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63 少し前の話







ユージンがワイングラスへと的を絞り、人体に影響がある成分がある材料が使われていないか調べるよう指示を出した頃、ユージンの従者であり、ユージンが立ち上げた事業の一つである情報部門一従業員でもあるデインが戻る。


ユージンはまだセドリックの容態もイマラが仕掛けた毒の存在も知らなかった頃、デインにイマラの情報を集めるように依頼したため、デインがどこまで情報を収集出来ているか気になっていた。

どうか実のある情報が一つでもあってくれ、とユージンはデインに調査報告を促す。


「イマラ・デクロン公爵夫人はメトキシス男爵の三女で、デクロン公爵家で使用人として働いていました。

貴族の身分ではありましたが貧乏貴族だった為、マナー教育も十分ではなく、結果下級使用人として働いていたようです」


ユージンは目を閉じながら聞いていた。

執事に聞いた話だったために特に反応することなく「それで?」と返す。


「使用人としては特に目立つところもありませんが、一点だけ気になる点がございました」


「それはなんだ?」


「マントゥール侯爵家の次男と関係を持ったと思われることです」


「関係…?」


ユージンはデインの言葉に眉を顰めた。


「前公爵夫人であられるデメトリア様の葬儀の際、当時働いていた者に話を伺いましたが、イマラ様の姿が見えなかったと言っていました。

下級使用人といっても貴族ですし、また平民に押し付けてサボっていると思われていたようで、当時は気にしていなかったそうですが、案内役を任されているわけでもないのに他家の者と一緒に姿を見せたこと、そして公爵夫人になった途端下級使用人を総入れ替えしたことを考えると、当時秘密にしなければいけないような、……いかがわしいことでもしていたんじゃないかと……。

勿論これは憶測でありますが、マントゥール侯爵家の次男は女性関係の話が尽きないようで、信憑性はありますね」


デインの言葉にユージンは眉を潜めると、十分な間を開けて口にした。


「……それは、僕とナルシスの間に同じ血が通っていない、ということか」


ポツリと呟かれた言葉はどこか悲し気に聞こえた為、デインはユージンの表情を確認した。

ユージンの表情からは感情が読み取れなかったが、それでも付き合いが長いことからユージンは悲しみと怒りを感じているように思えた。


「…まぁ、いい。他に情報はあるか?」


デインはユージンが発言と同時に気持ちを切り替えられたことを悟ると、問いかけることなく続きを話す。


「どうやらマントゥール侯爵家次男との関係は繋がっているもの、と考えられます。偶然にしては可笑しいほど、同じ店を同じ日に同じようなタイミングで利用していました」


「一緒にいるところを目撃したものは?」


「ございません。ですが店のどこかにやり取りしている紙を隠していると考えると、入店するタイミングだけをずらせばやり取りはできます。またマントゥール家の後に予約することが多い、という不自然さにも辻褄が合います」


「そのやり取りの証拠を手に入れることは?」


「イマラ夫人の行動を制限していただければ……」


「あの女の動きを封じる必要があるのか…」


デインは既にマントゥール侯爵家とイマラが同日に予約している店を突き止めていることをユージンに報告した。

次にやり取りを交わすと思われる日は一週間後。

ユージンはどうするかを考え頭を悩ませる。


セドリックとイマラが再婚した理由は、セドリックがイマラに酔った勢いとはいえ体の関係を迫り、そして孕ませたことが理由だ。

イマラが生んだナルシスはセドリックとは何ら関係もないこと、そして本当の父親がマントゥール侯爵家の次男であることがわかれば、高位貴族であるセドリックを欺き、そして殺害しようとした罪で離縁だけでなく、イマラを逮捕することもできる。


だが一週間という短い時間でセドリックとナルシスとの親子関係は出来ても、イマラが仕掛けた証拠となる成分分析には時間が足りなかった。

ユージンはイマラを離縁だけでなく、殺人未遂としての罪も認めさせ罪人として裁きたいと考えているのだ。

その為ユージンは悩んでいた。


イマラの所為ではあるが、病弱な父に構ってもらえない寂しさを親戚であるマントゥール侯爵家の次男が埋めた、といいわけされたら醜聞にはなるがそれまでだからだ。

そもそもイマラがマントゥール侯爵家の者とやり取りしている証拠を掴んだとしても、それがセドリックを陥れた確実な証拠となる可能性だって低い。


「……ちなみに、次に予定されている店はどこなんだ?」


「子供服を取り扱う店でした」


「子供服……」


ユージンは考えた。

ナルシスを別の場所に移してしまえば、イマラがこれ以上なにかを企むこともできなくなるだろうと。

流石に教育も満足に修了できない学のないイマラが一人で企んでいたとは思えない。

そもそも子供が使う遊び道具や教育のための教材など、子供本人がいなくても構わない店はあるが、子供服は違う。

成長が早く、その時その時の身長に合わせ採寸して作られる為、ナルシス本人を連れて行かないわけにはいかないのだ。

その為、ナルシスを別の場所に移し、イマラの計画に利用できなくさせれば必然的にマントゥール侯爵家の次男とのやり取りがなくなり、これ以上の悪さは出来ないだろうと考えたユージンは、暴力を振るわれるナルシスのためにもそれが一番の対応だと考える。


ユージンはデインにイマラが部屋をあけるタイミング、マントゥール侯爵家の次男とのやり取りを行っている証拠品を探すよう指示を出し、ナルシスへの説得のため、なんと話せば理解してもらえるのか頭を悩ませたのだった。





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