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榊、動乱の終結を迎える

「市民がもっとも望んでいた選択肢を提示するだけだ」


 作戦決行前、榊は一同に語っていた。


「彼らがほしいのは勝利でも政権でもない。"納得"だ。自分たちの力でより良い形に変えたんだという自負だ。非を認め、謝罪し、改めたいと懇願するのは彼らにとって勝利と呼べる。――それに、な」


 モモカを交えた作戦会議でのことだ。

 榊は勝算を問われ、迷いなく口にした。


「おそらく誰も、現領主を超えて『うまく』街を運営する自信なんかないだろう。譲歩して続けてくれるのが一番望ましかったはずだ」


 だからこそ――ブラッディリンクスは領主の首を狙ったのだ。

 現領主の後釜には、(ミヤビ)かスズかあるいは豪鬼か……ハッタリのうまい詐欺師しか座りたがらないから。




 戦場で神々の激突が終わる。

 榊は無音となった戦場を振り返った。

 二柱の姿は榊の目でも捉えられる。どちらも立ち止まっていた。

 環から充分に間合いをとった雅が、笑う。


「榊。おんしは本当に、うい奴よの。よもや力を奪われてなお信仰のまま動くとは。ますます、おんしが欲しくなったわ……」

「やらぬ!」

「クク。子狐には勿体無い男じゃて」

「なんじゃと!?」


 鼻息を荒くする環をせせら笑って、雅は蜃気楼のように姿を霞ませた。

 輪郭が薄れ、姿が消えていく。


「のぅ、榊や。妾が欲しくなったらいつでも呼べ。隣を温めてやるからの……」

「二度と来んなー!」


 環はフーフーと鼻息を荒くする。

 雅の姿が消えると同時に。

 榊の腕から炎が燃えた。環より(たまわ)神威(かむい)の炎だ。

 環は、四肢を燃やす榊を振り返って笑う。


「……終わったかの?」

「そのようです」


 空の暗雲は晴れて、日が差している。




 館に戻り、領主は大老や榊たち一同に頭を下げた。


「この度は迷惑をかけました。不徳の致すところです」

「全くだ。いくら外交ちゅうても限度があンだろ」

「申し訳ない。報告を任せた部下が敵のスパイだったため、いいように使われてしまいました。見る目を養わねばなりませんね……」


 スズのことだろう。領主は目と耳を奪われて歩いていたわけだ。


「これからは市民とよりパイプを太くして、異変に気づける体制を作ります」


 領主の腰にしがみついているモモカが笑顔を上げた。


「お父様。あたしやっぱり旅立つのやめるわ。街に残ってお父様を手伝う。お父様を放っておけないもの!」

「む……」

「あたしが守るわ!」


 満面の笑顔で言われては領主も立つ瀬がない。

 誤魔化すように冒険者へと視線を振った。


「あなた方にも苦労をかけた。なんとお礼をしたらよいか」


 カテナは鎧の歪みを点検しながら素っ気なく言う。


「報酬をくれれば文句ない」

「もちろん! 充分な額を用意させてもらうとも」


 大きくうなずいた領主は、


「榊殿たちはこのあと聖都に向かわれるのだったな。馬車に食糧、野営道具、他に入り用なものがあれば用意させよう」

「充分です。あまり荷物が増えてもいけませんから」


 榊は応じる。そしてふと仲間を振り返った。


「セナは聖都まで案内してくれる話だが……フランとカテナはこのあとどうするんだ?」

「我はもうしばらく付き合うぞ」フランは気軽に請け負う。「お前を鍛えると約束したからな」

「あたしはどこでもいいんだけど……カラマンダって国に戦争の動きがあるなら、その近くを回っていく。だから、いい仕事があるまでは同行するわ」


 傭兵らしい無頼(ぶらい)な理由で同行を表明する。

 領主は深くうなずいてゆったりと口を開いた。


「くれぐれも気をつけられよ。カテナ殿も言っていたが、この先にある国はすべてカラマンダと領地を接している」


 つまり、いつどこで戦争が始まっても不思議ではない。


「肝に銘じます」

「それと……宗教建築の様式と神徳が決まったら知らせてほしい。すぐ建てさせよう」


 領主は榊と環を見て付け加える。

 環の神殿を建てるという口約束を守ってくれるらしい。

 榊は感謝の念を込めてお辞儀をした。

 そんな二人の前に、モモカが駆け寄る。


「榊様、環様。祈り方を教えて」


 む? と環は驚いて、そして笑顔をほころばせる。


「なんでもよい。心がこもっていれば」

「強いて言うなら二礼二拍手一礼だろう。環様が(けい)する稲荷神への祈り方だ」


 二礼二拍手をして祈りを捧げ、最後に一礼して下がる。神道で拝殿を参るときにメジャーな祈りの作法だ。

 説明を受けてモモカは笑顔を弾けさせる。


「わかったわ!」


 モモカは二度お辞儀をして、手を二回打つ。黙祷を捧げ、礼をした。


「……こう?」

「うむ。届いたぞ」


 環はにっこり笑って胸に手を当てる。

 胸元に下げた稲荷神のお守り――集まった信仰の量を示す木札を。

 モモカは嬉しそうにはにかんで領主の影に隠れた。

 鷹揚にうなずいた領主は改めて全員を見渡す。


「なにかあれば、すぐに頼ってくれ。力になると約束しよう――それだけの恩が諸君にある」

「ありがたく受け取っておくわ。さて……じゃ、お暇するわよ。出立にも準備がいるからね!」


 そして、あくる日の夜明け前――


 榊たちは次なる旅路へ旅立った。

 好きなもの!


 騒動を終えて総括し、次に進む支度をするところ。

 または別れの挨拶を済ませるところ。


 別れとは、新しい出会いの準備です。とてもワクワクしますね。

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