閑話3 真面目執事は糸目メイドと言い争う
※3月29日に更新しました。
サーラのルックス情報に「糸目」を追加しました。
暗殺者から隠密を連想し、好きな漫画のキャラをイメージしました。
たしか忍者キャラだったので、少し違う気がしますが……
「サーラ」
「あら、ジルバ。どうしたの?」
珍しい人物に声を掛けられ、サーラは驚く。
同じ屋敷で働いているので話すことはあるが、それはあくまで業務上の話である。
こんな風に一人でいるときに話しかけられるのは珍しかった。
「どうしてグレイン様とリュコを見逃した?」
「どういう意味かしら?」
サーラははぐらかすように答える。
だが、その反応が良くなかった。
「お前なら、二人がアレン様たちの元に行く前に止められたはずだ。そしたら、二人は危険な現場に行くことはなかった」
「でも、二人が行ったから今回の件がうまく解決したんじゃないかしら? 大活躍と聞いているけど……」
「あくまで結果論だ。二人がいなくても今回の件は解決していたはずだ」
「否定しないわ」
グレインとリュコスがいなくても解決していたことはサーラもわかっていた。
アレン、リオン、ルシフェルの三人が揃って解決できない問題はないのだ。
あくまで戦闘的な問題だけではあるが……
「でも、今回の件が二人にとって必要なことだと私は思うわ」
「なに?」
ジルバが怪訝そうな表情になる。
サーラの言葉の意図がわからなかった。
「二人はとても成長しているわ。同年代どころか、上の世代でも通用するほどね」
「……」
「でも、実戦経験が足りてなかったわ。まあ、こんな田舎でそうそう実戦経験を積む機会なんてないから仕方がないけど」
「魔物がいるじゃないか」
「それも一つの経験よ。でも、私が言いたいのは対人の実践よ」
「……たしかに魔物では得られない経験だな」
サーラの説明にも一理あった。
対魔物と対人では戦い方は異なってくる。
魔物の場合は本能で行動することが多いが、人間の場合は頭で考えて行動する。
一概にすべてがその限りではないが……
「あの二人は次の段階に進んだ方が良いと思ったのよ」
「……シリウス様たちは?」
「まだ早いわね。同年代の中では抜きん出て強いかもしれないけど、グレイン様ほどじゃない。というより、対人戦をするには精神的に早いわね」
「過保護なんだな」
「あなたに言われたくはないわ」
ジルバの呆れたような言葉にサーラも反論する。
どちらの過保護であるのは同じだった。
「いずれは対人戦をできるように訓練した方が良いけど、学ばないに越したことはないのよね。不要ならそれで良いし」
「必要なのは君自身がわかっているだろ?」
「あの頃とは違う……とは言いたいけど、否定できないのも事実ね。むしろ、グレイン様のせいで酷くなっているでしょう」
「まったく、グレイン様の規格外にも困ったものだ」
二人は苦笑するしかなかった。
かつてはアレンが貴族になったことを迷惑に思った一部が刺客を送り込んできた。
その一人がサーラだ。
最近ではその矛先がグレインに向きつつある。
正式な情報ではないが、グレインがカルヴァドス男爵家の躍進を支えている情報が流れている。
アレンが刺客程度ではどうすることもできないが、まだ子供であるグレインならどうにかできると判断したからだ。
リバーシやチェスなどを発明し、王からの覚えの良いグレインを手に入れられれば、自分たちの利益につながると考える者も多い。
自分たちの利益を考えず、カルヴァドス男爵家を失墜させるためにグレインを狙う者もいるだろう。
「といっても、双子の二人にはいずれ対人の技術は必要になってくるわね」
「珍しいな。過保護な君がそこまで言うなんて」
「過保護だからこそ、よ。あの二人はグレイン様とは違う理由で狙われるわ」
「……そういうことか」
言いたいことを理解し、ジルバは呆れてしまう。
サーラが溺愛するほど、双子の容姿はかなり整っている。
グレインも整っている方ではあるが、世間的には双子の方が評価は高いだろう。
あくまで容姿の話なので、実際に交流すれば評価はまた変わってくるが……
「成長につれてどんどん綺麗になってくるわ」
「ああ、そうだな」
「あの子たちを見て、劣情を抱く気持ちもわからないではないわ」
「……それは君が言って良いことじゃないと思うが?」
サーラの問題発言にジルバは呆れてしまう。
彼女のこの嗜好はメイドとして雇われた時点で知っていた。
むしろ、そのおかげで暗殺者からメイドに転職したのだ。
「私は手を出さないわ。あの天使たちを純粋に成長させるのが私の使命なの」
「……その発言もどうかと思うな」
ジルバの呆れは変わらない。
変態の理屈はわからないが、サーラが双子にとって最強の守護者になるということでジルバは納得する。
要は問題を起こさなければ良いのだ。
「とりあえず、二人の半分でも良いから、グレイン様のことも見てやってくれ」
「別にかまわないけど、そうするといろいろと睨まれるのよね」
「何が?」
ジルバは首を傾げる。
「グレイン様のことが好きな娘が多いじゃない? 私が近づいたら、その娘たちの警戒が私に向くのよ」
「そんな馬鹿な」
「冗談じゃなくて事実よ。自慢じゃないけどルックスは整っている方だから、女の子たちの警戒心を煽っちゃうみたいね」
「……なら頼まない方が良いか」
グレインを取り囲む状況を理解し、ジルバは断念する。
サーラの言う通りグレインなら自分で解決できるから、女の子たちの警戒心を無駄に煽るようなことは避けた方が良いだろう。
「執事長ってのは大変な仕事だな」
「もう少し肩の力を抜いたら? そしたら、ストレスも減ると思うけど……」
「領主のアレン様を筆頭に問題児が揃っているんだ。肩の力なんか抜けるわけがないだろ」
「それもそうね。私が言うことじゃないけど」
サーラは笑みを浮かべる。
その姿にジルバは少し惹かれるが、すぐに平常心に戻る。
そして、お互いに仕事に戻った。
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