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61 判明と避難先





アリエスは一週間ぶりに恋人と顔を合わせた。


家庭の事情で学園に通うことが困難となったユージンが一時的に休学を選択したことから、顔を合わせ言葉を交わすことが出来なかったのだ。

アリエスの方から伺うことも考えたが、ユージンの幼いころの事情と一週間前に聞いた公爵家の現状を考えると、安易に会いに行くことははばかれた。


面倒ごとに巻き込まれたくないということではなく、ユージンの負担になるわけにはいかなかったのだ。

その為一週間ぶりに顔を見ることが出来たアリエスは、ユージンの表情を見て少しだけ涙を浮かべる。


「それで、毒の特定はできたの?」


アリエスは聞いた。

つい先日届けられた手紙で、イマラが作りセドリックに贈ったワイングラスが怪しいこと、そのワイングラスは今成分分析にかけるため専門業者に送っていることを伝えている。

流石に一週間で成分を特定することは出来ないだろうが、それでも進展はあったのかとアリエスは尋ねた。


「ううん、まだなんの連絡も来ていないよ。それより……」


言い淀むユージンにアリエスはハッとし、まだ外だったことに気付く。

忙しいのに、疲れているだろうユージンを屋敷にも入れず外に立たせたまま話をしだす自分に気付いたアリエスは「ごめんね」と謝り、応接室に案内しようと背を向けた。

ユージンはそんなアリエスの腕を掴み引き留める。


「あ、ちょっと待って。お願いがあって連れてきたんだ。紹介するね」


「お願い?」


アリエスは首を傾げ、不思議そうにユージンを見上げる。

アリエスに届けられた手紙には弟の話は書いてあったため、今から紹介する人というのは弟であることが予想できたが、お願いしたいことがわからなかった。


「僕の弟だよ。……ナル、おいで」


ユージンは乗ってきたデクロン公爵家の馬車へと振り返ると手を伸ばし声をかけた。

アリエスはユージンの体から顔を覗かせ、馬車から降りる人物を待つ。

そして姿を見せたのは小さな子供だった。


金髪で、あまりユージンには似てはいなかったが、それでも不安になる気持ちを大きな目でユージンに訴える子供の姿に、アリエスは胸をガッシリと鷲掴みにされた気持ちになった。

小さく「かわいい…」と呟くアリエスに、ユージンはむっとする。


「アリスは僕がタイプなんだと思っていたんだけど」


自信過剰なユージンの発言はばっちりとアリエスに届いた。

だがユージンがいっても違和感はなく、寧ろ当たり前のような錯覚すら感じるため、アリエスは“何故知っているの!?”というかのように慌てていた。

そんなアリエスの反応にユージンはクスリと笑う。


「……冗談だよ。ナルは僕でもかわいいと思うからね。アリスがかわいいって感じるのも当然だよ」


「う、うん。そうだね」


アリエスはユージンの言葉に赤い顔のまま同意すると、コホンと小さく咳払いをして、ユージンの弟であるナルシスに近づきしゃがみ込んだ。


「初めまして。私はアリエスよ。よろしくね」


「あ、あの、ボクはナルシス。ナルシス・デクロンっていうの。……今日からよろしくね?」


「うん!ナルシス君だね。私のことは好きに呼んでいいからね」


「う、うん!じゃあ……お、お姉ちゃんって呼ぶね」


アリエスは初めての“お姉ちゃん”呼びに心臓がぎゅんと跳ねた。

ユージンとは違う意味で可愛い目の前の子供は、決して顔立ちに関してはユージンに似ていない。

だが、可愛さという共通点を考えればかなり似ている。

寧ろ似ていない部分なんてないといえるほどに、アリエスは昔のユージンを思い出す。

そして流石は兄弟だと思った。


アリエスは早速ナルシスの手を握ると、ユージンとナルシスを応接室へと案内する。

応接室では待ち構えていたように待機しているシリウスがいて、ナルシスを見るとにこやかに微笑んだ。


「その子がうちで暫く預かって欲しいと言っていた子ですね」


シリウスの言葉にアリエスは驚きユージンを見る。

そんなアリエスの反応を見たユージンは首を傾げながら問いかけた。


「……急遽決めて急いで連絡したんだけど……もしかして聞いてない?」


「聞いてないわ!…ちょっとお兄様!」


アリエスは声を上げてシリウスへと詰め寄ったが、シリウスは楽しそうに笑い、逃げるようにアリエスから距離をとる。

そんな見方によっては楽しそうに遊んでいる二人の様子をみたナルシスは悲しげに目を伏せた。




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