75 買い物3と薬
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ユージンは薬草として使用するミズジョウバを公爵家に持ち帰るとすぐに医師のもとに向かい渡した。
丁寧に包まれた布と紙をはぎ取り、医師は安全面を整えてミズジョウバであることを確認すると早速作業に取り掛かる。
まずミズジョウバを手に取った医師は根元から五センチほど残し、根や葉、茎のほとんどを取り除いた。
そして陽に浴び緑色に変色した皮の部分を剥ぎ、真っ白な根本だけを残すとさらに刻む。
何で判別しているのかユージンにはわからなかったが、根元から五センチほど残していた部分は今では一センチほどしか残っていない。
医師はミズジョウバを磨り潰すと沸かしていた熱湯を注ぎ、ミズジョウバの成分だけを抽出するかのように清潔な布で越した。
その布を事前に作ってあったのか複数の液体に混ぜ合わせると「出来た!」と叫ぶ。
それぞれの色はきれいに見えても混ぜ合わせてできた完成品にユージンは思わず眉を潜めた。
「そんな顔をしないでください。これは即効性が高い下剤なのですよ!しかもミズジョウバの副作用がでないよう配合には最善の注意も行いました!」
胸を張る医師にユージンは苦笑する。
「そ、そうか…。なら早速父上に飲ませようか」
「畏まりました。…ですがこれは即効性が高い薬です。公爵様が摂取したその瞬間ありとあらゆる物が飛び出すことでしょう。
その為、最低限の準備はした方がよろしいかと……」
真剣な表情で冗談のような忠告をする医師に、ユージンは本気であることを察する。
直接的な言葉は使っていないものの、下剤ということでなにがセドリックから飛び出すかをすぐに理解したのだ。
ユージンはすぐに使用人に指示した。
汚れてもいいように寝室から場所を変え、介護用に使う持ち運びができる便座を早急に手配する。
今から注文すれば時間がかかるため、ユージンは人を使って遣いに出した。
早急の対応が必要だからである。
そうして数時間が経過し、事前準備が出来たユージンはやっとセドリックに強力で即効性の高い下剤を飲ませたのであった。
◇
一方その頃アリエスは驚愕から手を震わせていた。
目に入った玩具屋にマリア達と入店したアリエスは最初は珍しさからか周りを見渡していた。
王都にある小洒落た玩具屋に入ること自体アリエスは初めてだったのだ。
確かにアリエスが子供のころ、両親が買ってくれた玩具やぬいぐるみなど懐かしさが感じる商品も店には並ばれていたが、殆どが見たこともない商品でアリエスは目移りする。
そんな中ある掲示板に目が留まった。
「あれは何の掲示板なのかしら?」
「あぁ、あれはですね。従者に連絡を付けるためのものですわ」
「従者に?」
アリエスは教えるキャロリンに首を傾げる。
キャロリンは気を悪くすることなく、掲示板へと向かうとアリエスを手招いた。
「見てください。“〇×店に向かいます”とありますでしょう?先ほどマリア様も従者の方に声をかけていましたが、その先のお店で従者の到着が待てる状態でなくなった時など、このように書置きすることで従者がより早く戻ることが出来るのです」
つまり伝言板のようなものですわ、とマリアが補足しアリエスはなるほどと納得する。
「ですがあまりにも不用心ではありませんか?犯罪に利用されるかもしれませんよ?従者を連れずに行き先を宣言しているようなものですし……」
「それなら問題ありませんわ。この掲示板の利用は基本的には暗号化が推奨されておりますの。
本名をそのまま書き起こして残す方はいませんし、お店の名前も事前に打ち合わせしておけばその通りに書く必要もない。このメモ書きをそのまま受け取る方は少ないですわ」
「そうなのですね……」
アリエスはマリアの説明に、(それなら問題はないのかもしれない…)と納得するとナルシスに渡すプレゼント選びを開始する。
どれがいいか、どれが喜んでくれるか。
言っては何だがシリウスに渡すプレゼントよりも真剣に選んでいたアリエスは、棚に隠すようにひっそりと置かれたメモ用紙を見つけた。
掲示板に貼れなかったのかなと、アリエスは四つ折りされた用紙を掲示板へと張り付けるために開く。
「……っ…」
アリエスは思わず漏れた口を塞ぐ様に手で押さえた。
だがマリア達がアリエスの変化に気付くことはなく、変わらない様子で「そういえば弟さんは何歳ですか?」と尋ねている。
アリエスは動揺を悟られることのないよう手にしていた用紙を手に握りしめ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい。急用があったことを今思い出しましたの」
「あら、そうなのですね…」
残念そうなマリアとキャロリンにアリエスはもう一度謝罪すると店を後にした。
そして走りだす。
はしたないと思われても構わない。
それだけアリエスは急いでいた。
そして馬車を貸し出す店へとたどり着くと、馬を一頭貸してくれるように頼みこみ、その馬でデクロン公爵家へと向かったのだった。




