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その為二人はアリエスの質問にこう答える。


「そうですね、カルン様には握りやすい万年筆をと考えているのですが……、初めてカルン様にプレゼントをしたとき私、ハンカチに覚えたての刺繡をしましたの。

あの頃の気持ちに戻った時のように、初めて渡した時と同じ刺繍をしてプレゼントしても……とも考えていますわ」


「ハンカチに、刺繍を……」


「私は手帳をと考えていましたが、マリア様の真似をして初めてプレゼントしたものにするのもいいですね。

そうしますと、私はリボンにしましょうか。小さい頃のロジェ様は髪の毛が長く、邪魔にならないよう後ろに結んでいたんですよ」


思い出すように目をつぶって話すキャロリンは、懐かしいなぁと口にする。


「ですが今は髪が短いですよね?」


「では予定通り手帳を選び、かわいらしいリボンをつけましょう」


「まぁ」とマリアはクスクスと笑い、アリエスは「……そういう感じでいいんだ」と小さく呟いた。

そんなアリエスの呟きを馬車の向かい側に座っていたマリアとキャロリンはしっかりと逃すことなく拾い上げ、「デクロン子息様へのプレゼントも買われては?」と問いかける。

まるでアリエスがユージンに贈るプレゼントを既に悩んでいることを知らないように。


「え、でもまだ婚約していないですし…」


「あら。婚約できていなくても想いが通じ合った恋人ですよ。プレゼントを贈るのは可笑しいことではありませんわ」


「そうです。私たちもお役に立ちたく思いますわ。是非プレゼント選びを手伝わさせてください」


マリアとキャロリンの言葉にアリエスは「それでは、よろしくお願いします」と嬉しそうにほほ笑んだ。


そうして馬車から降りるとアリエスはまずは兄のシリウスに渡すプレゼントを選ぶ。

紳士服や男性用のアクセサリーを取り扱う店へと入ると、マリアに伝えた通りアリエスはカフスボタンに目を通し始めた。


「そういえばアリエス様のお兄様はアリエス様に似ているのですか?」


「ううん……、どうかしら?私はそこまで似ているわけではないと思っているのですが、……でも髪色は同じですわ」


そう答えたアリエスは兄のシリウスを思い浮かべる。

真顔だと怖い印象を与えるアリエスに対し、シリウスは垂れ目がちでほんわかした印象を与える顔立ちだ。

そんな自分と兄が横に並べばきっと似ていないと口にする人が多くいるだろうが、何故かユージンには似ているように見えるようで、初めて兄と顔を合わせた後届いた手紙には“お母様もだけどアリエスの家族はみんな似ているね”と書かれていた。

もしや同じ髪色のことを言っているのではないかと思ったが、あれからユージンは忙しい日々を過ごしているため、シリウスとどこが似ているのか、詳細を尋ねることが出来なかったのだ。


アリエスの言葉が参考になったのかわからないが、マリアとキャロリンはアリエスが選んだカフスボタンを見ると「似合いますわ」と口にした。

おそらく髪色が同じということで、色合いのバランスが取れているからだろうとアリエスは思ったが、それでもシリウスが気に入ってくれればいいと選んだカフスボタンを購入。

プレゼント用に包んでもらっている最中次にどこに向かうかを決めていた。


「私いい場所を知っていますわ。近くにハンカチの専門店が出来ましたのよ」


「まぁそうなのですね、それではそこに行きましょうか」


「ええ。離れていませんので私たちだけで先に向かいましょうか。購入したプレゼントは従者に受け取りをお願いすればいいですし」


「……そうですね。まだ時間がかかるようですから」


アリエスはまだ包装が終わらない様子を確認するとマリアの意見に同意した。

キャロリンも反対することなく受け入れ、三人は店から出るとマリアが言う最近できたばかりのハンカチ専門店へと向かうことにする。


「ほら、あそこです」


マリアが指をさした先は紳士服店から五件店を挟んだ場所にあるこじんまりとした店だった。

ハンカチは服に比べ大きな布地を飾る必要がないからか店自体は小さく感じるも、店の外観は明るめな色を複数色使った屋根が可愛らしい印象を受ける。

そんなお店を目にしたキャロリンとアリエスは嬉しそうに笑みを浮かべた。


通りを歩く人を避けつつマリアが勧める店へと向かう途中、アリエスはふとある店が目に留まり足を止める。

アリエスの目に留まった店とは子供用の玩具を取り扱う店だった。

アリエスは思った。

兄とユージンだけでなく、ナルシスにもなにかプレゼントを贈ってはどうかと。

義務感からではなく、純粋な気持ちからそのように思ったのだ。

ナルシスは親だけではなく、兄であるユージンと、生まれ育った家から離れ今ウォータ邸で過ごしている。

毎日楽しそうに笑ってはいるが、それでもやはり寂しい気持ちにさせているのではないか。

プレゼントで寂しい気持ちをぬぐえるわけではないが、それでも幸せな気持ちにはさせてくれるだろうとアリエスは思った。

その為「…この店に入ってもいいかしら?」とマリアとキャロリンに尋ねる。


不思議そうに首を傾げる二人に対し、アリエスは詳細な理由を伏せてユージンの弟を預かっているとだけ説明すると、二人は追及することなくただ弟を預かるという言葉だけに反応し、「それならお土産が必要ですね」と頷いてくれた。

アリエスはいい友人と出会えたことを改めて自覚すると幸せな気持ちになった。


そうしてユージンへ贈るプレゼントの前に、ナルシスへのプレゼントを選ぶため、立ち寄った店でアリエスは想定外のものを見つけることとなる。





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