、首を傾げる。
「ですが、グレイン君はその三人以上に異質でしょう」
「三人より優れている、ということですか?」
「それはわかりません」
あっさりと否定され、エリザベスとクリスは肩透かしを食らう。
てっきりグレインのことを褒められると思っていたが、そうではないようだ。
「グレイン君は暴走したアウラの魔力を吸収したそうですね」
「ええ、そう聞いています」
シルトの確認にエリザベスは頷く。
その話はアレンたちに説教をしているときに聞いていた。
魔力を吸収できることには驚いたが、グレインならおかしくはないと思っていた。
「暴走したドラゴンの魔力を吸収するなんて、普通の人間が耐えられるはずがないんですよ」
「「え?」」
予想外の言葉にエリザベスとクリスは驚きの声を漏らす。
そんな二人の様子を見て、シルトは話を進める。
「元々、他者の魔力を吸収する自体、負担がかかります。それなのに、暴走した魔力を取り入れるなんて自殺行為でしかない」
「その後にシュバルくんの魔力を与えられても……」
「アウラの魔力と拮抗させて弱めることはできます。ですが、魔力の暴走を抑えても、異物としての魔力は残ったままです」
「そんな……」
シルトの説明を聞き、クリスは言葉を失う。
まさかグレインがそんな危険なことをしているとは思っていなかった。
だが、エリザベスの反応は違っていた。
「だけど、グレインは生き残った。それがドラゴンからも異質と言われる原因ですか?」
「そういうことです。まあ、異質というだけで悪いことではないですけど」
「伝説のドラゴンにすら言われる時点で相当おかしいですけどね」
エリザベスは苦笑してしまう。
自分の息子の評価がおかしいが、認められることは素直に誇らしい。
「とりあえず、彼の様子は観察させてもらいます。もしかしたら、何か問題が起こるかもしれませんし」
「それは構いませんが、あまり介入するのはやめてくださいね」
「彼の魔力を観察するだけなので、特に何かをするつもりはないです」
「それなら問題はないか」
エリザベスは納得する。
彼女は元冒険者なので、子供たちには自由に生きて欲しいと思っている。
その障害となるなら問題だが、シルトにはそのつもりはないので受け入れた。
いつの間にかシルトと自然に会話でき、お茶会は和やかな雰囲気となった。
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