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80 見つけた物3





「……そっか、ごめんね。私そうとも知らず…」


「ううん。言ったことないからね。僕もごめんね、心が狭いんだ」


「私にとっては嬉しいわ。だってユンに想われてるって感じるもの」


ユージンはアリエスの言葉が想定外だったのか驚いたように目を見開くと、頬を赤く染め手で顔を隠すような仕草を取った。


アリエスは眉尻が下がり、指の隙間から見える口をきゅっと閉じた赤い顔のユージンを見て、まるで照れているようだと思った。

そしてとても珍しい表情にぎゅんと心臓を鷲掴みにされる。

目を逸らせない……いや、逸らしたら勿体ないユージンを心のアルバムに保存するかのようにじっと見つめていると、ユージンはコホンと咳ばらいを一つし話を戻した。


「えっと……どこまで話したかな…」


そういいながらユージンはちらりとアリエスを見る。

じっとユージンを見つめているアリエスは楽しそうでもあり嬉しそうだ。

ユージンは思ってもいなかったアリエスの言葉に照れてしまった自覚はあったが、自分をじっと見つめるアリエスに表情を隠そうとすることをやめた。

アリエスが自分の顔を好きだと知っていたのもあるが、嬉しそうにしているアリエスの邪魔をしたくないと思う気持ちが強くあったからだ。

これが惚れた弱みだなとユージンは心の中で呟きつつ、アリエスの心の広さにまた惚れ直したと思っていた。


「ピンク女が現れると、殺人犯に詰め寄ったらしい。それはもう物凄い剣幕でね。“一体どうなっているの。あの二人の婚約を邪魔出来たんでしょ。なんでまだいちゃついているのよ”ってね」


アリエスはいつも通りの表情に戻ったユージンを少しだけ寂しく思いつつ、でもいいものを見たと胸を高鳴らせながら聞いていた。

そしてアリスのことをピンク女と呼ぶのなら、イマラのことは女でいいのにと思うが口は挟まない。

どうせ二人がいる空き部屋には誰もいないからだ。

イマラが邸内にいるかまではわからないが、それでもユージンが堂々と話をするなら気にしなくてもいいということだ。

だから呼び方もアリエスは気にしないことにする。


「付けていた監視役も流石に止めたらしいけど、なぜか直ぐ怒りが収まったように落ち着いたらしくてね。

その後も問題を起こすことなく帰宅したらしいが………、もし監視の目を欺き、この二人が手を組んだとすると、アリスが見つけたその手紙は殺人犯の代わりにピンク女が書いた手紙、と考えても不思議じゃない」


アリエスはユージンの推論を聞いて、確かに二人になんらかのやり取りが出来ればそれも可能だと考えた。

そもそもアリエスとユージンの婚約についても、アリスがイマラに話をし、仕事以外のことはほとんどイマラに任せてしまったセドリックがいたからこそ取り下げることとなったのだ。

それでもユージンに新しい婚約者をあてがうことがなかったのは、父親としての子を思う気持ちが残っていたのだろう。

イマラに全てを任せていたのなら、今頃ユージンにはアリエス以外の令嬢との婚約が進められているはずだ。


「……でも、監視役の前で話せるものかしら?合図は送れたとしても言葉を交わすなんてこと……難しいんじゃない?」


「言葉を交わすのはなにも口だけとは限らないよ」


「え?」


ユージンはアリエスから受け取った小さなメモ用紙を取り出すと微笑む。


「アリスが見つけてくれた手紙のように、文字で意思疎通をすればいいんだ。わかる言葉なら短くてもいい。実際に殺人犯は店を出る前に化粧室を借りたらしいからね。そこで書置きでもしていれば十分可能だ」


「護衛は体格のいい男性だったからね」と続けたユージンにアリエスは「流石に化粧室にまでついていけないね」と苦笑する。


「でも焦っていたんだろうね。殺人犯の代わりに助けを求める手紙を任されたとしても、暗号化や次に落ち合う日程について、詳細が全く伝えられていない。

だからこんなわかりやすい手紙が残り、結局共犯者の手に渡る前に見つかってしまった」


つまり、整理すると休日最後の日曜日。

本来であれば日曜日の午前中にイマラと助力者は連絡を取り合うつもりで、ユージンに色々と悪事がバレているイマラはそこで助けを乞うはずだった。

だが情報を仕入れていたユージンによりその計画は阻止され、約束の時間が過ぎてしまったが、それでも諦められなかったイマラは店へと向かう。

既にユージンの従者であるデインに助力者の手紙は回収され、イマラは助力者の情報が手に入らずに終えるところにアリスがやってきた。

書置きを残そうにも護衛兼監視の目があっては残すこともできないイマラには救世主のようなアリスに代筆を任せる。


「…だけどそのアリス様が書いた手紙も、私に見つかり回収されてしまった。というわけね」


認識が違わないよう再度確認したアリエスにユージンは頷いた。


「その通りだよ。正直ピンク女への処分には手ぬるいところがあると思っていたから、殺人犯の共犯者として突き出すことができることは僕としては嬉しいかな」


「……え?」


「あれ、色々と罪を重ねている殺人犯と手を組んでいたとしたら十分罪を問えるのだけど、もしかしてアリスは嫌だった…?」


ユージンは思ってもいなかったかのような表情を浮かべたアリエスに近寄り膝をつくと、膝の上にのせられたアリエスの手に重ねる。

絶対に狙ってのことだろうが、上目遣いにアリエスを見上げたユージンにアリエスは再び心臓をギュンとさせられた。


でもほだされたわけではない。


アリエスは確かにカリウスとの婚約破棄事件の際、アリスを許したが、“今後迷惑をかけない”ことを前提で許したのだ。

ユージンとの婚約を邪魔するだけではなく、ユージンかもしくはセドリックの命を狙っているイマラと手を組むアリスにはちゃんと反省してもらいたい。

アリスが手を組んだ相手が何を思い、何を企んでいるのか、そしてアリスは今何をやらされているのか、もし把握していないまま協力しているのなら、きちんと理解したうえで罪を自覚し償ってもらいたいと考えた。


「そうね。罪を犯したのならちゃんと償わないと」


頬を赤く染めながらアリエスは言った。

そしてユージンも口角をあげ嬉しそうに微笑む。


「…アリス、あともう少しだから」


ユージンはアリエスの手に重ねている自分の手の甲に額をつけた。

そして小さく呟くと、アリエスも「うん」と答える。



肌寒い夜。

だけど窓から見える夜空には無数に輝く星が広がり、二人は綺麗な星空を眺めていた。







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