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90 婚約とその後





「お前の言いたいことはわかっている。アリエス嬢との婚約を許そう」


驚く表情を浮かべたユージンとアリエスにセドリックは続けた。


「そもそも私がウォータ家との縁を結ばなかった理由は公爵家後継者であるお前の負担になると思ってのことだ。

経済面や社交界でも名を馳せた今のウォータ家ならば断る理由もない。それに……」


セドリックはそこまでいうとアリエスへと視線をずらす。

アリエスはハッと我に返り慌てて頭を下ろそうとしたが、セドリックに「よい」と止められた。


「私は受けた恩には報いたい。有害な毒素の排出を促す薬の材料を提供しただけでなく、その身を汚すことを厭わず介抱してくれたこと、私は覚えているんだ。

勿論ユージンの婚約者として認めるというのは別だ。そんなもの恩返しにはならない。

私、デクロン公爵家当主セドリックは今後、アリエス嬢並びにウォータ家を全面的に支持させてもらうことを誓おう」


セドリックの言葉にアリエスだけでなく、シリウスまでもが驚愕する。

アリエスとユージンが婚約を結ぶことで公爵家との繋がりから広がる人脈を期待していた部分もあったが、全面的に協力すると現当主であるセドリックの口から伝えられたのだ。

透明度の高い品質の良い宝石だけではなく、農業の面も……とシリウスは目を輝かせた。


そして「ありがとう」と感謝を告げたセドリックに、アリエスとシリウスは揃って頭を下げ「申し訳なかった」と謝罪の言葉を口にしたセドリックをユージンは苦笑しながらも受け入れた。


こうしてやっとデクロン公爵家から害悪となる存在を追い出すことが出来た。








「…じゃあ、イマラさんはユンのお母さんを殺害した被告人として裁判を受けてるんだ」


「そうだよ。流石にジョニー・マントゥールを犯人として突き出すには証拠が足りないからね。裁判であの女に嘘の証言してもらい、ジョニー・マントゥールを真犯人として召喚した後、有罪判決を受けてもらう」


寮ではなく公爵家から登校することになったユージンはアリエスを迎えに行き、馬車の中で計画を話した。

ユージンの話通りジョニー・マントゥールを告発するには現状では難しかった。

実際の作業員もこの世におらず、実際の作業計画書も業者の書類であってジョニー・マントゥールが指示した明確な文言は記されていない。

だが一夜を過ごしたイマラに“酔ったジョニー”が“つい真実を漏らした”のであれば、話が違う。

公爵家へと仕掛けたイマラの行いも、ジョニーを“愛するあまり”従わざるを得なかった行動だったと訴えれば、立場の低いイマラならば反論することもできないし利用しやすかったと、それが真実だと訴えることができる。

例え証拠が足りなくとも、判決を下す国王の心証を味方にしてしまえば全て上手くいくだろうと考えたのだ。


牢へと閉じこられている間、喉を潰し、涙を枯らしたイマラは疲れ果てていた。

牢から出すという甘い誘惑でイマラを懐柔したセドリックらは、こうしてアリエスとユージンが学園へ登校している合間にも、ジョニーを追い詰めていることだろう。

もしくは追い詰めるために着実に下準備をしている筈だ。


ユージンはクスクスと笑うと、じっと見つめるアリエスの視線に気づく。


「……あ、これは…」


「大丈夫、わかってる。それに私、聖人君子のような心が広い人じゃないんだよ?ユンやナルシス君、それにユンのお父様とお母様を苦しめた人達を許せない。

でも、ユンの話を聞くとイマラさんは無罪ってことになるけどいいの?」


アリエスは不安そうにユージンを見つめると、ユージンはクスリと笑って頷いた。


「大丈夫。公爵家から追い出したあと、あの女を受け入れてくれる家なんてないから」


「え、でも実家なら…」


「公爵家からの圧力がかかることがわかりきってるのに受け入れるわけがないでしょ?

それに社交界だってしてなかったわけだから人脈もないし」


「それじゃあイマラさんは…」


寄付金がなければ修道院にも入れない。と続けようとしたアリエスは口を閉ざした。

これ以上イマラの話題なんてしたくないといったユージンの気持ちに気づいたからだ。


「……ま、いっか」


「そうそう、あとは父上たちに任せているからね。僕は」




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