榊、協力者を募る
「これからどうする?」
フランがため息混じりにそう尋ねる。
榊たちは冒険者ギルドを脱出して再び城下町の入り組んだ路地に逃げ込んでいた。
息を切らすモモカの背中を撫でながら、セナは悔しげに唇をかむ。
「冒険者ギルドが取り込まれてるなんて思わなかった……けど、考えてみれば当然よね。行政組織にきっちり配下を忍ばせておいて、冒険者は手つかずなんて片手落ちだわ」
「あたしたちじゃ正面から殴り合うしかできないし……もう、そうする?」
カテナまでもが榊のような短絡を口にする。
しかし即座の否定は起こらない。他に打つ手があるわけではなく、手をこまねいてみている間にも決壊のときは近づいていく。
セナは苦々しく額に手を当てた。
「対抗しようにも私たちだけじゃあ……」
「なら、力になれましょうかな」
投げかけられる声。
身構えるセナたちを手で制したのは榊だ。
路地の角から、両手を上げてゆっくりと現れたのは、燕尾服に白ひげの老紳士だった。
「セバスチャン!!」
モモカが歓声をあげて彼に飛び込んでいく。モモカを抱きとめたセバスチャンは顔を上げて榊に微笑んだ。
「またお会いできましたな」
「こんな場所とは思いませんでしたが」
榊の正直な吐露にセバスチャンは目元のシワを深くする。
セバスチャンの腰に抱きついたままのモモカは顔を上上げた。
「セバスチャン! お父さまは無事!? 二人で逃げてきたの?」
「いいえ、モモカお嬢様。領主様は館に残られておられます。非常時に持ち場を離れるわけにはいかないと仰って。私めだけが館を脱し協力者を求める手はずなのです」
「そう……でも、無事なら良かったわ! セバスチャンも!」
ありがとうございます、と慇懃にお辞儀するセバスチャンへフランが声をかける。
「包囲された館を脱したということは、例によって秘密経路でもあるのか?」
「ええ。しかしながら情報が漏れていたようで……脱出口の近くを市民がうろついておりました。正確な場所までは分かっていなかったようで、なんとか目を盗んで逃げることができましたが」
「おいおい」フランは呆れた顔で額を押さえる「機密までもが筒抜けなのか? 事態は深刻だな……」
「助けを求めようにも、まさか中立を旨とする冒険者ギルドまでもが掌握されているとは……。皆さんが壁をぶち壊して逃げるところに行き合わねば、むざむざ敵に囚われに行くところでした。感謝いたします」
どうやらあの場にいたらしいセバスチャンも、セナ同様に冒険者を頼っていた。
打てる手はあらかた潰されている、ということだ。
それでも榊はうなずく。
「とりあえず、これで大人数とやり合わずに館に入る経路は手に入った。セバスチャンさん、他に協力者の心当たりはありますか?」
「おそらく、ということになりますが……市民を取りまとめる役を担っている知り合いがおります。街を愛する彼が、昨日今日現れた煽動家に乗せられるとは思えませんな」
「では行きましょう。時間はあまりありません」
セバスチャンが案内したのは、地下に設けられた酒蔵だ。
アルコールと樽の醸す木の匂いが充満した空間を、樽の隙間から漏れるランプの明かりを頼りに進む。
「もしものときはこの奥でコンタクトを取れるように、と申し合わせておりました。ただ、この状況でメッセージを残しているかどうか……」
言葉を切ったのは、酒蔵の奥に設けられた会議室のような空間に出たからだ。
四方に大きいテーブルにランプが乗っている。対面に肘をついて待ち構える白髪の塊がもぞりと動いた。眼光が覗く。
「儂らの郷里愛を見くびられたものだ」
環はビクリと耳を揺らした。
子どものような低身長だが、手足は筋肉質が行きすぎて小樽のように丸い。でっぷり丸く出た腹は酒太りで固まっている。顔が見えないほどに蓄えた白髪と白眉と白ひげだ。
セバスチャンがほっと力を抜いた声をかける。
「大老。ご無事でしたか」
「傷つけられる理由はねェなァ」
枯れた大樹が震えるような低い声で大老は笑う。
小首を傾げた環は口を開いた。
「人間ではないのか?」
「おぅよ、お嬢ちゃん。ドワーフを見るのは初めか?」
ドワーフ。エルフと並びファンタジーに持てはやされる類縁種族。
これほどヒゲをはやしているのはドワーフだからか、と榊はうなずいた。
セバスチャンは表情を緩めて両手を広げる。
「あなたがいたなら幸いだ。大老。ご存知の通り街の危機です、ご助力を願いたい」
「なにか勘違いしてねェか」
長老はせせら笑う。
「街の危機なんかじゃねェ。お前らの危機だろうが」
好きなもの!
頑固一徹でがらっぱちな親父!
ドワーフでなくてもいいのですが、キャラのテンプレ的にドワーフのオヤジには近いイメージがありますね。
めちゃ好きっす。




