閑話4 犬耳メイドは奥様師匠コンビに認められる
※3月30日に更新しました。
事件から数日後、リュコスはエリザベスに呼び出された。
怒られると内心ビクビクしていたが、エリザベスは怒ってはいなかった。
「リュコ、聞いたわよ。実戦で【魔装】を使ったそうね」
「はい」
「段階は両手足までかしら?」
「もちろんです」
エリザベスの質問にリュコスは答える。
嘘をつく必要はないので、しっかり答えた。
「火傷はしていない?」
「ええ、特には」
「戦っているときに熱さは感じた?」
「そういえば、感じなかったです」
質問されて考え、リュコスは自身の変化に気付いた。
エリザベスとの訓練中、炎を纏ったときに少なからず熱さを感じた。
もちろん、自分の炎なので火傷しないようにしているが、調節を間違えればあとで痛みを感じてしまう。
なので、威力の調節は気をつけるようエリザベスから言われていた。
「意外に早かったわね」
「びっくり」
「?」
エリザベスとクリスが示し合ったが、どういう意味かわからなかった。
二人にだけわかる何かがあったのだろうか?
「もう私が教えることはないわ」
「えっ⁉ 破門ですか?」
突然の言葉にリュコスは思わず大声を出してしまう。
そんな彼女の様子に二人は笑う。
「安心して。破門はしない」
「どちらかというと、免許皆伝かしら?」
「免許皆伝、ですか?」
エリザベスの言葉にリュコスはさらに混乱する。
どうしていきなり免許皆伝されたのか、全く理解できなかった。
そんな彼女にエリザベスは説明する。
「この【魔装】で体にダメージがない──つまり、魔法が完全になじんだの。完成といって良いわね」
「でも、私はまだ両手足にしかできませんが……」
「当然よ。いきなり全身にそんなことをすれば、炎属性なら火傷どころか焼死体よ」
「う……」
真っ黒焦げになって横たわる姿を想像してしまった。
嫌な想像にリュコスは吐きそうになってしまう。
「まあ、免許皆伝いって、いきなり全身に【魔装】するのは駄目よ。両手足になじんだといっても、他の部分にはまだなじんでないんだから」
「両手足と同様になじませていけば良いんですか?」
「その通りよ。でも、それだけが選択肢じゃないわ」
「どういうことですか?」
リュコは首を傾げる。
【魔装】は魔法を装備する──装備ができる場所が増えれば、その分強くなると思っていた。
しかし、エリザベスの考えは違うようだ。
「全身を覆うことができたら強くなるかもしれないけど、その分消費する魔力はかなり多くなるわ」
「あっ」
ここでリュコも気付いた。
この【魔装】にもデメリットがあったのだ。
「常時魔法を使っている状態だから、当然消費も大きいわ」
「では、両手足だけに留めるべきですか?」
「そこは自分の魔力量と相談かしら? リュコにとって魔力消費と【魔装】のメリットがちょうど良いバランスになるところを探すべきね」
「……自分で見つけないといけないんですね」
「残念ながら、私たちにはわからないわ」
エリザベスは申し訳なさそうにする。
その表情にリュコスも不安になる。
今まで手取り足取り教えてもらっていたが、ここに来て一人でがんばらないといけなくなった。
「わからないことがあったら、いつでも相談にくればいい」
「え?」
クリスの言葉にリュコスは驚く。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。
「【魔装】の最適解はわからないけど、魔法についてはエキスパート。だから、リュコの質問にも答えられる」
「これからも教えて貰えるんですか?」
「もちろん。魔法の技術は【鍛錬の連続】と【先達からの経験】で進化していく。リュコが上達したいのなら、私たちも協力を惜しまない」
「クリス奥様」
「違うわ」
「え?」
突然否定され、リュコスは驚く。
何か間違ったのだろうか?
「クリスお義母様でしょ? グレインのお嫁さんなら、私のことを母と呼ぶべき」
「ええっ⁉」
流石に驚きを隠せない。
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
そこにエリザベスが待ったをかけ……
「待ちなさい、クリス。実母の私が呼ばれていないのに、抜け駆けはずるいわ」
「抜け駆けじゃない。私だって、リュコから呼ばれたい」
「その気持ちはわかるけど、私の方が先よ」
魔法の話から一転、当事者の熱意とは裏腹にしょうもない話にシフトしてしまった。
しかし、そんな二人を見て、リュコスは嬉しく思う。
自分の家族として認められた、肉親のいない彼女にとってこれ以上嬉しいことはなかった。
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