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78 回復と見つけた物


※作者は何度も言いますが医療など詳しくありません。不適切な表現かもしれませんがご容赦願います。



あれからアリエスは制服が汚れることも躊躇わず、セドリックに塩と砂糖を混ぜ合わせた水を無理やり飲ませては吐き出させるという行為を繰り替えした。

薬の効果が強く、水を口に含んだだけで吐き出すセドリックに、アリエスは少しでも多くの水分を取り込んでもらえるように水を飲ませる。

例え一般的に無理に飲ませないほうがいいと言われてもだ。


そしてアリエスがデクロン家にやってきて数時間が経った。

空が暗くなり、上着が必要なほど気温が下がった頃、やっと喉仏を上下に動かしながら水を飲めるようになったのだ。

吐き気も収まり、数分置きにはしていた排泄行為も今は随分頻度が少なくなってきたように思える。


なによりもセドリックの顔色に随分血の気が戻ってきたように見えたことが、アリエスやユージン、セドリックを支え、そして汚物等の処分にあたっていた使用人や騎士たちには嬉しい変化だった。


青ざめていた顔色は血流が増えたのか血色がよく見える。

栄養の摂取は出来ていないため、こけた頬はそのままだが、それでも呆然としていた目には光が宿っていた。

トラエルに奪われていた思考能力も戻りつつあるのか、セドリックはきょろきょろと視線だけを彷徨わせた。

どうやら頭全体で見渡す余力はまだ沸き起こっていないらしい。

それでもユージンが知るだけでもここ二週間は見られることがなかった仕草に、やっと回復してきたのだと実感できる。


「…ここは…、私は、なにを…ユー、ジンか…?」


セドリックは記憶がないのか、何故自分が浴室にいるのか、何故使用人に囲まれているのか、そしてユージンの姿を見て困惑していた。


「ええ。私です、父上」


ユージンはそう言って泣きそうな表情で笑みを浮かべるとすぐに表情を引き締めた。


「状況をお伝えする前に、まず父上には体内の毒を全て出していただいた後、医師の診断を受けていただきます」


「毒 ?」と不思議そうに呟くセドリックだったが、思い当たることがあったのか素直に受け入れた。

まだまだ自身の力では体を支えることは難しいが、それでも意識が戻ったことから浴室から場所を移し、治療に専念する。

さすがにこの頃には医師の意識も戻り、大きなたんこぶを頭の後頭部に乗せた医師がセドリックに付きっきりで看病に当たっていた。







張り付くようにそばに控えていなくても問題ないだろうと判断したユージンはセドリックを医師に任せ、使用していない空き部屋へと場所を移動するとアリエスに話を伺う。


アリエスがデクロン家にいることもそうだが、ユージンの姿を見たとき心から安堵した、その理由を尋ねたのだ。


「これ、玩具屋さんで見つけたの」


アリエスはユージンに見つけた小さな紙を差し出した。

セドリックの介抱もあり、見つけた時よりも汚れ、そしてくしゃくしゃになった状態ではあったが、それでも何が書かれているのか判別するには問題なかった。


「“バレている。早く来て。やるなら今。もう失敗は許されない。Iより”……か」


「ええ、最初は何がバレているのかよくわからなかったけど、……イマラさんよね。義母の名前。

最後に書かれたイニシャルを見て、もしかしてユンの義母が書いた内容じゃないかと思ったの。

バレているは、ユンに自分がやったことを調べられたから。早く来ては誰かに助けを求めている。次にやるなら今はユンか、もしくは公爵様に対する最後のあがき。

そして最後にもう失敗は許されないは、…もしかしたらユンが子供のころにされたことを言っているんじゃないかと、そう思ったの」


ユージンはアリエスの推測を聞くと「その通りかもしれないね」と笑った。


「……な、なんで笑ってるの?また殺されそうになるかもしれないのに!」


アリエスは真剣に受け止めている様子もないユージンの反応に驚くと詰め寄った。

推測が正しいとその口で言っておきながら、冗談のように受け止めていたからだ。

もっと真剣になって、この状況をどう切り抜けようかと、アリエスはユージンともっと言葉を交わしたいのに、当の本人が軽く考えていることがショックだった。


「大丈夫。大丈夫だよ」


「……何が大丈夫なのよ…」


「そもそもこの手紙をアリスが持っているということはあの女の助けは誰にも届いていないということ。

それにあの女の企みはもうわかっていたからね」







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