閑話2 先輩糸目メイドは後輩メイドの信頼が厚い
※3月29日に更新しました。
「サーラ先輩」
「あら、シルフィ。どうしたの?」
いきなり声を掛けられ、サーラは驚いた。
訓練の途中のようだが、隣でリュコスの息が上がっているのに、サーラにはまったくその様子はない。
優雅に返事できるほど余裕がある。
「私にも訓練をお願いします」
「いいわよ」
シルフィアの頼みをあっさり受け入れるサーラ。
反対したのはむしろリュコスだった。
「何を言っているの、シルフィ」
「止めないでください、リュコ先輩。私には必要なことなんです」
「どうして必要なのよ。こんな訓練をしても、メイドとして仕事ができるわけじゃないわよ」
「でも、リュコ先輩は訓練しているんですよね」
「私はグレイン様の横に立つ為に必要なの」
「だったら、私も同じです。この前のようにハクア様とクロネ様を無様に誘拐されないように必要なことです」
「うぐっ」
シルフィアの理由に反論できず、リュコスは言葉を詰まらせる。
そんな二人の様子をサーラは微笑みながら見ている。
「でも、シルフィアは【精霊魔法】で戦う魔法使い型だから、近接戦闘は必要ないでしょう」
「それは……」
今度はシルフィアの番だった。
リュコスの言葉は正論である。
「はい、ストップ」
「「サーラ先輩?」」
ここで仲裁が入る。
流石にサーラも止めるべきだと思ったのだろう。
「確かにリュコスの言う通り、シルフィアに近接戦闘は必要ないわね」
「ですよね」
サーラの賛同を得て、リュコスは笑みを浮かべる。
しかし、サーラの話はさらに続く。
「でも、私に指導を請うことが全く無駄とは言えないわ」
「どういうことですか?」
理解できず、リュコスは首を傾げる。
近接戦闘を必要としないシルフィアがサーラに教えを請うことに何の意味があるのだろうか?
「たしかにシルフィアは直接近接戦闘を使うことはないわ。そもそも、その素養はないわね」
「う……」
まったく才能がないと言われ、ショックを受けるシルフィア。
正面から言われたので、余計にダメージが大きい。
しかし、そんな彼女の様子を気にせず、サーラは話を続ける。
「でも、近接戦闘の戦い方を学べば、相手の動きを予測できるかもしれないわ」
「あ」
ここでリュコスも気付いた。
自分が使わない物事を学ぶ大事さもあるのだ。
「あの一件、シルフィはお二人を奪われたことで動揺したわ。その状態で取り返そうとして、大怪我を負うことになったわね」
「シルフィの立場なら当然では?」
「その通りよ。でも、そういう時こそ平常心で対処できれば、自分の思うとおりに物事を運べるわ」
「……なるほど」
シルフィアも納得する。
慌てた咄嗟の行動が招いた結果があの大怪我である。
平常心であれば、相手の攻撃を回避できていたかもしれない。
「さて、平常心を保つために必要なことは何だと思う?」
「「え?」」
いきなり問題を出され、二人は驚く。
「呼吸を安定させる?」
「気持ちを落ち着かせる?」
少し考えて、二人は答えた。
「残念、不正解よ」
「では、何が必要なんですか?」
「経験よ」
「「経験?」」
予想外の答えに二人は驚く。
そんな二人にサーラは説明を続ける。
「経験は大事よ。知っているのと知らないのでは、平常心を保つ難しさが違ってくるわ」
「それはわかりますが、初めての相手に有効じゃないのでは?」
「そんなことないわ。他の人との戦いから、相手の動きを予測することはできる。これも経験でできることね」
「なるほど」
シルフィアは納得できた。
リュコも頷いているので、理解できたのだろう。
「シルフィには経験を積んで、対処法を覚えてもらうことになるわ。それだけでも大分変わってくるわ」
「はい、頑張ります」
シルフィアは力強く返事する。
後輩の可愛い姿にサーラは笑みを浮かべる。
「大丈夫かな?」
そんな二人を見て、リュコは心配そうな表情を浮かべる。
理由は納得できたが、シルフィアが訓練についてこれるかはまた別の話だからだ。
メイドたちの話です。
サーラの優しい姉のような先輩っぽさを出したくて、書いてみました。
年齢的にはアレンたちの少し下ですので、30にはまだギリギリw
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