int.7 北方戦線
こちら側で集められる限りの情報を集めたところ、どうやら北部の国境の向こうでディレール王国が軍勢を集結させており、既にその先遣隊が国境付近でこちら側と衝突しているらしい。
両国の関係が悪化しているらしいという噂こそ以前から耳にしていたものの、まだ爵位を継いだばかりであり政権には関与していないのでどのような外交的経緯で現状に至ったのかは分からない(恐らくは鉱山資源を巡る対立が原因だろうと推測している)が、ともあれ北辺で有事が起きた場合には我がロートリベスタ侯爵家には兵を出す義務がある。
まだ本格的な侵攻こそ受けてはいないが、近いうちにそれがあることは明らかであるため、現在は私兵の編成を進めさせていた。
我がロートリベスタ家はおよそ七万程度の常備兵を維持しているが、広大な領地の各地に散っている兵を集めたり兵站を整えたりするまでにはそれなりの時間を要するため、今すぐに出陣出来る訳ではなかった。
ましてや、東の国境を守っている辺境伯家がよく行っているように、大貴族は周辺の中小貴族の私兵を糾合しながら共に進むことが多いので、彼らの集合を待つために更に時間を要することとなる。
だが、当然であるが国境沿いには他国からの攻撃に備えた城塞が建てられているし、既に味方の兵がその中に入っているようなので、そこでしばらくは食い止められるので特に問題は無いだろう。
領地の防衛と治安維持のために最低限領内に残しておくべき兵力は一万程度であるが、残りの六万のうち屋敷の近辺におりすぐに集められるのはその半分以下の二万であり、ひとまずそれを率いて北部へと向かうつもりだった。
非常に国土の広いこの国においてはここから戦場となるだろう北辺まではかなりの距離があるし、ましてや軍勢の移動ともなれば単身で同じ距離を踏破する場合と比べてずっとゆっくり進むこととなるので、全軍の集結を待っていては最悪の場合終戦までに間に合わない可能性すらある。
もちろんそうなってしまうと爵位の継承から早々にしていきなり大きな失態を晒すこととなってしまいあまりにまずいので、それを避けるために一部だけとはいえ私自身が率いて先行して参陣したという名目を立てておく必要があるのだ。
初めに報告を受けてから十日程が過ぎ、ある程度の準備が整った頃を見計らって私は二万の兵力を率いて屋敷を発ち、北部へと向けて出陣した。
ここから北の国境までは仮に一人で馬に乗って向かうならばおよそ半月程度で到着出来る距離であるが、歩兵に進みを合わせなければならない軍勢の移動となると出せる速度はずっと遅くなるため、その倍に当たる一ヶ月の時間を必要とすることになる。
まだ開戦していないので戦局がどのようなものになるかは未知数であるものの、仮にこちらが劣勢に追い込まれたとしても一月程度で戦線が崩壊することはまずないので多少時間を要しようとも問題は無いが、臣下の一人に指揮を任せて残してきた本隊(周辺の諸侯の私兵と合わせておよそ六万程度になるだろう)に関しては編成が終わるまでに後一ヶ月、進軍に一ヶ月と考えると戦いに間に合うかは微妙なところだった。
こちらが劣勢、もしくは互角の戦況となれば十分に間に合うし活躍の機会もあるだろうが、開戦直後からこちらが優勢を保った場合であれば本隊が到着する頃には既に敵軍を国境の向こう側に押し返しており出番が無い可能性も十分にある。
その辺りについては向こうがどれくらいの本気度で攻めてくるかにもよるので、現時点では何とも言えなかった。
ともあれ、そのような理由によって一足先に北へと向かった私率いる軍勢は、街道に沿うようにして北上を続けていく。
ベルフェリート王国の全ての都市及び貴族の領地を網羅する石畳の街道は王家の発案と出資によっておよそ二百年前に敷設されたものであるが、それは単に旅人や商人の移動に用いられる交通網としての役割だけでなく有事の際には軍勢や物資などを輸送することも想定されており、大軍が通ったとしても支障が無いようにその幅は王都の大通りと同じ百メートル近くとなっている。
二十五メートルプールが横に四つ並んでいると考えればその広さの程は容易に実感出来るが、王自らによる親征であれば過去には五十万を超える大軍が編成された例もある(その際には当然我がロートリベスタ家の私兵も従軍している)ので、それだけの大軍が通行するとなればこれくらいの幅が無ければならないのだ。
王都やその外の大都市の大通りの幅が広いのも同じ理由であり、軍勢が勝利を収めて戻ってきた際には市民が集まりパレードのようにして勝利を祝うので、軍勢が通るための幅と民衆が集まる空間を考えれば実際に居合わせたことがある訳ではないがむしろそれでもやや狭いくらいであるらしい。
当然これだけの幅の街道をあまりに広い国土の全域に敷設するとなればそれに要した時間と資金は莫大であり、史書の記述によれば着工から完成までには王が何人か交代して五十年近くの時間を要したのだそうだ。
この国の王家の権力は絶対王政とは程遠いレベルであるため当時の宰相は街道敷設を進める上での諸侯との折衝(何しろいくつもの派閥がありそれぞれに利害が異なるのだ)にかなり苦労したようだが、ともあれそのおかげで国内の物流は大幅に改善され、軍勢の移動に要する時間も縮まるなど後世の私達は大きな恩恵を受けられている。
こうして一定の速度での進軍を続けられているのも街道の存在があるからこそであり、仮に街道が無かったとすれば進軍するには平地に作られた畑を避けながら起伏のある荒野の中(まさか他所の貴族の領地の畑を踏み荒らす訳にはいかない)を進まねばならず、体力の消耗が比べ物にならない程大きくなるし、到着までに要する時間も今よりずっと多く必要になっただろう。
そのことによる恩恵を現在進行形で実感している私は、道の両側に存在する国内で主食とされている三種の穀物のうちの一つである小麦が一面に青く実る畑を馬上から眺めつつ、頭の中で戦場となるだろう地域の地図を思い浮かべた。
一月程の後に北部地域へと辿り着いた私達は、ひとまず近くにあった城塞に先に使者を送った上で立ち寄り、行軍に疲れた身体を休める。
名をリジェルシュ城というらしいこの城塞は近辺に領地を持つシロラ伯爵家の領内に建っており、先日の継承式の際に軽く言葉を交わした覚えのある伯爵もどうやら戦いに備えてここに滞在していたようで、開かれた門から内部に入ると彼自らの出迎えを受ける私達。
現在もここから更に北方に行ったところにある砦では防衛戦が行われているようなので急ぎ救援に行きたいところだが、まずは休息を取って疲れを癒さねばならないし、何より伯爵から現在の状況について聞かなければならない。
これまで後方にいた私と前線にごく近いこの地を治める伯爵とでは彼の方がより詳しく正確な情報を持っているのは当然であるし、彼からの話を聞いて状況を把握しておかなければ、ともすれば不測の事態に陥ってしまう可能性もある。
なので私は伯爵を相手に手早く兵舎の利用について話を纏めると率いてきた軍勢に解散と兵舎での休息を命じ、それが終わると彼と共に城内の四階にある会議室へと向かう。
有事の際には軍議が行われるそこには伯爵だけでなく私と同じように私兵を率いて救援に赴いてきたらしい諸侯の姿がいくつか見受けられたが、こういった場合には席次は基本的に爵位の順となるので、この城の持ち主である伯爵が入り口から見て最も置くに当たる場所に座ると、それに続いて侯爵である私は同じくそのすぐ手前の右手に当たる席に椅子に腰を下ろした。
長く大きな机を囲むようにして席に着いた私に対し現在の状況が地図を用いながら(街道と川と主要な城市の位置が書かれている程度の簡易なものであるが、この程度の地図ならば市井でも出回っており旅をする民衆や物資を運ぶ商人の間で広く利用されている)簡潔に説明されていき、私は彼の口から説明された現在の戦況と地図に記された地勢を元にこれからどう動くべきかを考えていく。
民間で作られた地図が流通しているということはそれをあちら側が入手している可能性が極めて高いということであり、こちらも同じように向こうの国土を大雑把に記した地図を持っているのでそれ自体は大きな問題ではないのだが、ということはつまり彼らはある程度地図の記述を参考にして進軍してくるということを意味しており、ならば地図を見ながら考えれば敵の進軍ルートをある程度絞ることが可能となる。
この国には車も鉄道も存在していないため、迎撃に出る際に敵の進路の予測を見誤ってしまって兵を配置してしまうと、最悪の場合それが発覚してから慌てて追い掛けても追いつくことが出来ずに無傷で国土の奥深くまで進ませてしまう可能性もあるのだが、地図という判断材料があればそうした醜態を晒してしまう可能性を大幅に小さくすることが出来た。
また、私がこうして救援に来たのと同じように多くの諸侯も同様に北部への進軍を続けており、その中でも我がロートリベスタ家と並んで最も大兵力を誇るのがベルファンシア公爵家である。
もちろん王家も同じように軍勢を出しているが、国内で最大の兵力を誇るヴェルトリージュ辺境伯家は領地が存在する東端からここまでは相当な距離が存在しているために現時点では不参加が決まっている(もちろん本格的に戦況が悪化すれば私兵を出すことになるだろうが)ので、ベルフェリート軍の主力となるのは当面のうちはこの三者だということだ。
爵位こそ公爵と侯爵であちらの方が上である(ので軍議の際の席次などはあちらが優先される)が、領地の広さや抱えている私兵の規模などで考えれば彼我の実質的な力はほとんど互角であると言っていい。
今はまだ構わないが彼らとも近いうちに打ち合わせなくてはいけないだろうし、ともすればどこかで合流して共闘することとなる可能性もあるので、そういった可能性も視野に入れつつ私は思考に耽る。
既に敵の先遣隊による国境沿いの我が方の砦への攻撃は始まっているようだが、それを受けて私が取ることの出来る選択肢は大きく分けて二つあった。
一つ目は言うまでもなく現状の二万を率いて砦の救援へと赴くことであり、もう一つは越境した上で集結中の敵主力へと奇襲を仕掛けることである。
前者のメリットとしては緒戦で勝利を収めることによって敵の出足を挫き味方の士気を上げられる点、デメリットとしては先遣隊を撃破したところでその後に来るであろう本隊に対しては何の損害も与えられないことであり、後者のメリットは成功すればそのまま敵に大損害を与えてこちらに有利な講和へと持ち込むことが可能である点、デメリットは敵に動きが露見したり気付かれずとも奇襲の際に上手く対応されれば敵地であるためにそのまま全滅する可能性が大きいことだ。
要するに大きなリターンを得たければ相応に大きなリスクを背負わなければならないということなのであるが、戦場でもなければ大きな功績を挙げるのは不可能であるので、殿下との誓いを果たしこの国の宰相となるためにはここでそれに相応しい程の大功を得ることが必要不可欠である。
そのことを念頭に置き、私は越境して集結中の敵軍へと奇襲を仕掛けることを決断したのだった。
国境沿いということは即ち辺境ということを意味するので周辺には未開拓のままの森が非常に多く、狼や熊などの獣に注意しながらも木々を利用して隠密に敵領内へと侵入した私達は、街道を利用する訳にもいかないので通常の行軍よりもずっと多くの時間を要しながらも、半月程の後には目的の地域へと辿り着いていた。
どうやらディレール軍は二路に分かれての進軍を考えているらしく、数日前に届いた報告によれば現在私が狙いを定めているものではない方の軍勢をベルファンシア公爵家の軍勢が迎え撃ち、惨敗を喫したらしい。
さすがに引き返すべきかと検討したものの、幸いにも敗走した公爵家の軍勢は既に北部へと到着していた王軍と合流した上で態勢を立て直して砦を挟み敵と睨み合いを続けているようである上に、もうすぐ我がロートリベスタ家の本隊六万も北部へと到着するはずなので大丈夫であろうと判断し、作戦を続行することに決めていた。
現状は相手に天秤が傾いてしまっている状態ではあるが、ここで敵のおよそ半数に当たる軍勢を撃破することが出来れば、流れは逆にこちらへと大きく傾くこととなる。
森の中より虎視眈々と奇襲の機会を窺っていた私の視界にディレール軍の東路軍およそ十三万の姿が映り、ちょうど辺りが暗くなり始めていることもあって彼らは私が見つめていることに気付かずに夜営の準備を進めていく。
まだ自国内であるためか敵からの攻撃に対し警戒しているような様子は全く見られず、そのことを確かめた私は完全に日が落ちてから夜襲を仕掛けることを決断した。
それから三時間は過ぎただろうか、絶対に外にまで光が届かないだろう森の奥深くで火を起こして兵糧である蕎麦粥を口にした私達は、音を立てないように慎重に森を出て篝火で明るく見えている敵陣へと近付いていく。
さすがに森の入り口から陣営まではそれなりの距離が離れていた(これは敵襲に対してではなく狼などの獣に対しての警戒だろう)が、それでも闇に紛れれば至近距離まで近付くことは容易く、ぎりぎりまで接近したところで私は全軍に突撃を命じる。
どうやら敵の軍勢は夕食の最中であったようで、警戒を全くしていなかったところへの奇襲とあって私達は十三万にも上る大軍のために構築された広大な陣地を瞬く間に蹂躙していく。
逃げ出す者や降伏する者など敵兵の反応は様々であるが、大混乱に陥っているのは皆同じであり、食事時のために武器を手放していたこともあって抵抗する者は皆無であると言ってよかった。
混乱のために兵達が無秩序に逃げ惑い、その無秩序のために混乱が更に広がる混沌の坩堝と化した周囲だが、数多くの篝火に照らされて夜でも明るい周囲を見渡してみると、そんな中に小規模ながら二つ程流れに逆らいながら抵抗を続ける集団を見つける。
こちらは兵数で見れば敵の僅か六分の一以下に過ぎず、奇襲という形で不意を打って混乱させているからこそ現状の優勢を保てているのであり、ああした抵抗が続けばそれを核として敵が徐々に纏まっていく可能性が高く、そうなれば兵数で遥かに劣る私達は容易に押し返されてしまうだろう。
せっかく掴みかけた勝利をそのような形で逃す訳にはいかないので、私はその芽を摘むべく周囲の兵と共にそちらに近付いていく。
距離が近付くにつれて相手の様子が鮮明に分かるようになったが、どうやらどうにか態勢を立て直すことが出来たディレールの指揮官のうちの二人がそれぞれ独立して部下と共に抵抗を見せているようで、速やかに彼らを降伏させなければこちらの勝利は儘ならない。
今の位置から離れている方に対してエドワルドを向かわせ、私は手前側にいる敵へと向かう。
抵抗している集団の数はせいぜい数百人程度と然程多くは無かったが、その中心にいる彼らを取り纏めていると思わしき男は身長が百九十センチを優に超えているのではないかという程の巨躯の持ち主であり、その手には大刀とでも表現すべきだろう形状の刀が握られていた。
いかにも山賊が使いそうな外観のそれは腹の部分が先に行くにつれて広がり最も広い部分では通常の剣三本分程の幅となっており、刀身の長さも二メートル近いのでその重量は三十キロ近くにも達しているのではないかと思われ、あまりの重さ故に通常であればとても実戦では使い物にならないはずのそれを簡単に振り回すことの出来る彼の膂力は凄まじいと言う外ないだろう。
男が貴族でありながらも前線で武器を振るう、相当な豪傑であることが見ただけでも理解出来る。
「既に大勢は決しています、降伏しなさい」
「いや、わしは最後まで諦めん。貴公はベルフェリート軍の指揮官とお見受けする。襲撃の手際は見事と言う外ないが……ここで貴公を捕らえれば形勢は逆転する。覚悟召されよ」
だが、だからといってここで怯えて引く訳にはいかないので、私は距離を縮めると彼に対し降伏を勧める。
しかし男は体躯に相応しいかなりの大声でそれを断ると、私へと向けて右手に持った大刀を突きつけた。
さすがと言うべきか、今の彼の大声のせいで近くにいた敵兵の一部が混乱から立ち直りかけてしまっているので、あまり悠長にもしていられない。
普段ならば侍従として私の代わりを務めるエドワルドはあちらで敵の貴族と一騎討ちをしているようでこの場にはおらず、となれば選択肢は一つしかなかった。
私は馬から下りて男の正面に立つと、腰から佩いていた細い剣を引き抜く。
「いいでしょう。ロートリベスタ家当主、ダリア・ロートリベスタ、参ります」
「ほう……。ミロスラフ・ラシュトゥーフカと申す。行くぞ」
さすがに隣国の貴族に関してはそれ程詳しくはないが、その口調と物腰から言ってミロスラフと名乗った彼も貴族なのだろう。
地を蹴って駆け出した彼がこちらに振り下ろした刀を、広い側面を剣で突いて軌道を変えさせて回避する。
貴族同士の一騎討ちでは極力相手に負けを認めさせて捕らえるのが暗黙のルールであることもあってか斬るつもりは無いようだが、しかしこれ程の質量を持った重量物が勢いよく命中すれば多少の怪我では済まないことは疑いがない。
間違っても当たる訳にはいかないので、私は横に後ろにと足を動かしつつ彼の大刀をぎりぎりのところで回避していく。
「貴公の細い剣では我が一撃を受け止めることは出来ん。大人しく負けを認められるがよい!」
「ええ、それもそうね」
私は緊急事態に備え、主に護身用として自分でも剣を佩いているのだが、しかし男性が使うような一般的な剣は重過ぎて満足に振るうことが出来なかったため、地球で言うエペのように重量を削るために特注でかなり細くしたものを用いている。
なので、彼の言う通り大刀を受け止めようとすればまるで小枝のようにそのままあっさりと折れてしまうだろう。
ではどうすればいいのか、頭の中で答えは決まっていた。
上段からこちらへと向けてかなりの速度で振り下ろされたそれを受け止めるように、私は右腕に握った剣を勢いよく振り上げる。
甲高い金属音が周囲に鳴り響き、簡単に折れた私の剣の先端が虚空を舞う。
―――そして。
「ぐっ!?」
苦しげな呻きを上げてその場に膝を突いたのは、ミロスラフだった。
彼の左太股に、折れた剣の先端が勢いよく命中して刺さったのだ。
「剣が折れるというのなら、折れた剣が飛ぶ軌道まで計算して振るえばよいだけでしょう?」
彼に対してそう告げる私。
不測の事態だというのならば話は別だが、剣が折れることが初めから分かっているならばそれを利用してしまえばいいだけだ。
頭の中で計算した通りの軌道を通り、破片は狙いを過たずに彼へと小さくはない傷を与えていた。
「こちらに来なさい。治療致します」
「ああ、わしの負けだ……。すまん、世話になる」
当然だが、太股を怪我していては満足に剣を振るえるはずがない。
兵達に命じて大人しく敗北を認めて大刀を捨てた彼に肩を貸させると、そのまま傷の治療のために落ち着いた場所へと運んでいく。
ふともう一つの舞台へと目線を向けると、どうやらあちらでもエドワルドが一騎討ちに勝利を収めたようで、捕虜としたらしい貴族をこちらへと連れてきている。
つまりは、敵は態勢を立て直すための核を完全に失ったということだ。
それによってこの場における勝利は確定したものの、殿下との盟約のことを考えればまだ満足をするつもりはない。
このまま余勢を駆って近くにある都市を急襲して攻め落とそうと考えつつ、私は未だ追撃を続けている私兵達を周囲へと呼び戻したのだった。




