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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
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閑話5 聖騎士の元部下を酒場の女主人は心配する

※3月31日に更新しました。


 テキラ村唯一の酒場フォアローゼスは今日も騒がしい。

 酒を飲んで開放的になった客たちが盛り上がり、その盛り上がりがさらに酒を進ませる。

 盛り上がりで雰囲気が良くなれば良いが、問題が起こることも多々ある。

 二人の男たちが言い争い、今にも殴り合いを始めそうだ。

 片方の男が右腕を振りかぶる。


(バキッ)

「「っ⁉」」


 その拳は相手に届くことはなかった。

 いつの間にか現れた男性の顔を殴っていたからだ。

 これには喧嘩をしていた男たちも驚愕する。


「お客様」

「「は、はい」」


 男性の言葉に男たちは起立する。

 これから怒られると思ったのだろう。

 しかし、出てきたのは予想外の言葉だった。


「盛り上がるのは結構ですが、問題を起こすのは駄目です。お酒は楽しんで飲まないと」

「「は、はぁ……」」


 男たちは肩透かしを食らった表情になる。

 てっきり殴られると思ったのに、まさか口頭の注意だけとは思わなかった。

 だが、予想外はさらにそこからだった。


「さあ、喧嘩はこれで終わりです。皆さんで飲みましょう。一杯は私のおごりです」

「「「「「えっ⁉」」」」」


 男の言葉に全員が驚いた。

 優しげな人物だと思ったが、まさかおごってもらえると思わなかったのだ。


「……」


 そんな様子を酒場の主人──ローゼスはじっと見つめていた。


◇◆ ◇ ◆ ◇


「あんた、どういうつもりだい?」


 仕事終わり、ローゼスは男──テンダーに声を掛ける。

 彼は元聖光教の人間でヴァンの部下だった男である。

 ヴァンと共にカルヴァドス教に移住し、フォアローゼスに就職したのだ。

 人当たりが良いので接客に向いていると思っていたが……


「何がでしょうか?」

「今日のことさ。なんでわざわざ殴られた?」


 ローゼスは疑問だった。

 酒場で喧嘩が起こるのはしょっちゅうであり、自分たちで終わらせることもあれば、周囲の仲裁がいることもある。

 どちらが必要かは状況次第であるため、テンダーが仲裁に入ったことは問題ではない。

 だが、そのやり方が気になった。


「あのまま殴れば、相手が怪我をするかもしれなかったからです」

「そんなの喧嘩じゃ当たり前だろう?」

「それは否定しません。ですが、そうすると怪我をした人もさせた人も嫌な気持ちになります」

「わからないでもないけど、それが殴られる理由にはならないだろう?」

「私が殴られることで片方の嫌な気持ちはなくなります。そして、私が許すことで殴った方の気持ちも収めることができます」

「……なら、どうして全員におごった?」


 ローゼスは話を進める。

 問題は喧嘩のところだけではなかった。


「酒場の雰囲気を壊さないためです。そのためにお酒が有用だったのですが、駄目だったでしょうか? 私の給料から引いていただくつもりだったのですが……」

「その必要はない。喧嘩した二人がその分も支払ってくれたからな」

「え?」


 テンダーは驚く。

 同時に理解ができなかった。


「私がおごると言ったのですよ? それなのに、どうしてそんなことに……」

「申し訳なかったんだとさ」

「申し訳なかった?」


 テンダーはオウム返ししてしまう。

 喧嘩した二人の気持ちがわからない。


「喧嘩を仲裁してもらった上におごってもらうなんて、あの二人からすれば身に余る施しだ。しかも、自分たちのせいで怪我をした相手にな」

「私はそんなこと気にしませんが……」


 ローゼスの話にテンダーは首を振る。


「あんたは人の幸せを願っているが、自分の幸せを考えていない」

「そんなことは……」

「その結果が今回の自分の身を犠牲にするやり方だ。そんなことをしても、周囲は申し訳ない気持ちになるだけだぞ?」

「……」


 テンダーは反論できない。

 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 恩返しをしたい気持ちはあったが、それが周囲の迷惑になるとは……


「別に他人の幸せを願うのはかまわない。だが、それはあくまで自分の幸せを願ってからだ。自分を幸せにできない人間が他人を幸せにできるはずがない」

「私は幸せなんですが……」

「はぁ……その辺りの意識を変えていかないといけないな」

「はい?」


 呆れたようなローゼスさんにテンダーは首を傾げる。


「「……」」


 そんな二人を──テンダーをドライとマティには羨ましそうに見ていた。

 好意を寄せている女性が新人相手につきっきりになっている。

 しかも、同じ種族の異性だから、より心配になってくる。

 だが、同時にテンダーの危うさも理解できたので、仕方ないとも思っていた。

 ただ羨ましいのだ。


 こうしてフォアローゼスは新たなスパイスを加え、人間関係が変わっていく。






自己犠牲が周囲に気を遣わせる──個人的な考えですが、間違いではないと思っています。

他人を幸せにするなら、まずは自分から幸せになるのも当然だと思います。

もちろん、他人の不幸で幸せになるのはもってのほかですけどね?

さて、テンダーの加入でフォアローゼスの人間関係はどんなことに?


作者のやる気につながるので、読んでくださった方は是非とも評価やブックマークをお願いします。

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