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71 複雑な心


※ここでも作者設定の薬草名が出てきますが、オリジナルのご都合設定ですのでご容赦願います。




それからはあっという間に進んだ………かのように思えた。


実際、成分分析を依頼している業者に対してはオロリマーから聞いたトラエルがグラスにも使用されていること、そしてワインを注いだ時とただの水を注いだ時の成分の溶解についても確認してもらった。

結果は想定した通りで、水を注いだ場合ではトラエルは溶けださず、ワインを注いだ時は思わず目を疑ってしまうくらい綺麗にワイン全体に広がったことが分かった。

つまりグラスに注がれたワインはたった一口飲んだだけであってもトラエルを摂取してしまうということである。


ユージンは医者にも成分結果を告げ、早々に薬づくりに取り掛かってもらった。

以前話をされたように下剤を作るため、医師は早速薬草を販売している薬屋のもとに向かう。

だが戻った時の顔色は暗かった。

ユージンは医師に状況を確認すると、必要な材料が足りないということだった。


「ミズジョウバ、といったか、それでないと薬は作れないのか?」


ユージンは医者に問いかける。

医者の言うミズジョウバという薬草……に指定されていた植物は現在毒物として指定されていると告げられる。

何故そんな危険な薬草を使うのか。

ユージンは理由を尋ねると医者は言った。


ミズジョウバとは昔、毒素等を排出するための嘔吐剤や下剤として、速攻効果のある薬の材料として利用されていた。

だが扱いが非常に難しい薬草であり、素手で植物の葉や茎を傷つけてしまえば流れる汁で皮膚を爛れさせ、少しでも使用する部分を間違えると効能である吐き気や下痢だけではなく、脈拍の低下やひどい時には呼吸困難までも引き起こす危険性がある。

そのような危険性を考慮し、現在では薬草ではなく毒草として指定され、忘れられた薬草と一部には言われてきたのだ。


医師は言った。


「公爵様の容態は本当に危ういのです。今すぐにでも毒素を排出させなくてはなりません。そのためには即効性のあるミズジョウバでなければならないのです!」


医師の言葉に対しユージンは頭を悩ませる。


「だがその毒、…いや薬草は今はないのだろう?どうやって入手するというんだ?」


ユージンは不思議そうに尋ねたが、忘れられた薬草として姿を消したミズジョウバは完全になくなったわけではない。

王都などの都市部では見かけなくなったとしても、自然豊かな山には普通に生えている植物だ。

だがそれを取りに行く時間的余裕や屋敷を開けるという精神的余裕もない。

というか、ユージンはミズジョウバの姿かたちさえ知らなかったため、少しの好奇心でミズジョウバがどのような見た目をしているのかを尋ねた。

するとどこからともなく取り出した分厚い辞書を引き、医師はミズジョウバをユージンに教え込む。

まるでとってこいとでもいうかのように。

だが、ユージンはそのミズジョウバが描かれたイラストを見てハタと気付く。

最近訪れた家の庭で見た花にそっくりだったのだ。

勿論それがミズジョウバであるかまでは定かではないが、それでもユージンは深く息を吐き出した。


「………今度は吉報を、と思ったんだが…」


「え?」


「いや、なんでもない。それがあれば薬は作れるんだな?」


「は、はい!その通りです!」


心当たりがあるかのようなユージンの反応に、表情を明るくさせた医師は笑顔で頷いた。

そして小さくため息をついたユージンはつい先日も訪れたばかりの屋敷に向かうべく馬を走らせる。


「……全く、本当に僕は助けられてばかりだな」


それでも薬草が手に入り、セドリックの症状が少しでも改善されればすぐに決着がつくだろう。

あともう少しだ、とユージンは吉報を待ち望んでいるだろう恋人の元へと駆けたのだった。




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