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榊、暴れ馬に遭遇す

 宿場町にたどり着いた。

 街の一角を切り抜いて設置したといって通るような小さな街だ。ひと通りの店屋が軒を連ね、それらの店に必要な物品を扱う交易場があり、彼らを養う畑がある……それで全てだ。

 門というより柵の切れ目を通って馬車を入れて馬小屋を借りる。そのやり取りも待ちきれない様子でイライラしだしたカテナを、ジンが振り返った。


「ここにも冒険者ギルドが支部を作っているらしい。暴れ馬についても調べているだろう。話を聞いてみるといい」


 ジンの勧めを受けてセナが頷く。


「話を聞きに行きましょ。フラン、悪いけど馬車を任せていい?」

「構わん。行ってこい」


 フランが応じるた直後にカテナは馬屋を飛び出した。急ぎ足のカテナを、榊、環、セナが追う。


「待て落ち着け、走ったら危ないぞ!」


 環の声も無視してカテナはすぐ近くの木造に向かう。冒険者ギルドだ。

 駆け込もうとして、


「っと!」

「む」


 出てきた女性とぶつかった。

 カテナに撥ねられた女性がふらついて、榊がその肩を支える。


「大丈夫ですか」

「む。失礼した……」


 女性は声を詰めて榊を見上げた。

 榊もまた彼女に視線を奪われる。


「……武者?」


 肩の赤い大袖が映える、武者の具足を身にまとっていた。

 特徴的な胴、腰に巻く草摺など鎧甲冑そのものだ。

 腕の籠手は通常のものより二回りも大きく、大袖と同じく板札を綴り合せた矢受けをつけている。


 女武者はハッとしたように辺りを探す。すぐに目を留めた。

 環の姿に。


「なんじゃ? おぬし大丈夫か?」


 見上げる環に言葉をかけられた女性は、返事もせずに眉をひそめた。振り払うように首を振る。

 榊から体を離した。


「失礼。大丈夫だ。ご親切痛み入る」

「いや、こちらこそ私の仲間が失礼を」


 気にするな、とばかりに手のひらを見せた。女武者はカテナなど忘れたかのように立ち去ろうとする。

 そのとき。


「暴れ馬だぁあ!!」


 そんな悲鳴が貫いた。

 宿場の張り巡らせた柵を軽々と飛び越えて、サラブレッドのような巨体の馬がしなやかな四足を踊らせて疾駆する。

 大きく、雄々しく、そして速い。

 並ならぬ馬とひと目で知れた。

 動揺の駆け巡るなか、一歩踏み出す音。


「ちょうどいい。(それがし)の力を示す機会だ」


 女武者が腰に佩いた太刀に手をかける。駆ける馬を迎え討つように歩み出る。

 瞳孔が糸のように細り、集中力が急速に引き締められていく。


「――駄目!」


 カテナが飛びついて取り押さえた。

 よろめく二人の横を馬が駆け抜けていく。


「待って! 戻れ、馬っ!」


 カテナが馬を振り返って叫ぶ。

 主の呼びかけに馬は漆黒に濡れた瞳をカテナに向けて一瞥し、

 されど構わず駆けていく。

 駆ける先には、腰を抜かす少年。


「危ない!」


 ジンの巨岩のような肉体が少年をかばって包み、


「馬鹿、道を開けなさい!」


 駆ける馬の巨体とジンの肉体を見てセナは間に割り込んだ。

 いつもの楽器を爪弾くような手際で弓を構えて矢をつがえ、風に乗せるように放つ。


 放たれた矢を避けて馬は斜め前方に跳ねて走路を変えた。

 よし、とセナは拳を握る。

 減速しないまま走り抜ける馬は、

 すれ違いざまに足をセナに向けて蹴りを繰り出した。


「な――ッ!?」


 鮮やかな蹴撃がセナの細身を撥ね飛ばした。

 抜け目なく反撃した馬は、カテナを置いて駆け去っていく。


「セナ、大丈夫か」


 榊は倒れるセナに駆け寄って、セナの状態を見る。

 蹴り飛ばされた腹は赤黒く染まっていく。顔をしかめ、筋肉神官ジンを振り向いた。


「神官。治癒の奇跡は使えるか」

「いや……術のたぐいはからっきしだ。俺は神殿に所属してるだけで、信徒じゃない。あんたこそ使えないのか?」

「私は──」


 榊は環を振り返る。環は泣きそうな顔でうつむいた。

 環は癒しの祝福を授けられない。


「どいて。得意じゃないって言うセナよりも弱いけど、私も治癒を授けられる」


 カテナが榊を押しのけた。ヘルムを脱ぎ捨てて金髪碧眼の美貌を顕にし、拳を胸に当てて祈りを捧げる。


「主よ、我らが天神よ。あまねく(ひと)しき御見計らいに今ひとたび機会をお与えください」


 祈りを捧げたカテナの手から癒やしの奇跡が授けられる。

 苦痛にうめくセナの表情は和らいでいくが、腹部の傷が消えるほどではない。

 ジンが低くつぶやく。


「天神……天候、転じて機会と平等の神だ。"死ぬときは死ぬ"のが信条なら、治癒が弱いのも道理だな」


 寂しげにカテナの治癒を見つめる環がポツリと返した。


「そんな神でも治癒は使えるのじゃな」

「そりゃあ、助かりたい、生きていたいってのは誰もが抱く願いだからな」

「確かに──そうじゃろうな」


 ジンは環と榊を見て、何も言わずにセナを見た。

 セナは苦痛に苛まれつつも薄目を開く。意識はある。命に別状はないようだった。


 好きなやつ!


 魔法など強力な技術が使えないから代わりに小手先を身につけるやーつ。

 その手のハイブリッドウルトラ器用貧乏が主人公の小説も結構多いですよね。すこです。

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