榊、策謀に抗う
「要するにクーデターだ」
スズは首を限界まで真横にひねりながら語った。
メガネをかけた榊から顔を背けるあまり、苦しそうな声になっている。
「領主に対する不信感を根付かせて、しかし限界まで燃え上がるよりも早く我々が反体制派を組織し、クーデターを主導する。すると自然に、革命新政府でどうしても声を上げたい夢想家を排除したまま我々が政権を握れる」
「つまり、国盗りか。山賊の街などゾッとしないな」
渋い顔をするフランに、スズは不敵に笑う。
「我々の街だ。そこらの山賊と一緒にされては困る」
「そうだろうな」
榊はうなずく。
「あの女神だけではない。分析官に扮することができるほどの者が噛んでいるんだ。街を搾取するのではなく、肥やして運営することもできそうだ」
「ハッ。貴様に褒められても嬉しくはないな」
勝ち気な態度にイラッとしたセナが、スズの顎をつかむ。
「もう一回、見つめ合いながら褒められてみなさいホラホラホラ」
「やっやめろ! やめてくれ!! 謝るから離せぇっ!!」
本気で抵抗するスズからセナを引き剥がし、モモカは眉毛をつりあげる。
「嫌がってるじゃない、やめてあげなさいよ」
「あんた急に良い子になるのムカつくわね」
「わたくしは今日からお父様と榊様に褒められる良い子になるの!!」
ムカつくわぁ……と半眼のセナをよそに、モモカは口を尖らせる。
「でも街を乗っ取って自分のものにしちゃおうなんて許せないわ! この街はお父様あっての街なのよ!」
「貴様に許しを乞うつもりは端からない。貴様の父の街だったのは今日までの話だ。私の並べ立てた事実にまんまと乗ったうかつさを恨め」
「むきぃー!」
モモカは憤懣やるかたないようすで地団駄を踏み鳴らす。
その傍らでカテナが音もなくスズに歩み寄った。するりと首筋に一打を当てる。
ぐったりと力の抜けるスズ。目を剥くセナに対し、カテナは涼しい顔で言う。
「このまま達者な口でかき回されても迷惑だから」
「……そうかもね。ほらモモカ、暴れる元気があるなら建設的なことをするわよ」
じゃじゃ馬をあやしながら、ふいにセナは表情を険しくした。
「状況はのっぴきならないわ。館の前に暴徒が集まってる」
「なんですって!」
モモカはびっくり仰天して怒りも忘れ、セナを振り仰ぐ。セナは耳に隈取のような光が浮き上がっている。神なる加護の表れだ。
「助けに行かなきゃ!」
「うーん……まだやめといたほうがいいと思うわよ」
「なんで!?」
これにはフランが応じた。フルプレートアーマーの肩をすくませる。
「門前は敵の術中の最前線だからな」
「クーデターで現政府の崩壊を狙っているなら、中途半端な介入は扇動の手助けに使われるのよ」
「しかし」榊はメガネをしまって、おもむろにスズの身体を肩に担ぐ。「見過ごすわけにもいかないだろう」
榊は決然と足を踏み出した。
フランとセナは顔を見合わせる。
環とモモカが続いていったのを見て、苦笑を浮かべた。
「ま、それもそうね。見捨てて行く選択肢はなかったわ」
「まったく。守るものが増えると動きが鈍って困るな。……行くか」
二人はうなずき合って走り出す。
先を行ったはずの榊は、曲がり角に差し掛かって立ち止まっている。
彼には珍しい困惑顔で振り返った。
「ここはどこだ?」
セナはギッと眉を釣り上げた。
「あんたが連れてきたんでしょうが!!」
好きなもの!
目当てのもの以外何も見えてない前のめりな姿勢!
比較的最近に話題になっているものでいえば、蝸牛くもさんの『ゴブリンスレイヤー』(GA文庫)でしょうか。ゴブリンスレイヤーさんは、ゴブリン以外の魔物の名前がぜんぶうろ覚えです。
アニメ化するようですよ! アニメ化して大丈夫なのか……?




