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14. 亡国之声

 セリーヌ嬢の侍従である少年と言葉を交わしてから十日程の後。

 昼下がり、私達は普段とは違う教室にいた。

 言うまでもなく、一日に授業が一つだけということはない。

 先刻まではいつも通り伯爵の講義を受けていたのだが、この時間は彼の担当ではないのだ。

 普段使っている教室とほとんど変わらない内装のこの教室にはしかし机が無く、私達はただ並べられたソファーに腰掛けている状態である。

 そんな私達へと、学園のメイド達からヴァイオリンが配られていく。

 そう、今は音楽の授業だった。


「ヴァイオリンは弦楽器の中心に位置する楽器であり、つまりはあらゆる楽器の中で最も重要なものです。この国をよく導いておられるベルファンシア公爵も、ヴァイオリンを愛好されています」


 中年の講師が、ヴァイオリンという楽器について解説していく。

 ピアノやそれに類する楽器が存在しないこの世界では、音楽の基礎を成すのはまさしく弦楽器に他ならない。

 ましてやその弦楽器の中核に位置するこの楽器は、貴族の必須教養と言って過言ではなかった。

 そのことは一点の曇りも無く正しいのだが、しかしその後によく分からない現宰相への持ち上げが入る。

 伯爵以外の講師による授業もいくつか受けてみて分かったが、学園の授業の中においてベルファンシア公爵への賞賛がよく行われていた。

 私のクラスは担任が伯爵であり、そのため諸学に通じた彼による講義が大半なので最近まで気付かなかったが、よくよく考えてみれば王家を差し置いてかれこれ二百年も政権を握り続けているのだからそれも当然だろう。

 本来王家への忠誠心を植えつけるために行われるはずの教育を、自らへの忠誠心を植えつけるために利用しているのだ。

 言うまでもなく講師達にも従うよう圧力が掛かっているだろうに、それを跳ね除けて中立的な授業を行っている伯爵には頭が下がる。


「ではまず、音を出してみましょう。前列の左側の生徒から順にお願いします」


 指示された通りに音を出そうと試みる生徒達。

 だが、ここにいる生徒の大半は中小貴族の子女だ。

 初めて手にするヴァイオリンを見様見真似で弾こうしても上手く音を出すのは無理だろう。

 ほとんどの生徒達は、かすれた音しか出せないまま進んでいく。

 そして、左隣に座るセリーヌ嬢の番になる。

 彼女が手にしたヴァイオリンから発せられたのもまたかすれた音のみだった。

 残念だが、こればかりは私の方から言葉だけでフォローするのは不可能なのだから仕方が無い。

 前もって練習するチャンスがあればまだしも、私も彼女も個人的にヴァイオリンを購入するだけの金銭など持ち合わせてはいないのだ。

 続いて私の番。

 鎖骨に先端を乗せ、内側に少し斜めになるように楽器を傾ける。

 そして左手をネックに添えると、右手の弓で弦を弾いて音を出す。

 かれこれ十数年ぶりのヴァイオリン演奏だ。

 だが、弦から発せられた音を聞いて少し表情を顰める私。

 かなり長い間演奏していなかった上に、そもそも前世での身体とは手の大きさから腕の長さまで何もかもが違う。

 上手く感覚が掴めず、頭の中で思い浮かべたような音が出てくれない。

 どうにかきちんとした音を出すことは出来たものの、納得がいくようなレベルとは程遠かった。

 ともあれ、私の番はこれで終了だ。

 続いて、右隣に座るルウの番となる。

 彼は肩と顎で楽器を挟むように固定すると、床とほぼ平行に構えたそれに左手を添える。

 そして弓で弦を弾くと、そこからは美しい音が奏でられた。

 公爵の嫡子ということもあり、やはり実家でかなりの教育は受けているらしい。

 その腕前たるや、今の私などよりずっと上だろう。

 と、弦を離し肩からヴァイオリンを降ろすルウ。

 順番は次の生徒へと進んでいく。


 五分程が過ぎた。

 次は、少し離れたところにいるユーフェルの番だ。

 ルウが私の隣に腰を降ろしたので家格で劣る彼は席を少年に譲り、少し離れた席に座ったのだ。

 周りに集まった女子生徒達と楽しそうに会話をしていたので、まあ人望というか人気はあるのだろう。

 きゃあきゃあと喜んでいる少女達。

 いつも私に言っているような台詞を掛けているのだろう。

 そう思って見つめていると、ふと目が合った彼が何故か蒼白になって凄い勢いで私から目を逸らしたのが記憶に残っている。

 本当、あのちゃらいところが無ければとてもいい友人なのだが。

 ユーフェルは私に近い形でヴァイオリンを構え、そして弦を鳴動させる。

 室内に響いたのは、まるで清流のせせらぎのように透き通って美しい音だった。

 たった一挺の楽器が発する決して大きいとは言えない音は、しかし少年の卓越した技術により広い室内の隅々にまで響き渡っていく。

 そして、音が途絶えた。


「……凄い」


 思わず、小さく呟いてしまう。

 音楽が好きなのは知っていたが、まさかこれ程までにヴァイオリンが上手いとは思わなかった。

 一瞬遅れて、静寂を掻き消すように生徒達のどよめきが広がる。

 ただ一度弓を手前に引いただけで、彼は教室中の人間を全て魅了していた。

 その道のプロであるはずの講師さえ、驚愕に目を見開いている。

 僅か一音でこれだけ人を惹きつけられるというのなら、きちんと曲を演奏したら一体どんな素晴らしいものを聞かせてくれるのだろう。

 そう期待させるような何かを、確かにユーフェルは持っていた。


 それから少しして、全員の試演が終了する。

 結局、ヴァイオリンを演奏出来るのは私達を含めて四人のみだった。

 大半の生徒達は触れるのさえ今日が初めてなのだろうから、当然だろう。

 本来ならば、一人も弾ける生徒がいなくてもおかしくはないのだ。


「あなた方に弾き方の初歩から講義する必要は無いでしょう。後程四人で何かを演奏していただきますので、隣の教室で練習していてください」


 講師からそう伝えられた私達。

 さすがに今のコンディションのまま一曲を奏でるには厳しいものがあるので、練習で僅かなりとも感覚を取り戻せるのはとてもありがたい。

 隣室へは扉で直接繋がっており、わざわざ廊下に出る必要が無い。

 扉を開くと、今までいたのと全く同じ構造の教室があった。

 違うのは、こちらは無人である点か。


「ヴェロニカちゃんは、話すのはこれが初めてだよね?」

「え、ええ」


 扉が閉まると、先頭を歩いていた少年が振り向いて口を開く。

 いきなり話し掛けられ、意志の強そうな瞳をした金髪の少女が虚を突かれたように返事をした。

 話したこともない女子生徒の名前を覚えている辺り、さすがはユーフェルといったところか。

 あれほど皆を音色で魅了した後でも、ちゃらいのは相変わらずらしい。

 ともあれ、この少女のことは教室で見掛けたことは当然ながらあるが、しかし接点を持ったのはこれが初めてだ。


「ユーフェル・アヴェイン。よろしくね」

「ヴェロニカ・インサーナよ。よろしく」

「サフィーナ・オーロヴィアですわ。よろしくお願い致します」

「……ファルトルウ・ヴェルトリージュ」


 互いに名乗りを交わす私達。

 ヴェロニカ嬢の実家は、インサーナ伯爵家か。

 確か、現当主とその婦人はヴァイオリンの名手として知られていたはずだ。

 両親から、彼女も手解きを受けているのだろう。


「それじゃ、どうしようか。誰か案はある?」


 続いて口火を切ったのは、やはり先程と同じくユーフェルだった。

 この面子だと、彼が進行役になるらしい。

 それはさておき、私達が講師から出されたのはかなりの無理難題だ。

 オーケストラ曲であれ弦楽曲であれ、チェロやコントラバスなどの低音楽器を前提としている曲をヴァイオリンだけで弾かなくてはならないのだ。

 どうしても低音が薄くなってしまうので、それをカバー出来るだけの高い技量が個々人に求められることになる。

 選曲は、その点についても考慮して行わなければならない。


「『夢幻』はいかがでしょう」


 彼にそう提案する。

 この曲は、ベルフェリート史上最高の作曲家の一人であるリベルト・カッラが書いた弦楽曲だ。

 彼の作品の顕著な特徴である勇壮さはもちろん、そこに曲名の通りの幽玄な雰囲気が混じり、まるで冷たい雨の響きのような不思議な曲調に仕上がっている。

 一つ大きな問題があることを除けば、四人で演奏するのにちょうどいい曲だと思うのだが。


「んー、僕はイェラントの『剣舞』がいいと思ってたんだけど、確かに『夢幻』の方がいいかもね」

「確かにぴったりだと思いますけれど……。低音はどなたが演奏致しますの?」


 ヴェロニカ嬢が呈した疑問。

 それが最大の問題だった。

 元々が弦楽曲であるのでヴァイオリン四本でも演奏は十分に可能なのだが、この曲は一番下のパートが恐ろしく複雑で難しいのだ。

 少なくとも、今の私には到底無理である。

 普通に考えれば一番上手いだろうユーフェルに任せることになるが、彼でも弾けるかどうか。


「ユーフェル様、お願い出来ませんか?」

「いいよ。せっかくだし、サフィーナちゃんが聴き惚れるような演奏をしちゃおうかな」

「ふふ、冗談がお上手なのですね」


 どうやら、弾きこなす自信はあるらしい。

 たとえ演奏するのがこの曲以外の曲であったとしても、彼が低音域を奏でることは必須だった。

 音を広げ響かせられる彼が低い音を奏でなければ、ひどく空疎な演奏になってしまうだろう。

 ユーフェルのいつもと変わらぬ調子の言葉をあしらいつつ、私は自分がどこを演奏しようかと考える。


「高音部を演奏させていただいても構いませんか? ヴァイオリンには久々に触れるので、いささか自信がありませんの」

「危なくなったらなるべくフォローをするから、僕は別に構わないよ」

「では私はサフィーナさんとユーフェル君の間を弾くわ。よろしくて?」

「……うん」


 首をこくりと縦に振るルウ。

 そうして、各人のパートが決まる。

 十年以上もヴァイオリンに触っていなかった上に身体の勝手も違うとなれば、いくら頭で弾き方や楽譜を覚えていても易々とはいかない。

 いくら練習の時間があるとはいえ、ミルフィーユのように重なった各パートの下から三層目、一番簡単なここでなくては弾きこなす自信が無い。

 下からユーフェル、ヴェロニカ嬢、私、ルウの順になる。


「決まりだね。じゃあ、早速練習しようか。エルミィ、楽譜を貰ってきて」

「畏まりました」


 エルミィと呼ばれたユーフェル付きのメイドさんが、『夢幻』の楽譜を取りに先程までいた部屋の方に向かう。

 いくら個々人が自分の担当のパートを演奏出来たとしても、いざ揃って演奏する際に合わなければ何の意味も無い。

 別に新入生なのだからミスをしても問題は無いだろうが、だからといって手を抜いたりせず名誉を求めるのが貴族というものだ。

 そして、日本人思考が未だ根強く残っている私とは異なり、生まれた瞬間から純粋な貴族である三人はその意識がとても強いだろう。

 私のせいで彼らの足を引っ張る訳にはいかない。

 しばらくして楽譜を四枚手にした彼女が戻ってくると、それは私達に一枚ずつ手渡される。

 それを譜面台の上に広げると、私達は練習を始めたのだった。


 全員が真剣なので、空気がひどく張り詰めた練習風景。

 真面目な雰囲気のユーフェルを見るのはこれが初めてかもしれない。

 真剣な顔をして美しい音色を奏でる姿は、素直に美しいと思う。

 ……本当、黙っていれば格好いいのに勿体無い。

 そんなことを思っていると、ふと室内の空気が弛緩する。


「本番まで少し休憩しようか」


 練習を終え、構えていたヴァイオリンを下ろす私達。

 ルウが、それを自らの従者の一人へと手渡す。

 小柄な彼には、あまり長く楽器を持ち上げているのは辛いのだろう。

 あれだけ張り詰めた場の中でも表情も雰囲気も全く普段と変わらなかったルウは、さすが大貴族の嫡子といったところか。


 皆はそのまま椅子に腰を降ろして休んでいるが、この中で間違いなく一番下手だろう私はのうのうと休んではいられない。

 少しでもこの身体での感覚を掴むべく、しばらく演奏を続けることにする。

 私はその場を離れ、教室の後ろの方へと歩き出す。


「あれ、どうしたの? サフィーナちゃん」

「まだ感覚が戻っておりませんので、もうしばらく一人で演奏していようと思いますの」


 近くで演奏していては迷惑だろう。

 そんなやり取りを交わしつつ、私は窓際まで辿り着くと立ち止まり、瞳を閉ざす。

 暗闇に包まれる視界。

 そっとヴァイオリンを構えて弓を引き、即興で旋律を奏でていく。

 弾いていて思い出されるのは、やはり前世での今際のことだ。

 逃げ惑うメイド達、炎上する館。

 それらは転生して十年以上が過ぎた今でもまるで昨日のことのように思い出せる。

 そして、そんな風景を追想する私の音は、次第に暗く沈んでいく。

 次第に入り混じっていく不協和音。

 少しずつ感覚を掴むにつれ脳裏に浮かぶ情景はより鮮明になり、情景が鮮明になるにつれ演奏が円滑になっていく。

 やがて最後の音を奏で、私は弓と本体を降ろす。


「きゃ……!?」


 即興演奏を終えた私が瞼を開けると、それと同時に背中から誰かに抱きつかれる。

 少し驚きながらも振り向くと、そこには無表情な顔を少しだけ悲しげに歪ませてこちらを見上げるルウの姿があった。

 目が合い、彼が口を開く。


「サフィーナ、悲しいの……?」


 旋律を通じて、感情を読んだのだろうか。

 その声色はどこか心配げだった。

 どうやら、心配させてしまったらしい。


「ご安心ください。私は大丈夫ですわ」


 悲しくないと言えば嘘になるが、この程度の感情を抱えきれないほど子供ではない。

 彼を安心させようと、私は笑みを浮かべさせて言う。


「……どこにも行っちゃやだ」


 しかし、抱きつく腕の力を強めるルウ。

 私は、その頭をそっと撫でた。









 そして、本番。

 結論から言うと、ユーフェルの演奏は事前に思っていた以上のものだった。

 練習の時から既にかなりのものだったのだが、どうやら本番ではないためにある程度手を抜いていたらしい。

 今の彼は、凄まじいという言葉でしか語れないようなレベルだ。

 前世でも前々世でも、それぞれ地球とベルフェリート王国の超一流と呼ばれるヴァイオリニストの演奏は何度か聴いたことがあるが、彼の演奏はそれらに全く劣っていない。

 難易度は高いが音が低いが故に一番地味なパートが担当であるにもかかわらず、その上で奏でている私もルウもヴェロニカ嬢も完全に彼の音に呑まれていた。

 横目で見る少年の姿は、普段の軽薄そうな雰囲気とは似ても似つかない。

 きっと、聴いている生徒達からすれば私達三人の音はユーフェルのそれの添え物のようにしか感じられていないだろう。

 たとえ彼以外の誰かがミスをしたとしても、気付かれないのではないだろうか。

 決してルウやヴェロニカ嬢が下手な訳ではない。

 ブランクが長い私はともかくとしても、辺境伯家の嫡男であるルウもインサーナ家の息女であるヴェロニカ嬢もむしろかなり上手いと表現してもいい程の腕前だった。

 そうではなく、ユーフェルがあまりにも上手過ぎるのだ。

 アンプで増幅されたエレキベースの音のような低く重い響きと、ヴァイオリンの美しく深みに溢れる音色とが融合した旋律。

 もし私がこれから一生をかけてヴァイオリンを練習したとしても、きっとこのような音を奏でられるようにはならないだろう。

 間違いない、この子は天才だ。

 私も呑まれないように懸命に弦を鳴らすものの、しかしそれは濁流に押し流されていくように容易く掻き消されてしまう。

 弾丸のように次々と放たれる低い音の一つ一つが聴衆を魅了する。

 それらは突如として途絶え、私達四人による同時に『夢幻』の演奏が終了した。

 四人というよりは、ユーフェルと愉快な仲間達と言った方がこの場合は正解かもしれないが。

 次の瞬間、叫びに近いような音量のどよめきが室内を支配する。

 熱狂したように、ソファーの上を飛び跳ねて感動を表す生徒達。

 プロであるはずの講師さえ、半ば恍惚としたような表情を浮かべている。

 彼らに礼をして、楽器を置く私達。


「これ程の演奏の後に授業を続けるのは野暮というものでしょう。定刻には少し早いですが、これにて講義は終わりとします」


 それに合わせ、そう宣言する講師。

 教室を包む熱気はそのままに、音楽の講義は終わりを告げた。

 私達はヴァイオリンを回収すべく近付いてきたメイド達に楽器を預け、そして椅子から立ち上がる。


「……ユーフェル君」

「どうしたの?」


 興奮を未だ引きずりながら皆が教室の外へと出ようとしている喧騒の中、ヴェロニカ嬢がユーフェルを呼び止めた。

 振り返り、いつもと変わらぬ様子で首を傾げる少年。

 本当、今の彼と先程までの彼とが同一人物であるとは俄かには信じ難いくらいだ。

 それくらい、纏っている雰囲気が別物だった。


「演奏のご指導を願えないかしら。インサーナ家の娘としては口惜しいけれど、私の技量は貴方には到底及ばないわ」

「僕は別に構わないんだけど……。多分、ご両親に習った方がいいと思うよ」

「どうしてですか?」

「ちょっと小さい頃からいろいろあってね。独学で覚えたから、ヴァイオリンをきちんと習ったことが無いんだ。他人に教えられる自信は無いよ」


 少女の疑問に対し、真顔でそう返すユーフェル。

 今の彼からは、演奏中と同じように軽薄な雰囲気も消えている。

 独学でヴァイオリンを、しかもこれ程の技量を身に付けたとは到底信じられないが、或いはこの天才ならばあり得るのかもしれない。

 他の人間が口にしたならば瞬時に嘘だろうと判断するところだが、しかしその実力故に彼の言葉は信憑性を帯びて私の耳へと届いた。


「それなら仕方がありませんね……。ですが、インサーナ家の息女として、いつか必ず貴方を超えてみせます」


 そんな少年から何かを感じ取ったのか、あっさりと引き下がるヴェロニカ嬢。

 変わりに、彼女はそう宣言した。


「いつか、また一緒に演奏出来るといいね」

「ええ、そうですわね」

「それじゃ、行こうか。次の講義まであまり時間も無いし。……あ、サフィーナちゃん、僕の演奏に見蕩れてくれた?」


 その言葉と共に、まるでそれまでの表情が幻であったかのようにいつもの雰囲気へと戻る彼。

 少し今までとは違った印象を彼に抱きながらも、私達四人はほぼ無人になった教室を後にしたのだった。

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