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77 薬の効果

※作者は医療など詳しくありません。不適切な表現かもしれませんがご容赦願います。




思わず鼻を覆ってしまいたくなるほどに不快さがこみ上げる悪臭にアリエスは眉をひそめる。


騎士の脚力に勝てるわけないが、それでも懸命に足を動かしここまでやってきたため、アリエスは息が上がっていた。

だが大きく息を吸い込んでしまっては、不快な悪臭を吸い込んでしまうため、乱れる呼吸を何とか整えるべくアリエスは小刻みに呼吸を繰り返した。


そして今はまだ他人の家であるデクロン邸に許可なく入り込んだアリエスは、状況を理解すべくそっと浴室を覗いた。


顔を覗かせたことで更に突き刺す悪臭にアリエスは顔を歪めた。

だが浴室でなにが行われているかアリエスにはわかった。


アリエスを屋敷まで案内した騎士を含んだ四人の男性が、なにかに座る人物を支えている。

時より苦しげに声を漏らすと、聞いている側も釣られてしまうような吐瀉特有の音が浴室内に響いていたのだ。


アリエスよりも先に辿り着いたとはいえ、最初から居たと言われても不思議には思えないほどに溶け込んでいる騎士にはなんともいえない感情が沸き起こるが、アリエスにはそれよりも気になったものが見えた。

銀色に輝く愛しい銀髪。

会いたくて堪らない、無事でいるか確認したくて、その一心で友人に無理を言い公爵家までやって来たアリエスは思わず声をあげた。


「ユン!?」


「アリス!?どうしてここに…!」


いるはずのない場所に姿が見えるアリエスにユージンは戸惑った。

まさか幻覚をみているのかと疑ったが、「無事でよかった」と駆け寄るアリエスにこれは現実だと思い直す。


「無事ってどういうこと?」


「それよりこの状況はいったい……」


アリエスは大の大人を四人がかりで支え、意識が朦朧となりながらも嘔吐と下痢を繰り返す男性を横目で見た。

男性は汚れてもいいように服は脱がされているものの、冷やさないようにか体に布が巻かれていた状態だったため、ユージンはとんでもないモノをアリエスに見せずに済んだことに安心し心の中で息をつく。


「即効性のある下剤を飲ませたんだ。トラエルを体内から出すためにね。でも見ての通り父上は誰かが支えていないと…」


「下剤って…、ここまでなるほどの薬ってどんな薬を飲んだの?!」


アリエスは驚愕した。

ほとんど寝たきり(といっても状態を悪化させないため睡眠薬を飲ませ強制的に眠らせていた)になっていたと聞いていたが、自分の両親とあまり年齢の差がないはずの今アリエスの目の前で苦しんでいる男性がユージンの父親であること。

またなによりも吐瀉と下痢を同時に引き起こす程の強烈な薬を処方されたことに驚き、アリエスは辺りを見渡した。

どうやら薬を処方した医師を探しているらしい。


「…お医者様はどこにいるの…?」


普通なら患者の様子をみていそうな筈なのに医者のような人物の姿は見えない。

即効性のある薬を飲ませたのにも関わらず、だ。


「あぁ………、先ほどまでいたんだけど、転んで頭を打ってしまい気絶してしまったから移動させたんだ。だから今ここにはいないよ。薬についてはアリスも知っていると思うけど、ミズジョウバという植物から作られた薬だよ」


ユージンの言葉に、先程聞こえた物音と慌しい様子は医者が倒れた時のものだったとアリエスはユージンになにか良からぬことが起きたわけではないと安心する。

だが続けられた言葉に驚愕した。


「…って、ミズジョウバ!?」


アリエスは薬に使用した植物の名を聞くと、しゃがみ込みセドリックの顔を確認した。

嘔吐により口周りは汚れているのにも関わらず、顔を持ち上げ状態を確認するとアリエスはほっと息をつく。


「……どうやら大丈夫のようね。私は調合のやり方を知らないから知らなかったけど、うまく利用すると炎症しないみたい」


「…そんな副作用が?」


セドリックを支えたままユージンはアリエスを見上げ問いかける。

アリエスはユージンの質問に深く頷いた。


「ええ。動物にはお腹を下すぐらいで済むけど、肌の弱い人間がなんの対策もしないで触れたり口にすると腫れ上がったりするのよ。

しかも皮膚が炎症を起こして爛れてしまうとほとんど治らないの」


ユージンはアリエスの言葉を聞いて、医師の自信は本物だったことがわかった。

ミズジョウバの副作用を出来るだけ抑えて調合するためにはきっと知識も膨大な量が必要だろう。

今は忘れた薬草ともいわれるミズジョウバの使用なら、その調合方法を知っている人物も記載している書物も少ない。


「……それよりミズジョウバを服用しているのなら半日はこのままね。ちなみに公爵様はこの状態をどれほど続けているの?」


「三時間ほどだね」


「え。その間の水分摂取は?」


「出来ていないんだ。水を飲ませようとしても吐き出してしまうし…」


アリエスは固まった。

確かに吐き気がある時は無理に水を飲ませないほうがいい。

だがセドリックは普通の状態の人間ではない。

健康的とは言えない状態の人間が、嘔吐や下痢で失われた体の水分を補給することなく三時間もこの状態を維持しているのは問題ではないのか。


アリエスはセドリックをじっと観察する。


トラエルの影響でもともと顔色が悪かったのだろうが、それでも今は顔色が青ざめているように見えた。

カタカタと指先が震え目も虚ろな状態だ。

きっと水分不足による脱水症状も加わっているのだろうとアリエスは考える。


「今すぐ水を用意させて。体が水分を吸収しやすいように、お砂糖とお塩を入れたものを!」








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