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ex.1 愛しの君と

流血注意

 足を一歩踏み出すごとに、ちゃぷちゃぷと水音が響く。

 辺りは薄暗いので視認は出来ないが、きっと床は豪雨の後のように濡れているのだろう。

 そしてそれは、床だけには留まらない。

 この身もやはり隙間なく濡れていて、歩く度に皮膚を雫が伝い落ちる。

 大量に液体を吸った服が、ひどく重く感じた。


「た、助けてくれテオ……!」


 視線の先にある隣の部屋から、そんな声がこちらへ投げ掛けられる。

 私が一歩前へと進む度、それに合わせたように後ずさっていく男。

 もう中年に差し掛かりながらも強い眼光を保っていた彼の表情は、しかし今は恐怖の感情に歪んでいた。

 そう、腹立たしいことに私はこの男の普段の表情を知っているのだ。

 血で真っ赤に濡れた剣を、前方へと突きつける。

 まだ距離がそれなりにあるにも関わらず、男の喉からは悲鳴が漏れた。


 剣先の向こうにいる男は私の父―――いや、お嬢様の命を狙った反逆者だった。

 先日まで、お嬢様の実家で家令のようなことを任されていた男だ。

 仕事ぶりについては詳しくは知らないが、それなりの地位に任じられたということはきっと有能だったのだろう。

 尤も、そんな信頼もこの男は見事に裏切ってみせた訳だが。

 愚かにも目の前の男の虚報によってお嬢様から引き離された私が不審に思い調査すると、この者達がお嬢様の命を狙っていたのだ。

 事態の把握と隠れ家の発見にはかなりの手間を要したが、最終的に王都の路地裏で女顔の少年から情報を教えられ、どうにかここへと辿り着くことが出来た。

 激昂のままに男達へと斬りかかり、その大半を処断した私。

 とはいえ、私がお嬢様の侍従になることが出来たのはこの男が家令だったおかげなので、それだけは感謝してもいいかもしれない。

 反逆者を追い、開け放たれたままの隣室への扉を潜る。


「くたばれ、化け物め! ……ぐあぁぁ!?」


 右手に提げていた剣を振るい、扉の影の死角から私へと斬り掛かってきた男の胸へと突き立てる。

 もう首謀者である男を除いて全員斬ったと思っていたのだが、迂闊にもまだ討ち漏らしがあったらしい。

 いや、まるで私を誘導するように男が後退していたことを考えると、あらかじめこの場所に伏せて機会を窺っていたのかもしれない。

 興味も関心も無いので、それについてはどうでもよかった。

 斬られた男は大きな断末魔を上げたが、生憎とここは人里からは遠いので誰にも聞こえないだろう。

 事態を解決してお嬢様に謝罪するまでは絶対に命を落とす訳にはいかない。

 どこから誰に襲われようが、全て斬り捨てるだけだ。

 私はまた浴びた返り血により肌を覆う紅を更に鮮やかな紅で上書きしながら、止めていた歩を再開する。

 この建物の構造は知らないが、どうやらこの部屋が行き止まりらしい。

 男は壁を背に、怯えた様子で立ち止まった。

 私は歩み寄ると、その鼻先へと剣を突きつける。


「た、助けてくれ……! 私は父なのだぞ……!」

「もうあなたは私の父ではない。お嬢様の命を狙った憎むべき反逆者だ」


 この期に及んで、反逆者の話など聞く必要は無い。

 そう告げると私は右手を振るい、男の左胸を貫いた。

 別に首を落としてもいいのだが、お嬢様に安心していただくためにはこの者達の死体をはっきりと捜査に当たっているという騎士団に示す必要があった。

 首を落としてしまうと運ぶ際に数が増えて面倒なので、こうして胸を貫いているのだ。


「……さて」


 これからお嬢様の通う学園内にある騎士団の屯所へと自首することになるが、そのためには反逆者達の死体を学園の人目のつかない場所へと運ぶ必要があった。

 学園に忍び込むこと自体は簡単だが、何度か往復しなければならないだろう。

 もう夜なので血塗れの服のままでも問題は無いだろうと思いながら、私はひとまず目の前の死体を肩に担ぎ上げた。









 死体を全て図書館裏の木々の根元へと置き、私は一息つく。

 あの建物から学園まではそれなりの距離があったので、その間を両肩に人体を担いで人目を避けながら歩くのは、いくら鍛えているといえどもそれなりに大変だった。

 もう辺りは明るくなっている。

 出来ることならばお嬢様にもう一度お会いしたかったが、こうなっては仕方がない。

 ただでさえ、あの隠れ家に辿り着くために散々奔走したのだ。

 情報を聞き出すために裏路地のならず者を何人も叩きのめして尋問したり、時には金を払って情報を得たりした。

 それでもなかなか手掛かりが見つからず、最後には女顔の少年が有力な情報を教えてくれたことでどうにか辿り着くことが出来たが、それまでにかなり時間を使ってしまっている。

 ここでこうして感けている分だけ、お嬢様が不安に襲われる時間が長くなってしまう。

 もたもたとはしていられなかった。

 私は騎士団へと自首するために、持参した紐で自分の身体を縛っていく。

 そもそもお嬢様を危険な目に遭わせてしまったのは反逆者達の虚報に騙されてお側を離れた私のせいでもあるし、不愉快なことに私には反逆の首謀者であった男の血が流れている。

 当然処刑されるべき人間なのだ。

 他の家の侍従がどうかは知らないが、私は敵を制圧するために捕縛術の訓練も積んでいる。

 自分の腕と胴を縛りつけるくらいならば簡単だった。

 最後の結び目を口で引いて絞り、そして唇から紐を離す。

 こうなればもう自分でも外せない。

 私は、騎士団の屯所の方へ歩き出す。

 空は明るくなっているが、まだ貴族にとっては早い時間であるために人通りは無い。

 適当に探してみたが服の着替えは見つからなかったので全身真っ赤なままだが、騒ぎにはならないだろう。

 もしかしたら使用人達には鉢合わせるかもしれないが、それは仕方がないと諦めるしかない。

 気配を消しながら進めば見つかりにくくはなるが、視認されれば見つかってしまう。

 いずれにしてももうすぐ処刑される身なのだから、気にしても仕方がなかった。

 上半身を縛っているのでバランスを取るのは難しいが、だからと言ってこの程度でふらついたりするような鍛え方はしていない。

 お嬢様を守るために訓練を積んできたので、体勢を崩さないように歩くことは出来た。


「……!」


 しかし、しばらく進んだところで私は目を見開いた。

 思わず声を上げそうになり、咄嗟に動揺を抑え込む。

 視線の先にはお嬢様と、その傍を歩く三人の男女の姿。

 そのうちの一人は知っている。

 実際に目にするのは初めてだが、十六歳にして第三騎士団の団長になった銀髪の男といえば国中に名が轟いている。

 残りの男女については心当たりも無いが、立ち振る舞いからして少年の方はお嬢様の隣を歩く少女の侍従だろう。

 そんな風に考察していると、ふとこちらを向いた銀髪の男と目が合う。

 先程驚いた際に、気配を消すことを一瞬やめてしまったので、それで気付かれたのだろう。

 身のこなし、そしてその眼光の鋭さを目の当たりにして確信する。

 誰が敵であろうと勝たなければならない身としては悔しいが、今の私ではこの男には勝てない。

 いや、別に戦う訳ではないのだから気にしても詮なきことか。

 お嬢様の侍従として誰よりも強くあれなかったことと、最後までお嬢様を護れないことは心残りだが。

 ともかく、今更逃げ出す理由は無い。

 私は、そちらの方向へと向けて自ら縛った身体を動かす。

 本当に偶然だが、お嬢様と最後に話すことが出来る私は幸せだ。


「テオ……? テオなの……?」

「セリーヌ様!」


 そして近付いていくと、やがて騎士団長以外の面々も私に気付いたようだった。

 いや、自らの主から目を離さなかっただけで侍従の少年は既に気付いていたのかもしれないが。

 こちらを向いたお嬢様が、驚きの表情を浮かべて私の名を呼ぶ。

 お嬢様に名を呼んでいただいた歓喜が胸を満たし、私も思わずその御名を口にする。

 反逆者達がお嬢様の命を狙ったという概略を掴んでいただけで詳しい状況は知らなかったのだが、ご無事だったことが分かり心から安堵した。

 暗殺が失敗していることは前もって盗み聞いた反逆者達の会話から分かっていたが、果たして無傷でおられるのかは分からなかったのだ。

 こう言ってはなんだが、まだ年若く専門の訓練を受けた訳でもないお嬢様に一人で危機を乗り切れるとは思えない。

 誰かが護ってくれたのだろうか。

 慌てて私に駆け寄ろうとしたお嬢様を、隣を歩く少女が腕を掴んで止める。

 状況を鑑みれば、騎士団から見れば私が重要な容疑者であることは容易に理解出来る。

 お嬢様を止めた少女の判断は極めて正しかった。

 お嬢様を危険から護ろうとしての判断であることは明らかなので、そうしてくれたことに内心で感謝を捧げる。


「……テオドール・ダルトゥか?」

「お久しぶりです、お嬢様。いかにも、私がテオドール・ダルトゥです」


 そして騎士団長からの誰何を受けた私は、先に動きを止められているお嬢様に跪いて挨拶と礼をすると、自らの名を名乗る。


「ああ、テオ、誰があなたを縛ったの……?」

「これは誰の手によるものでもありません、自分で自分を縛りました」


 縄できつく縛られた私の上半身を見て、悲しげな表情を浮かべるお嬢様。

 誰かに監禁されていたものだと勘違いさせてしまっただろうか。

 誤解を解くために、私はあらましを伝える。

 お嬢様を危険な危険な目に遭わせてしまった原因の一人である私自身を、自分で捕らえただけだ。

 私は、罰として死ななければならない。

 本当は反逆者達を全員処断した際にその場で自害することも考えたが、それでは騎士団による発見が遅れるかもしれず、そうなればお嬢様に不安を与えてしまうかもしれない。

 私の死と共に明確に事件を終わらせ、安心していただく必要があった。


「どういうことですか? 姿を晦ましていたことも含め、事件について知っていることを供述しなさい」


 そして、そう覚悟を決めた私に訝しげな様子で尋ねる騎士団長。


「お嬢様が危機に陥っていた頃、私はあの男達に騙されて全く違う場所にいたのです。愚かにも騎士団の手を逃れようと彼らが逃げ出したことで初めて事態を知り、罪を償うべくここに来ました」


 自分の愚かさに腑が煮えくり返りそうになりながら、しかし怒りを押し殺して私はあらましを説明していく。


「……私を処刑してください。あの謀反人は父ではありませんが、しかし私があの男の血を引いているのは事実。その上に私のせいでお嬢様を危険に晒してしまったとなれば、生きている訳には参りません」


 そしてその最後に、騎士団長に対してそう伝える。

 少し上半身を俯かせ、首を刎ねやすい体勢を取った。


「……そうですね。あなたは主犯の身内として処刑の対象です」


 頷くと、剣を腰に提げた鞘から引き抜く騎士団長。

 やはりかなりの実力の持ち主であるらしく、剣を持った彼が発する圧力は尋常なものではなかった。

 とはいえ、まだ私は形式上はお嬢様の侍従なのだ。

 お嬢様の顔に泥を塗らないために、私は反応しそうになる身体を無理やりに抑え込む。


「お願いします」

「て、テオ!」


 そう口にすると、お嬢様が腕を振り解こうと暴れながらも心配そうな表情をこちらへと向ける。

 私は、安心させようとお嬢様へと微笑みかける。


「ご安心ください、お嬢様に仇をなした謀反人達は、先程一人残らず殺してきました。これで安心して逝くことが出来ます」

「やだ、やだよテオ! そんなの……!」


 すると暴れていたお嬢様が、遂に腕を掴んでいた少女を振り解いた。

 そしてこちらへと駆け寄ると、勢いをそのままに抱きついてきた。

 初めて感じる、お嬢様の身体の感触。

 肌に感じる柔らかい感触と体温に、このような状況にもかかわらず思わず胸が高鳴ってしまう。


「逝かないで! ずっと私を護ってよ! お願い!」


 声が枯れてしまうのではないかと心配になるほどに叫びながら腕に力を込めてくるお嬢様の双眸から、透明な雫が零れ落ちる。

 それは私の素肌へと滴り、反逆者達から受けた返り血を少しだけ洗い流した。

 今更ながら、お嬢様のドレスを紅く汚してしまったことに気がつく。

 しかしそれよりも、今はあまり内心を露わにされないお嬢様がこれほどの激情をぶつけてきていることで頭がいっぱいだった。

 涙を流して絶叫するほどに私のことを想ってくださっていることの喜びは、とても私ごときの語彙力では表現しきれない。

 出来れば、ずっとお護りしたかった。

 天寿を全うされる瞬間まで、ずっと側にい続けたかった。

 お嬢様の叫びに頷いて差し上げられたらどれだけいいだろうか。

 しかし、もう手遅れなのだ。

 許されるはずがないし、万が一死罪を免れたとしても反逆者の息子である私が侍従を続けられるはずもない。

 悔しさと悲しさに心が軋む。


「……クラスティリオン様」


 そんな私達をどこか達観したような、とてもまだ若い少女のものとは思えないような様子で見つめていた少女は、呟くように騎士団長の名を呼ぶ。

 そちらの方にちらりと視線を向けると二人が何やら目配せを交わしていたが、両者共に初対面となる私には当然ながらその意図は分からなかった。

 そして、銀髪の男が私へと口を開く。


「テオドール、父親達を斬ったと言いましたね」

「……あの男は父ではありません。私とは無関係なただの謀反人です」


 私はそう言葉を返す。

 客観的に見れば彼とは仲がいい親子だったと思うし、先日までは尊敬もしていた。

 しかし、それももう過去のことだ。

 お嬢様を傷つけるような人間のことを、私は父だと認めない。

 この手で命を奪った時も、特に心は動かなかった。


「その問答は後回しにしましょう。彼らの死体はどこにありますか?」

「向こうの建物の裏の木の陰に置いてあります。証拠のためにここまで運んできました」


 腕は使えないため、図書館の裏を視線で指し示す私。

 いくら訓練を積んできたとはいえ、肩に死体を担いで何度も移動するのはそれなりに大変だった。


「確認してきなさい」

「はっ!」


 いつの間にか、周囲には他の騎士達も集まっている。

 騎士団長の指示に敬礼をすると、そのうちの数人が指した方向へと走って行った。

 重い全身鎧を着ながらあれほどの速度で走れるのは、さすが現騎士団長の叙任以降精鋭として知られる第三騎士団だけはある。

 そして程なく、一人がこちらに戻ってきた。


「ありました、七体です」

「ふむ、計算とも合いますね。……テオドール・ダルトゥ」

「はい」


 何やらしばし考える仕草をした後、私の名を呼んだ騎士団長。

 それに対して返事をする。

 いよいよ処刑の時間なのだろう。

 この体温を二度と感じられなくなることは、これからお嬢様を護って差し上げられないことはこの上なく心残りだが、それは言っても仕方が無いことだ。


「本来であればあなたも連座で処刑するところですが、主犯とその一味を斬った功績により刑の執行を免じます。これから一生、何があろうともセリーヌ嬢の命と安全を護り抜くように」

「……それでは、子爵様が納得されないでしょう。それに、全ては謀反人の言葉を信じた私の責任です」


 続いて騎士団長が発した言葉に、思わず目を見開く。

 建前上はともかく、実質的には無罪ということになるのだ。

 これでは、お嬢様の父である子爵様も納得されないだろう。

 それに、このような失態をした私はお嬢様の侍従に相応しくない。

 後任がどのような人物になるかは分からないが、もっと有能で騙されない人物が侍従であるべきだ。

 まだ見ぬ、次に侍従となる人物に嫉妬は覚えるが、お嬢様のことを考えればきっとその方がいいはずだった。


「セリーヌ嬢、あなたのお気持ちを彼に伝えては如何ですか?」


 しかし彼は私の反論に直接言葉を返さず、まだ私に抱きついたままのお嬢様に話し掛ける。


「はい……。テオ、どこにも行かないで、ずっと私を護ってよ……!」

「お嬢様……。私をお許しくださるのですか?」


 私の背に回した腕に力を籠め、少し血で汚れた顔を泣きそうに歪めてそう口にしたお嬢様。

 これほどの過ちを犯して、実際にお嬢様を危険に晒してしまった私を許してくださるというのだろうか。

 私も泣きそうになりながら、そう恐る恐る尋ねる。


「テオは何も悪くないじゃない! 小さな時からずっと一緒にいてくれて、ずっと支えてくれて、ずっと助けてくれて……! いなくなる、なんて言わないでよぉ!」


 お嬢様の言葉に、心が打ち震える。

 これほどまでに私などを求めてくださっていることが、嬉しくてたまらない。

 幼少の頃から側にいたのだ、これが心の底からの言葉であることはよく分かる。

 恐る恐る、お嬢様の小さな身体に腕を回す私。


「決心はつきましたか?」


 それを見計らったかのように、そう尋ねてくる騎士団長。

 もう、答えは心に決めていた。


「ありがとうございます……!」


 そう口にする私。

 すると、彼は抜き放っていた剣を鞘に戻す。

 罪深きこの身が、赦されたということだ。

 私は、ぎゅっとお嬢様を抱き締め返した。









 そして、部屋に戻ったお嬢様と私。


「お嬢様のドレスを汚してしまい、申し訳ありません」


 私は、ドレスを血で汚してしまったことをお嬢様に謝罪していた。


「いいの。こうしてテオが戻ってきてくれたから……」


 微笑みながらそう言ってくださったお嬢様。

 これ一つだけでも本来ならば許されるべきではないのに、遥かに大きなものを許してくださったのだ。

 このお方のためならば、いつ命を投げ出しても惜しくはない。


「お嬢様のご慈悲に感謝を」


 もう一度、頭を下げる。


「もう、構わないって言ってるのに……。そろそろ、着替えようかしら」

「それでは、失礼致します」


 血で赤く汚れたドレスを着替えようとなさるお嬢様。

 着替えを覗く訳にはいかない。

 退出しようとする私。

 しかし、後ろから手を掴まれる。


「お嬢様?」

「行っちゃだめ……。またテオがどこかに行ってしまいそうで怖いの……」

「どこにも行きませんよ」


 振り返り、華奢な身体を抱き締める。

 力を込めればそのまま壊れてしまうのではないかとさえ思える程に細い四肢。

 力が欲しい。

 何にも邪魔されず、この身体を、そしてその中にある心を守り抜けるだけの力が。

 自らの未熟さを嫌という程に思い知らされた私は、強くなることを心に誓う。


「んっ、テオ……」

「お嬢様……」


 そして、お嬢様の唇が私のそれに触れる。

 頬に触れた吐息は甘く、理性を少しずつ侵食していく。

 絡む舌。

 舌に乗せられて流し込まれた蜜はとても甘美だ。


「ああ、テオ……。もう離れないで、ずっと一緒にいてね……?」

「勿論です」


 この先誰に嫁ごうと誰の子を孕もうと、お嬢様の侍従が私である事実は絶対に変わることはない。

 言われるまでもなく、もう離れるつもりなど微塵も無かった。

 唇が離れると、お嬢様の白く細い身体へと手を伸ばす。

 そうして、お嬢様と私は身体を重ね想いを交わしたのだった。

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