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79 見つけた物2








「ユン、知ってたの…?自分が狙われていること……」


アリエスはユージンに信じられないという表情で尋ねた。

ユージンは頷き話し始める。


「実は少し前にマントゥール侯爵家とあの女がやりとりしている可能性を入手したんだ。次にやりとりをすると思われた日は昨日……といってももう日が変わってるから一昨日かな」


ユージンは暗い夜空を見上げると訂正する。

時計を見て確認したわけではないため、おそらく、がつくだろうがアリエスには休日最終日の日曜日だということがわかった。

つまりユージンが訪ねてきた日である。


「当日の時間帯、僕はあの女の外出を許可しなかったんだ。そして僕の従者、デインに店を見張らさせていた。本当にマントゥール侯爵家の誰かがやってくるのか、僕たちが集めた情報が正しいか、他になにを企んでいるのかを確認するためにね」


「……それで結果は?」


「思ったとおりやってきたよ。ただ思っていた人物は現れなかったけどね。でも当たり前だよね。本人がやってくるわけがないから」


ユージンの言葉にアリエスはその誰かは使用人を利用したのだと悟る。


「デインはその人物が店内に隠したメモを回収し、僕のもとへと持ってきた。“すでに準備は整えてある。決行の日を指定しろ”っていう言葉が書かれてあるんだと思う手紙をね」


「…ちょっと待って、“思う”ってなに?そう書いてあるんじゃないの?」


「流石に犯罪の内容を馬鹿正直に書いてあるわけがないからね、ちゃんと暗号化されていたよ。共犯者とだけの暗号なら解くのも時間がかかるけど、女の方は暗号化に慣れていないようだから、女の世話係のメイドに聞いて身近に置き、絶対に手放さない本があるとわかったから、すぐに暗号の解き方はわかったけど、この手紙一枚だけだから暗号の解き方が合っているか自信がないからそう言ったんだ」


納得しかけたアリエスはすぐにハッとした表情を浮かべた。

解読に必要な本を持っていないと解読できない暗号に変えられていたということは、普通に読むことができるアリエスが見つけた手紙は今回の件には全く関係がないということになるからだ。


「……私が見つけた手紙は暗号化されていなかったわ!これは義母が書いたのものではないってことよね?」


「どうしよう、返してこようかしら…でも、文面はいいものではないわ……でも返すことで困る人が…」と口にし、オロオロするアリエスにユージンはくすりと笑う。


「大丈夫だから、落ち着いて。アリスが見つけた手紙も大事な証拠だと僕は考えているよ」


「…どういうこと?」


首をかしげるアリエスにユージンは「話が長くなるね」といい、少し部屋を出るとどこかからか椅子を運んできた。

アリエスを座らせるとユージンは大きな窓に寄りかかり続きを話すから、座らず立つユージンに悪い気がしながらも話を聞いた。


「あの女はね、狂ったように騒ぎ始めた。僕がアリスの家から戻った後もうるさくてうるさくてしょうがなかったくらいに。だからね、許可を出したんだ。外出の許可をね」


「えっ!」


「許可が出た瞬間すぐに店に向かったらしいけど、手紙はデインが回収している。見つかるはずもない手紙をずっと探していたらしいよ。

だけどその時、ある女性が現れたらしい。アリスも知ってるピンク髪のあの女だ」


アリエスは驚いた。

婚約取り下げの裏にアリスが関わっている可能性は聞いていたが、まさかここに出てくるとは思わなかったからだ。


「女は………っと、同じ呼び方だとわかりづらいね。ピンク女と殺人犯、とでも言い表そうか」


冗談なのか本気なのか、にこやかな笑みを浮かべて告げたユージンにアリエスは苦笑する。

確かに呼び方に違いを持たせた方が話を聞く側としてはありがたいが、それでも“殺人犯”はどうなのかと思う。

だけど過去に殺されそうになったユージンのこと、そして体に有害な物質を長期間摂取させられたセドリックのことを考えれば、アリエスは指摘する言葉をもいえなかった。


「…そういえばユンってアリス様や義母のことをいつも“女”って言うわよね。どうして?」


「どうしてって…呼びたくないからだよ」


「呼びたくない?」


当然のように話すユージンにアリエスは首を傾げた。


「いい思い出なんてないからね。だから僕はあの人を母として認めない。義母や継母なんて言葉も使いたくないんだ。

ピンク女も結果としては僕に都合がいい展開にはなったけど、アリスが傷つけられた。アリスだけじゃない。君の友人も傷つけられ悲しんだだろう?

だから僕はそんな人間の固有名詞は口にしたくない」


その言葉を聞いてアリエスは思った。

ユージンはなんとも思っていないような表情を浮かべているが、心の中ではとても怒っているのだと。

そしてその怒りがアリエスは嬉しかった。

好きな人が自分の心の痛みを理解しようとし、そして怒ってくれているのだから、アリエスは嬉しく感じる。




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