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82 断罪


「……何故、このような状況になっているか、わかるか」


怒りが孕んだかのような低い重低音がイマラの耳に響く。

以前は主でもあったセドリックにイマラは伏せた顔が上がらなかった。

なにも答えず小さく震えるイマラにセドリックは「質問を変えよう」と告げる。


「お前が産んだ子と私とで血縁鑑定を行った。その結果赤の他人、つまり血縁関係がないことが分かった。これに対してお前の知っていることを話せ」


淡々と話すセドリックの言葉に、イマラだけではなく他の使用人にも戸惑いの色が見えた。

それも当然だ。

ユージンはイマラに知られないよう水面下でひっそりと調査を進めていたのだ。

知っているのはユージンと祖父母、そしてセドリックの他に、実際に調査を依頼するように指示をだした執事と、情報を持ってきたユージンの従者たちだけである。


その為、今までセドリックの子息だと思い世話をしてきた使用人は戸惑いの色を見せたが、すぐに意識を切り替える。

ナルシスと似ても似つかないイマラ。

六年という長い間素直で愛らしくて他人を気遣う優しさを持つナルシスに仕え、ずっとお世話をしてきた自分たちにとってナルシスは自慢の主だ。

養子として子を引き取れば血の繋がらない家族が出来上がるな。

今更血が繋がっていないことがわかったとしても、イマラと結婚したセドリックの息子だということは確実で、離縁したあとだってセドリックがナルシスを追放しなければ、これから先も自分たちの主であることは変わらない。

使用人たちはそのように考えた。


セドリックの言葉に思ったよりも混乱の波が小さかったことにユージンは安堵する。

今この場にナルシスはいないが、それでもこれから先ナルシスを世話する使用人たちが、血縁関係について知らないのは後々面倒しかなかったからだ。

どうせなら、尾ひれはひれもつかない状態で真実を知ってもらい、その上でナルシスに仕えてもらいたいと考えていたため、すぐに我に返り頼もしい表情をする使用人たちの姿を見て自然と口角があがった。


「話せないのか…」


何も答えずただ震えるだけのイマラにセドリックはもう一度問いかけた。

イマラは泣きそうな顔をあげると、セドリックを見つめる。

そして今まで自分が何をしてきたのか、たった今、本当の意味で理解したかのように顔を青ざめさせた。


「……詐欺罪でも高位貴族の乗っ取りともとれる行為は十分に大罪だぞ」


「違います!!!!」


セドリックの言葉にイマラは叫ぶ。

声を荒げるつもりなんてなかったのだろう。

イマラは我に返り、ハッとした表情を浮かべた後俯いた。


「違う?ならなんだというんだ。他の男と体を重ね、私に襲われたと嘘を付き、子を孕んだと男と口裏を合わせ公爵夫人となったお前が!!

私だけでなくユージンをも狙ったこと、もはや知らないなどといわせないぞ!!」


ユージンは言い終えた後咳込んだセドリックの背中を優しく撫でた。

イマラはぶるぶると体を震わせると、冷たい大理石の床についた指先に力を込める。

セドリックからイマラへと視線を移したユージンは、イマラの真っ白になる指先をじっと見つめた。


「私が一度、ユージンを殺そうとしたお前を追及しなかったのは、十分な証拠がなかったからだ。デクロン公爵家には敵が多い。新しい者を迎え入れた時には隙が生まれやすく、その隙を付いて仕掛ける輩もいるんだ。

だからお前がユージンを殺そうと暗殺者を仕向けたという証拠が足りなかった。ユージンが暗殺者の手から逃れ、私に助けを求めた時には既に暗殺者の姿は消えていたからな」


ユージンはセドリックの話を聞いて、自分が誤解をしていた事に気付いた時の感情を思い出す。

父上は自分を見捨てたわけではなかったのだと、祖父母がしていた話の通り、幼かった自分のことを考え、イマラから逃がしたのだと知ったときの気持ちを。

それでも幼かった頃アリエスとの手紙のやり取りに、手を加えた人物がセドリックであった事実は変わらないため、複雑な思いを抱いた。

だがそれでもセドリックは自分のことを守ろうとしてくれた。

ユージンは怒りを見せる父親の後ろ姿を、口を挟むことなく見つめた後、目を閉じる。





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